二話
どうしようもないゴミ屋敷にも日の光は差し込む、目をこすり体を起こすとタオルケットがするりと落ちる。
「んっ。ふぁああ」
体を伸ばしてあくびを喉からこぼして。
「チッ。うるせえぞクソガキ……」
「あ……」
そして後悔する、目の前にいたのは、遥華の母の再婚相手の男。体を起こしてかすかな声を漏らした遥華を不機嫌そうに見つめると乱雑に置かれた椅子から体を起こしてゆっくりと遥華に近寄ってくる。
「ご、ごめんなさ……」
言い切る前に鈍い音が響く。ぶ厚い拳が遥華の頭を捉え振り下ろされたのだ。
「はぁ、きったね、早く出てけよ、日中は帰ってくんなよ。」
その言葉にもはや何も言わず無言でうなずくと体を起こして家を出る。遥華にとってもこの家はただ雨風をしのぐためだけの場所だ、暴力も甘んじて受け入れる、仕方ない、仕方ないと自分に言い聞かせて外を歩く。
「いった……。」
新しい傷を撫でて小さくこぼした。
「あっ。遥華ー」
「おはよ、未来。」
村の裏手の原っぱには、未来と遥華以外は誰もいない、ここは二人にとっての憩いの場だった。
それぞれの事情で家族から冷遇され村でも腫物のように扱われていた二人にとってお互い以外の人のいないこの場所で二人は身を寄せ合う。
「あ、そうだ。実は今日はいいもの持ってきたんだよね」
未来は嬉々としてそういうと隠し持っていた袋から菓子パンを二つ取り出す。
「えっ、うそ!? なんで!? 」
「ちょうど廃棄されそうだったやつを拾えたのよね、せっかくだし二人で食べましょ。」
「い、いいの? 貴重なごはんなのに? 」
そう聞いた時ふたりのお腹が同時に鳴った。
「アハハ! 遥華もおなか減ってるんじゃん! 二人で食べようよ。ね」
「じゃ、じゃあ、遠慮なく。」
未来は笑いながらパンを一つ遥華に差し出して同時に袋を開けて食べ始める。
「んー! やっぱりおいしいねぇ、いつも食べてるものとは大違いよね! 」
「うん。ほんっとにおいしい。どうしてまだ食べられるのに捨てちゃうかなぁ」
「ほんとほんと、謎よね」
「案外私たちみたいなののために食べられるものも混ぜてくれてたりして」
「前向きねぇ」
あまりにもポジティブな遥華の言葉に未来は思わず目を丸くする、そして少しの間お互いに顔を見合わせて。
「「っぷ、あははは! 」」
声を上げて大笑いする、原っぱに風の音と少女二人の笑い声が響く。
「あーあ。おなかいたい……」
「うんっ、こんなに笑ったの久しぶり。」
「「あぁ、やっぱり」」
「遥華といると」
「未来といると」
「楽しいなぁ」
二人の声が重なった。それに気が付いた二人はまた大きな声を上げて笑った。
「はぁあ。笑った笑った。」
ひとしきりおなかを抱えて笑い終わり目じりにたまった涙をぬぐう。
「……。ねぇ」。
-ふいに遥華が口を開いた。
「ん?どうしたの?」
「もしも世界が終るとしたら一緒にいてくれる?」
「ど、どうしたのよ、突然。」
「いいじゃん。いいじゃん! なんかこういう話をして盛り上がったりするらしいよ?
ほかの子は」
「あぁ、そういうの聞いた事あるかも、んっと、もしものはなしよね。」
「そうそう、他にも百億円あったらー。とか、願いが叶うならー。とかもあるらしいよ」
「……。あ、でも全部の答え一つで出せるかも。」
「えっ? なになに? 教えて教えて。」
「うん。それはね……。」
「―――――――――。」
風が、吹いた。