散歩
ある年の8月、東京は最高気温34℃記録した。
「あっちぃ…」
額の汗を持ってきたタオルで拭い、学校までの道をひたすら歩いていた。
「なんでこんな暑っつい日に自転車壊れるんだよ」
実はいつもこうして歩いている訳では無い。朝起きて自転車に乗ろうと思ったらタイヤが切り裂かれていたのだ。
ここ数日、自転車や車のタイヤが切り裂かれたり釘が刺さるように細工されていたりなど多くの事件が多々発生している。事件が起きているのに自転車をしまって置かなかった自分も悪いのだがまさか俺の自転車が…ってところではある。
まあでもたまに歩いてみるのもいいものだ。
毎日登下校をしている道だけど歩いていると実際色々発見がある。
こんなところに花が咲いているんだ。とか、こんなところに祠があるんだとか。道に何故か置いてある花束が変な感じがした。
「本当にあつい…」
学校で飲むはずだった水筒もこの登校で使い果たしてしまいそうだった。
「ん?」
目の前に蜃気楼が見えた…と思ったら1人の女の子が立っていた。
「おはよう。僕くん!」
白いワンピースを着て、麦わら帽子を被る彼女は後ろで手を組んでこちらを見ている。
「えーと…誰ですか?」
見覚えはない、同い年ぐらいにみえる。
こんな美人は知らない。
「覚えてなくてもいいよ。少し一緒に歩こうか?」
夏には似つかわしくない白い肌をした彼女はそう言うとびっくりして静止している自分の横にピトっと寄ってくる。
見に覚えはないが話しているとどうやら昔よく喋った仲らしい。
「昔、僕くんの家でオセロしたの。私あの時すっごく強くてさ。今はもう勝てないかもだけどまたしたいね」
「そうなんですか。自分も最近やってないんで多分いい勝負ですよ」
「ふふっ、どうだろうね。今度しよっか。」
話題は基本時に昔の話だ。しかし一向に思い出せないのが本当に謎だった。懐かしいとも、なんともならない。
「そろそろ学校着くんでここら辺で!なんか思い出せなくてごめんなさい。また話しましょ。」
そう言うと彼女は歩くのを辞める。振り返り手を振ると彼女は手を振り返しニコニコと笑っていた。
「んーん。謝らないで!私こそ楽しかった!」
手を口元に当てそんなに遠くないのに叫ぶから周りの友達に見られてしまいそうで恥ずかしかったが、あんなに可愛い女の子と歩いてきたのを誇らしく思えもした。
「よう、誰に手振ってんだ?」
クラスメイトの岸田が自転車を押しながら横を通る。
「誰ってあの子だよ。」
岸田に伝えようと指を指すと、そこにはもう彼女の姿はなく蜃気楼がふわっと消えていった。
ひぐらしが鳴く帰り道をまた彼女に会えないかと思いながら歩いていた。
「名前聞くの忘れちゃったな。」
大事なことを思い出せてない気がするがそれも何も分からない
結局、彼女に会うことなく家についてしまった。
「なんかあった??」
授業が終わり家につくと母親たちがバケツに仏花線香をもってお墓参りの準備をしていた
「今日10年目の命日だからね。制服のままでいいから行くよ。」
ばあちゃんもじいちゃんも健在だしひいじいちゃんの命日も5月だから違う。だれの10年目の命日なんだろう。
お墓に行くまでの間みんなに聞いても誰も教えてくれなかった。
墓地に行くとたくさんの花が上がっている墓がある。
その墓を見た瞬間に記憶がかえってくる。
あれは10年前の夏。同じように暑い夏の日だった。
自転車で大好きだった彼女と走ってるいる時、横から来たトラックに突っ込まれて彼女は死んでしまった。
白いワンピースが赤く染まるのは8歳の僕には衝撃が強すぎてそこの部分だけ消えてしまっていたのだ。
止まらない涙を拭き取りながら彼女に花を手向ける。
「忘れててごめん…。オセロまたしような…」
白い肌をした彼女は蜃気楼か脳が見せた幻覚か。
また来年の今日会えることを夢見て