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三話

 暗くなり始めたその道を、未来は一人歩いていた。

 遥華と別れて家路につくその足取りは非常に重たい。

「やだなぁ」

 ポツリと、声が漏れた、結局は遥華と別れねばならぬこと、結局は一人で家に帰らねばならぬことを思い、深くため息を零す。

 いっそのこと、何もかもがなくなって、何も考えずに遥華と過ごすことができたならどれだけよかったのだろう。

 そんな破滅的思考に囚われていても雨風をしのぐため家には帰らねばならぬしそもそも逃げることは不可能だろう。未来自身それを自覚し理解している、それ故に重たい身体を引きずるごとく足取りを家に向かって進める。

 田舎にある村からかなり山奥に進んだ先に見えてくる、古臭い家屋、それが未来の家である。

 扉に手をかけてそっと一呼吸、そして扉をなるべく音を鳴らさないように、とゆっくり空ける、が扉は冷酷に音を立てる。

「っ」

「あぁ? 帰ったんかぁ? みらいぃ! 」

 家の奥からろれつの回っていない男の怒号が響く、そんな声に充てられた未来は思わず肩を震わせる。

 いやだ、怖い、逃げたい、逃げたい。

 真っ暗な思考に頭が支配されそうになるがそれでどうにかなるわけでもない、野宿をして生きていけるわけもない、仕方ない。と自分にそう言い聞かせて家の中に上がる。

「うん! ただいま! 」

 家の奥から酒瓶を片手に巨大な虫のように這い出てくる実の父に嫌悪感を覚えながらも未来はそれを顔には出さない。

「ったく! おっせぇぇんだよ!

おらはやく、はやくこっちこい」

 はいでてきたソレはニタニタと笑いながら抵抗しない未来をむやみやたらと撫でまわし部屋に無理やり連れていく。


 未来の、長い夜が始まる、それでも彼女は耐えるしかないのだ。

 どんなにつらくとも、逆らうすべはないのだから。






 長い、長い夜が明けた。

「う、ぅぅ……」

 差し込む朝日と共に目を開けて泣く。ずっとその繰り返しだ。

「いった……」

 まだひりひりと痛む箇所を抑えて風呂場に向かう、電気もガスもとうの昔に泊まっているがみずだけはいきている。

 勿論こんな場所に一秒でも長くいたくないというのが未来の素直な気持ちであったがこんな汚された姿はもっと見られたくない。と、そう思っていた。

 服を脱ぐ必要はない、そんなものは脱がされ纏っていないからだ。

「……。」

 風呂場のよごれた鏡に映る未来の顔は汚い鏡越しでもわかるほどに、誰の目に見ても明らかにやつれていた。


気持ち悪い、こんな体でよく遥華と身を寄せ合えるわね。


「……関係ないでしょ……!」


事実言われて何かお真っ赤にしてんの?ヒステリック起こす直前?やパリあんたもあいつのむすめ……。


「うるっさい! だまれ! 」



 声は聞こえなくなった、そもそもここには未来以外の人物さえいないのだ。 

 本人もそれはわかっている、これがただの幻聴であることも分かっているが叫ばずにはいられない。


「はぁ、はぁ……。何やってんだろ、わたし……」

 レバーをひねる、ヘッドから冷たい水が降り注ぐ、体が反射的に跳ねるがそれも体の汚れを流すためにはやむなしだ。

「気持ち悪い」


 小さくこぼした


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