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女の甘い蜜

 欲しい。欲しい。俺はそれを欲していた。

 俺はとても裕福だ。仕事もできるし気の置けない友人もいる。

 ただ俺に一つ不足があるとすれば、それは愛せる女がいないことだ。二十を過ぎたというのにまだ、女の甘い蜜を吸った経験がないのである。

 一度それを経験してみたかった。

 キャバクラにでも行けばそれが叶うのかも知れない。が、金で体を売るような女とは交わりたくないのだ。

 出会い系サイトというのがあるらしいが、それも変質者ばかりと聞く。もっと高級で、上質な女がいい。

 友達に相談してみることに。すると友人は、「いい女がいる」と言った。

「彼女は深窓の令嬢でね。処女と聞くし、君に似合うと思うよ」

 これほどうまい話はない。

 早速俺はその女のいる場所へと向かった。


 ――そこは大きな屋敷であった。

 俺は単身でここに乗り込む。友人もついてこようとしたのだが、俺が固くお断りした次第である。

 戸を叩くと、使用人らしき女性が顔を出した。

「お嬢様にご用事ですか?」

「はい。友人に話を聞いて、お会いしたく思いました」

 俺はぺこりと頭を下げる。

「そういうことですか。ではどうぞ」

 使用人女の案内のままに、俺たち二人は中へ足を踏み入れた。


 屋敷の一室、そこに彼女の姿はあった。

 赤い着物を纏った若い娘。横顔が凛としており、立ち姿はとても可憐だ。

 彼女こそが例の女なのだろう。

「あら初めまして。私、美津子と言います」

 美しい。こんな女に出会ったのは、今までなかった。

 俺が自分の名を名乗ると、彼女は優しく微笑む。

 それから、俺と美津子、使用人の三人でしばらく談笑した。幸い、屋敷の主人は留守だったのだ。


 使用人が「お茶を」と部屋を出ていく。そのタイミングを狙って、美津子は使用人に命じた。

「夕食も作っていらっしゃい。入る時には必ずノックするのよ」

「――? は、はい」

 何やら不審に思ったようだが、使用人は黙って出て行ってくれた。

 これで二人きりになった。

「使用人は一人だけかい?」

 俺が聞くと、美津子はこくりと頷いた。

「ええ。雇っているのは二人で、そのうち一人は今は父について行っているから」

 それなら安心だ。

 俺はいよいよ、本題を切り出した。

「俺は、君とやりたい」

「あら。すごく端的におっしゃる方なのね。それでは女に嫌われてしまいますよ?」

 しかし美津子は嫌がる様子を見せない。それどころか、ずるりと真紅の着物を剥いでしまった。

「ここでやるのか?」と驚く俺に、躊躇いなく首肯する美津子

「やれるのは父のいない今のうちだもの。人度関係を結んでしまえば、それまでよ」

 そして彼女はソファに横たわる。

 いいのだろうか。本当にいいのだろうか。

 俺は今更汗をかいて焦っている自分が恥ずかしくてならなかった。

「行くぞ」

 服を脱ぐ。胸の鼓動が激しく高鳴っていた。

「――どうぞ。存分に味わってちょうだい」

 そこまでいうなら遠慮はいらない。

 俺は彼女に、まるで猛獣のように食らいついていった。


 俺はその瞬間、一人の男として初めて満たされた気がした。

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