家出
あらすじ
碇浜かなえは、大ヘビを使える少女。父親と押し込み強盗に加担した事で警察の監視対象になる。彼女は玲子の従兄の家に居候していた。
「かなえが消えた」
天之宮武雄が私に近づくと深刻そうな顔で報告する。私はすぐには反応できない。
「家出?」
思春期の女の子ならありそうだが、かなえに限ってそれは無いと思えた。彼女は理知的な部分もある。損得勘定ができる。自分が不利になる事はしない。目的があると予想した。
「警察には連絡した?」
私は武雄の手を引っ張りながら廊下に出た。監視対象のかなえは逃げれば罪になる。下手すると牢獄とかに入るのかもしれない。かなえが何もない部屋で膝をかかえているイメージが浮かぶ。想像すると辛くなる。
「いや、まだなんだ、どうすればいいのか……」
武雄にしては優柔不断だ。逃げたと言っても事故の可能性もある。大げさにするのはまずいと考えているのかもしれない。
「私が警察に電話する、武雄は教室に戻って」
敷島泉捜査官に電話する。直通電話で緊急時に使えと教えられた。広域呪術特別対策課の彼女は、霊障対応の刑事だ。
「……はぃ、泉です」
眠そうな声がする。
「もしもし、氷室玲子です」
「監視対象の事?」
仕事モードの声になる。私は事情を説明した。ただし逃げたとは言わない。行方不明と伝える。
「こちらで対応するので、あなたは何もしないで、見かけたら電話して」
電話が切れた。
私は教室に戻る。舞子が私を見ている。心配している。同級生の異変には敏感だ。彼女もかなえのために苦痛を味わった。それでも仲良くしている。かなえの苦痛を理解している一人だ。舞子にはそれとなく話して授業を受ける。
昼になると八重と舞子で、お弁当を食べる。部活動の部屋は私達だけの空間だ。二人には心配はしなくていいとは伝えた、かなえを見かけたら自分に知らせてと念を押す。
「探してはダメですか?」
八重が提案する。彼女の旦那になる大神十郎の力を使えば探索できる。犬神が使える彼は、使役獣を使える。おずおずと力を貸したいと意思表明をした。私はその部分も危険に感じた。
「今は警察にまかせましょう、トラブルになるかもしれない」
「トラブル?かなえを探さないと」
舞子がいつになく興奮している。私は警察の捜査でも見つからないなら、もっとなにかしらの計画で動いている事を指摘した。
「かなえが消えた理由が判らないの、下手に動くと危険よ」
八重と舞子が私を見る。なにか友達として欠陥があるような目つきだ。心が痛い。それでも私はかなえの危険性を理解しているつもりだ。かなえは他人を催眠状態にして使役できる。死すら命令できる。
「おねがい、見かけたら私に知らせて」
その日の昼食は楽しく感じない。みながそれぞれの考えに没頭していた。
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「ただいま」
家に戻ると妹の愛優がテレビを見ていた。この子は昭和生まれか。
「おねえちゃん、なんか隕石が降ってくるって」
テレビではNASAが地球軌道上に急接近する小惑星の解説している。直径が十数キロもある。恐竜絶滅と同じ大きさだと言う。ただし接近しても月の内側に入る程度なので心配は無い。
「大丈夫よ、落ちてこないから」
愛優が素直にうなずく。私は夕飯の仕度を始めた。
続く