彼との結婚指輪
あなたと私の思い出の、大事な大事な結婚指輪。
あなたが初めて私の指にこれをはめてくれた日のこと、一生忘れない。
金の台座にダイヤが光っている。数十万? いいえ数百万したかも知れない。とても綺麗で、見ているだけで心がウキウキする、そんな素敵な指輪。
あなたにはたくさん彼女がいるのよね。
百人くらい? いっぱいいっぱいいるのよね。
でもあなたは彼女たちの中で、私を一番に選んでくれた。そのことが私はとっても嬉しかったの。
結婚指輪は私の細い指には少しぶかぶかだったけれど、あなたは「よく似合っているね」って笑ってくれたわ。
私とあなたはこれで結ばれている。永遠に。
なのにあなたは私を裏切った。
ガリガリになって魅力が無くなったから? 新しい女ができたから?
捨てられた私。結婚指輪は壊されて、愛の証が粉々に砕け散った。
――信じられない。許せない。
その時、今まで心の奥底にしまっていた怒りが、一気に湧き上がった。
私をこんな風にしておいて、見捨てるなんて。
あなたがその覚悟なら、私にだって手があるわ。私はゆっくりと身を起こし、亡霊のようにあなたの元へと向かった。
『これであなたも私たちの仲間入り。気分はどう?』
私は、彼を見下ろしてそう嗤う。
部屋の中は乱戦の名残があり、かなり荒れていた。
その真ん中に倒れる彼は何も答えない。が、きっとこの言葉は届いているはず。
『無視しなくていいのよ。これで本当の本当に、あなたと結ばれるのね。――指輪を』
壊れて宝石が欠けた結婚指輪をはめる。
すっかり骨同然になってしまった指にはやはりガバガバだ。ずり落ちたらいけないから、私は指を上に立てた。
さあ、これから念願の式を始めよう。
たくさんの哀れな彼女たちと共に、彼との結婚祝いを。