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玻璃一族シリーズ

未必の故意

作者: 川里隼生

 私、海桜かいおう苗子なえこは、クラスメイトの天道てんどうかもめちゃんを毒で殺しました。今は佐賀少年刑務所で服役しています。罪名は傷害致死です。殺人罪にならなかったのは、裁判で私に明確な殺意がなかったと判断されたからです。


 かもめちゃんに毒を飲むよう言った訳ではありません。ミント味のタブレットだと嘘をついて一粒渡しただけです。裁判ではかもめちゃんがそれを飲む保証が認められず、毒も計算上の致死量より僅かに少なかったため、私に『未必の故意』があったとされました。


 もしかしたら死ぬかもしれない、でも死んでも構わない。群衆の中でナイフを空めがけて放り投げるような、それくらい適当な心理状態だったと思われたのです。私にとっては不満でした。私としては、明確な殺意を持ってかもめちゃんを殺したつもりだったのですから。


 弁護士の先生や検察の方からも動機については繰り返し尋ねられました。私の回答は一貫して『怖いことをしてみたかったから』でした。高い所に登る子供と同じような感覚、と話したこともあったと思います。ですが、本当の理由は周りの大人たちにはお見通しだったようです。


 格好よく言うなら、痴情のもつれ。正確に言うなら、私がかもめちゃんを一方的に恋敵だと思い込んでいたから。私がこの動機を面と向かって告白したのは、あの密室殺人の犯人が私だと見抜いた探偵だけです。その探偵、玻璃はり光彦みつひこくんのことが、私は好きです。


 刑務所では考え事をよくするようになりました。殺人だろうと傷害致死だろうと、私が犯した罪は簡単に許されることではないと、今更ながらに理解しました。面会に来てくれるかもめちゃんの家族が、心の中では私を呪い殺したいのではないかと考えると、身勝手なことに悲しい気持ちが溢れてきます。


 探偵は私に言いました。犯罪者でなければ私のことを好きになっていたかもしれないし、罪は償うことができる、と。だから私は今、ここで自分の罪と向き合っています。恋をしても構わない。探偵にそう言ってもらえるように。人を殺めておきながら、罰当たりな夢を抱いています。

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