一話
「……るか。…………遥華! 」
「んえっ、あ、ごめん、ボーっとしてたかも。」
人気のない原っぱで、遥華と呼ばれた傷だらけの幼い少女が目を開ける、その視線の先にいるのは同じくボロボロの少女。
「もう、しっかりしなさいよね。」
「うん、うん。ごめんね、未来」
未来、そう呼ばれた少女は別に責めてるわけではないけど、と小声で言うと遥華の隣に座り直す。
風が吹く、何を言うでもするでもなく互に身を寄せ合い、遠くの山を見つめる二人の頬を十月の冷たい風が撫でる。
「ずっと、こうしてられるといいのにね」
ポツリと、零すように未来が呟いた。
「うん、そうだね」
それにこたえる遥華。
二人の声は、日が落ちてきて暗くなり始めた世界に飲まれて消えていった。
完全に日の落ち切った時、田舎ゆえにまともに街灯もない、人が土を踏みしめてできたような舗装の施されていない道を遥華は幼馴染の未来と別れて一人で歩いていた。
その足取りは非常に重く、遥華の顔には先程までとは違って一切の笑顔がない。
遥華の心を表すように、暗い影があたり一面をおおう。
「はぁ、帰って来ちゃった」
田舎にある村のその外れのボロボロの一軒家、そこに遥華の住んでいる家はあった。
「ただいまーっと。」
がたが来ていて無駄に重たい扉を音を立てて開き自分が返ってきたことを伝えるが返事はない。
が廊下の奥の部屋から響いてくるベッドがきしむ音と男女の声が不在ではないことを示していた。
「はぁ」
またか、とついこぼしそうになるのをこらえて放置されたゴミ袋をまたぎ散らかりっぱなしの何かの請求書などを踏みつけてリビングを目指す。
「……。おなか、へったなぁ。」
無意識的なつぶやきを漏らして家の冷蔵庫を漁る、アルコール飲料が山積みになっているほかには年齢にして十二歳の彼女に食べられるようなものは何もない。
「……ま、わかってはいたけどさ。」
冷蔵庫を閉じてリビングの隅に放置されたタオルケットを拾い上げうずくまる。
「いつまで、いつまで続くんだろ。」
ふと心の声が漏れた。
それにこたえる声はなかった。
遠くで、遥華にとっての実の母とその再婚相手の重なる声だけが響いていた、それをなるべく聞かぬよう、遥華は耳を塞いで眠った。