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悪夢物語

つくえのなか

作者: 暮 勇

 昔から、机の中には何かが居る、って噂がこの学校にはある。

 昔って言っても、実際どれ位古いモノなんかなんて正直知らないし、そもそも「怪物」でも「幽霊」でもなく「何か」ってところが、胡散臭い。

 入学してから数えるくらいの回数で、ほんの少しだけ話題になった事もあるから、噂は今でも健在なんだろう。

 まぁ話題になった、と言うより、「あぁ、そう言えばそんな話あったねぇ」程度の盛り上がりだけど。

 会話のネタとしての優先度で言えば、おまけも良いところって感じの扱い。

 そもそも、学校の怪談としてのインパクトもリアリティも無いのだから、仕方がないと言えば、それまでなんだけど。


「机の中には、何かが居る」

「何か」って、何だか誤魔化した様な言い方には、一応理由がある。

 机の中に居るらしいそいつは、見えない。

 じゃあ何で「居る」のが分かるのかって言うと、机の中の「そいつ」が触ってくるから、らしい。

 しかも、中から青白くて細長い腕が、にゅうっと生えてきたとか、黒くて長くて大量の髪の毛が、どろどろ伸びてきたとか、じゃない。

 と言うか、それじゃあ見えちゃってるし。

「何か」じゃなくて、腕長おばけだとか、そう言う名前付いちゃうから。

 そうじゃなくて。

 そいつは、例えば机の中にスマホ隠しておいて、友達とメッセージで駄弁ったりとかする為に、奥の方に仕舞っておいたスマホを手前に引き出すのに、机の中に手を突っ込んだ時とか。

 宿題のプリントが机の奥の奥でぐちゃぐちゃに押し潰されて、答え合わせの時に、ヤバイもうすぐ自分、当てれれるかもって焦って机の中を手でかき回したりした時に。

 掠める、らしい。

 手のあるモノにされたのなら、「引っかかれる」?って感じ。

 別に、それが永遠消えない深い傷になるとか、その傷が呪われている証で、後々出てくるいかにもグロいことしちゃうぞ!って感じの怪物に追いかけ回されるとかは、ない。

 そもそも、傷ができるほど、力が強くない。

 と言うか、あ、なんか物当たった?ってレベルらしい。

 じゃあそれ、勘違いじゃね?って思うよね。

 机の中空っぽの学生生活とか、ありえないし。

 むしろギチギチだし。

 と言うか、「らしい」って多くないこの話?って感じ。

 って思うでしょ?

 私も、そう思ってた。


 その瞬間は、すごくビビったよ、正直。

 でも、お昼ご飯の後の、みんな頭がぼーっとしちゃってる時間の授業中に、慌てたりとか、声を上げたりだとか、しづらいし。

 何より、宿題のプリント引っ張り出さなきゃ行けなかったし、一刻も早く。

 だって、一番前の席から順番に当てられてるの見たら、あぁ自分の番来ちゃうなって、寝てない限り思うでしょ。

 だからさ、焦ってた。

 ヤバイヤバイもう前の子答えちゃってるし、そもそもちゃんと解いたっけ?ってか、持って帰ったけ?

 誤魔化すにしたって、問題とりあえず見とかなきゃ。

 もういっそ、寝てましたてへっ!って感じでいっちゃう?

 とか思いながらさ、上半身はポーカーフェイス気取りながらさ、机におへそベタ付けにして、肘から先は大慌てでプリント探して振り回してた。

 その時さ。

 右手の人差し指の、第一関節と第二関節の間、指の腹側をさ。

 かりっ。

 って何かが掠めていった。

 でも最初は、ペン先とか、教科書の角を引っかけたのかなぁって思ったし、その程度の感覚だった。

 そう思った瞬間に、また。

 かりっ。

 今度は左手の甲のど真ん中。

 あぁ、またぶつけたかな、って。

 かりっ。

 右手小指の付け根辺り。

 かりっ。

 左手首、親指の付け根。

 かりっ、かりっ。

 かりかりかりかり。

 首筋辺りから、毛がぞわぞわと逆立つ様な感覚が広がって。

 両目がぎりぎりまで開かれたまま、強張って閉じられない。

 真っ直ぐ前を見てるのに、どこも視界に入ってなかった。

 意識はずっと、机の中。

 かりかりと、両手を掠める。

「何か」に向いてた。

 突然、鼓膜がびりびりと震える様な音が、教壇から飛び込んできた。

 あぁ、名前、呼ばれたんだ。

 何か言わなきゃ。

 プリント出さなきゃ。

 出さなきゃ見なきゃ見つけなきゃ引っ張り出さなきゃ。

 そう思った瞬間、手を思い切り引き抜いた、と思った。

 実際には両手の甲で机の板を思い切り打ち付けて、痛みでびっくりして引っ込めたんだけど。

 当然プリントは見つからず、先生に「ぼーっとするな!」って怒られた。

 いやいや、心配してよ。

 こっちは色々あったんだよ、って。

 その後も宿題がどうだの、普段の授業態度がだのグチグチ言われて、すっごくムカつきながら、授業は終わっていった。


 結局、私も机の中の噂体験者になった訳だけど。

 正直、自慢しにくい。

 誰かに話したところで、楽しくないし。

 盛り上がらないし、絶対。

 しかも、あの時の先生の顔思い出してムカついちゃうし。

 でもさ。

 わかったことも、ある。

 私の両手のあちこちを引っ掻いてた「あれ」。

 多分、爪、なんだと思う。

 人間だと、もう伸びすぎ汚いムリ!ってレベルの長さのさ。

 それで、触るんだ。

 まるで、かさぶたを爪で剥がす様な。

 おっかなびっくり、でもわくわく。

 って感じ。


 いや、やっぱ、わかんないや。

 あれが爪かどうかなんて、見てないから分かんないし。

 引っ掻かれて一ヶ月経つけど、なーんにもないし。

 むしろ、そんなことあったっけ?ってレベル。

 やっぱこの噂。

 つまんないね。


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