五話
「い、いみって、そんな、だって死んじゃうかもなんだよ!? 」
「別に、それでもいいじゃん」
二人の間に風が吹き抜ける。
「えっ? 」
「生きてて、何かいいことあった? 」
「そ、それは……」
「私はここに残る」
「何言ってるの! そんなのだめよ! 二人で一緒に逃げようよ! 二人でならきっと何とかなるわよ! 」
「何とかって、例えば?」
未来が初めて聞くような、遥華本人すら驚くほどに冷たい声だった。
「た、例えばって……」
「私たち二人、子供で、学校にもろくにいってない、私たち二人に、何ができるのか……? 意味ないよ、どうせ」
「そ、そんな、どうしたのよ、遥華! ちょっとへんだよ!? 」
「……。ごめん、未来。わたしここに残る」
春香の瞳は真剣そのものだった。
「残るって! 何言ってるのよ! わかってるの!? 残ってたら死んじゃうのよ!?」
未来の絶叫が遥華の耳にだけ響いた。
「そんなの、にげたって一緒でしょ! 私たち二人でどうするっていうの!? 」
「そ、それは」
「私は、一人でここに残る。未来は、一人で逃げれば」
一歩。
遥華が一歩後ろに下がった。
「ありがと、未来」
お礼。それを最後に言い残し、遥華は未来に背を向け走り去った。
走っているうちに遥華はいつもの原っぱに来ていた、意識してきたわけではなく、最後の三日間、自分の最期をここで迎えようと、二人の思い出の場所で迎えようと決めたのだ。
真っ暗な原っぱで一人、膝を抱えてうつむく。
「みらい、ちゃんとにげてるよね」
静かな声が、暗闇に飲まれて消えていった。
六年前、親の再婚の都合でこの村に引っ越してきた遥華は父からは疎まれ、村からは腫物のように扱われ、一人誰もいない原っぱに入り浸ることが多かった。
『誰かいるの? 』
そんな時、原っぱで出会ったのはもう一人の少女、未来。
家にも、村にも居場所はなかった。
面倒ごとには触れぬようにするこの村において、何のしがらみもない二人は徐々に打ち解けあい気がつけば友達になっていた。
「んっ。」
差し込む日差しとともに目を開ける、どうやらいつのまにか寝ていたようだと自覚する。
こんな時、遥華の夢の中で巡るのは、幸薄かった二人なりに楽しかった日々。
「あいたいな……」
無意識の、言葉がこぼれた。