四話
「遥華、おはよ。」
「あ、おはよ、未来。」
秘密の原っぱ、そこにいるのはふたりだけ。
それぞれの理由で家にも村にも居場所のない二人が人目を避けるのは当然のこと、そしてこんなに小さな村でそんな場所は限られてくる。
当時幼かった二人がめぐり逢い、徐々に互いに心を許していき、依存していくのは当たり前だった。
「あ、そうだ。ねぇねぇ未来」
「ん?どうしたのよ?」
「これなーんだ?」
遥華がそっと取り出したのは店で売っているようなプラスチックの容器に入った弁当だった。
「えっ、これって。」
「ふふふ、私もちょっと探してみたんだ! そうしたら廃棄されるやつで食べられそうなのあったんだ! すごいでしょ」
未来に向かい満面の笑みを向けて慣れない手つきで包装を剝がす。
「私もたべていいの……?こんなごちそう」
「うんうん!お礼だからさ、二人で食べようよ」
包装と蓋をを引きはがし、中に入っていたものを素手でつかみかじる。
「ん、これおいしいよ! 」
「じゃあ、わたしも。」
未来も手を伸ばしてつかみ口に入れる。
「ん。すっごいおいしいじゃんこれ! ほんっと、なんでこれを捨てるのか永遠のなぞよねぇ。」
「ほんとほんと、ま、もしかしたら……」
「私たちのためかもーでしょ。ほんとまえむきねぇ」
「さっすが未来! 私のことよくわかってるね! 」
「ずっと一緒だもんわかるわよ」
お互いに顔を見合わせて、笑う。
静かな原っぱに二人の笑い声だけが響いていた、その時。
「っ」
「あっ」
世界が揺れた。地震だ。思わず二人は身を寄せてお互いを支え合う。
「止まった、の、かな? 」
「……みたいね」
揺れが収まり、ひとまず二人そろってホッと一息をつく。
「最近多いよね、地震。」
「うん、なんか怖いわね。」
「き、きっとなんてことないよ!」
「ん、そう、よね」
二人はしばらくの間、互いに身を寄せ合っていた。
日が暮れ始め、夕日に染まり始めた道を二人そろって歩いていた。からだをよせあって手をつなぎ、何も言わずに歩く。
「あれ?」
「ん、どうしたのよ遥華。」
「いや、あれ。」
あれ、と遥華が指をさす先には謎の人だかりができていた、その中心にいるのは白衣をまとった拡声機を使い話す学者。
『つまり! ここ最近の地震は火山噴火の前兆なのです! どんなに遅くとも三日の内に噴火します! 』
学者の言葉を聞いた全員、否、未来と遥華以外の全員がざわつく。この村に長らく住む学者の言葉であることを二人以外は知っているからである。
「ね、ねぇ、ほんとなのかな」
遥華が未来の耳元でそっと聞いた。
「わ、わかんない、で、も……」
未来が口を開いた、その時。
「じ、じしんだ!」「ひえっ、噴火の前兆にちがいない!」
『皆さん! 落ち着いて、落ち着いてください! 』
『逆にどんなに早くとも今すぐ……なんてことはないはずです。皆さん落ち着いて、協力し合って落ち着いて避難しましょう。』
「そ、そうだ、俺たちが全員で協力し合えば準備も簡単に終る! とにかく遠くまで逃げるんだ! 」
「そうだ! ま、まずは荷物まとめて……いや、このことを共有するのが先だ! 」
ざわつきはやがて一つにまとまっていき村が一つになっていく。
「そ、そうと決まれば俺はこのことをなるべく多くの人に伝えてくる! 」
「私は食料とか集めてトラックに……」
「ここを出るのは惜しいが我々が協力すれば何とかなるはずだ! 」
『そのとおりです! やりましょう! 皆さん! 』
うぉぉぉ! と村全体が沸き立っていく。
「そうと決まれば早速行動だ、行ってくる! 」
そのうちの一人がそう叫び駆け出す。
「ほら! どいたどいた! 」
「きゃっ! 」
「ちょっと! 」
村の絆で一致団結した男は二人をつき飛ばして走り去る。
「いった……」
「だ、大丈夫? ケガしてない? 」
「う、うん私は大丈夫よ。遥華は? 」
「こっちもへーき」
互いの体についた汚れを道のはずれで払いながら互いを見つめ合う。
「ど、どうするの……?」
先に口を開いたのは未来だった。
「どうするって、なにが? 」
「私たちも早く逃げなきゃってことよ! よくわかんないけど危ないのよね? 」
「……なんで? 」
「だ、だから」
「逃げたところで、何か意味とかあるの?」
ぼそっと零す遥華の言葉が未来の耳の奥で静かにこだましていた。