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愛の形

 人によって、愛の形はそれぞれだ。

 まるでドラマのような、本当に惹かれ合う素敵な愛もある。親が子供へ向けるようなそんな愛も、変質者のように偏った愛も存在する。


 押しつけの愛が伝わらず、事件を起こした変質者も数多い。


 愛は人を歪めることもある。僕も歪められた一人だろう。


 僕には『お母さん』がいた。

 僕をいじめ、体罰をくれた彼女。僕はそれが普通だと思っていたし、苦痛に感じたこともなかった。

 けれど壁が破られた時、そんな暮らしに文字通り亀裂が生じた。

 警察に取り押さえられ、泣き叫びながら彼女は言ったんだ。


「……私はあの子を愛してるの!」


 これが彼女の愛の形であったのだと、僕は初めて知った。


 愛とは一体何なのだろう。

 幼子を連れ去り、虐待をしても「愛している」のだろうか。

『お母さん』の言葉には、嘘が感じられなかったのだ。


 僕は本当の家族の元へ帰された。優しくされたし思い通りにさせてもらった。それも愛の形なのだと知った。でも僕は、本物の母親には『お母さん』と呼ぶことができなかった。

 どうしてだろうか。


 僕は学校へ行った。人が怖く喋らない僕は、いじめの対象になった。

 しかし僕はそれを快く感じてしまった。いじめっ子たちもつまらなそうにして去っていってしまった。


「ああ、僕は愛されていないんだ」と僕は気づいた。その時痛みを知った。

 愛されたい。愛されたい愛されたい。


 家族が向けてくる生やさしい愛なんていらない。

 友達が向けてくる無関心なんていらない。


 僕はかつての『お母さん』にもらったような、そんな愛がほしくてたまらなくなった。


 夜、街に出る。

 可愛い女の子に出くわすと、僕を痛ぶってとお願いしてみる。

「キモい」だの「変態!」だのと言われても、僕は必死でそれを続ける。それすら快楽だったのだ。


 この世界には、変質者の偏った愛というものもある。

 僕は一人の少女に恋をした。彼女だけが僕に本当の愛をくれたから。


 殴る、蹴る、罵声を浴びせられても僕は彼女の後を追った。

 それは恋心だったのか、母へと向けるそれだったのかはわからない。

 ある日彼女の家に潜んでいると、タンスが突然開いて彼女が包丁を向けてきた。僕はその時、最高に嬉しかった。


「キチガイ」


 僕の胸から熱いものが湧き出す。

 僕は本当に幸せだな、と思った。


 人によって、愛の形はそれぞれだ。

 愛は人を歪める。

 もしかすると、彼女もその被害者なのかも知れない。

 そして僕も、その一人。

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