第二部
●ブロッサムばっちゃん●
その夜
全部の仕事を短時間でやりあげたにも関わらず、シャーリーは元気でした。
洗濯物には、シワを一つも残さず、家中ホコリ一つ落とさず、夕食はレストラン並みの料理をそろえたので、コルヴィン達は文句の一つも言うことはできませんでした。
「シャーリー。」
夜遅く、ろうそくの光で読書をしていたシャーリーを呼ぶ声が聞こえました。
ここは、屋根裏部屋なのでシャーリー以外には誰もいない筈です。
シャーリーが下に目をやると、壁に開いた小さな穴から年老いた(けど元気な)ネズミが覗いていました。
「初めまして。私はシャーリー・サクリード。」
「そんなこたぁ、知っとるよ。だから名を呼んだんじゃないかぃ。」
ネズミは不機嫌そうに言いました。
ここで、ネズミが喋るということに、「ありえない」と片付けてはいけません。
この時代の素直で可愛い子供は、動物の言葉がわかるのです。逆に、素直じゃない子はわからないのです。ちなみに、二十歳までの人間しかわかりません。ややこしいですね。
「そ、そうだね。で、ネズミさん。私に何か用ですか?」
シャーリーはしゃがむと手をさしのべてネズミに言いました。
ネズミはシャーリーの手のひらに乗ると、
「いや…大した用はないんだがね。シャーリーは疲れないのかぃ……、と思ってね。」
「家事のこと、知ってるんだね。」
「壁から筒抜けなんだよ。あまりにもひどいじゃないか。」
シャーリーはネズミの問いに首を傾げました。
「そうかなぁ……。う〜ん、疲れは感じないね、あまり。」
シャーリーは苦笑しました。
「何でだい?あんなにたくさんの仕事があったのにかい?」
ネズミは不思議そうに尋ねました。シャーリーは、にこやかに微笑み返し、
「うん。そうだよ……、実はね、私、錬金術が使えるんだ。」
と、言いました。それが、当たり前のように。
「錬金術……って、あれだろ?魔法みたいな……。」
「うん、私は魔法をみたことはないんだけどね。たぶん、そんな感じだよ。」
「でも、それがどうだっていうんだ?」
ネズミはさらに顔をしかめます。
「便利なんだ、錬金術師。時間の短縮は勿論だし、ミスも少なくなる。」
「そうだったのかい。」
シャーリーの言葉にネズミはようやく理解したようでした。
「ねぇ、ネズミさん。」
シャーリーがそう呼ぶと、ネズミは不機嫌になりました。
「やめてくれ!ネズミさんなんて私を呼ぶのは!私には、“ブロッサム”と言う立派な名があるんだ。」
「あ、そっか。ごめんなさい。」
シャーリーが頭を下げました。
「わかればいいさ。これからはブロッサムと呼んでおくれ。ネズミはつけてもつけなくてもかまわないよ。」
「うん、わかったよ。“ブロッサムばっちゃん”」
シャーリーは笑顔で言いました。
その言葉に、ブッロサムは凍り付きます。
「ばっちゃん?どういうことだい?」
祖母さん呼ばわりが嫌なのか、人間の子供に言われたのに違和感に思ったかわかりませんが、ブロッサムは素っ頓狂な声を出しました。いつもより、半オクターブ高めでした。
「まぁ、いい。好きに呼んでいいと言ったしね。……ところでシャーリー。お前、心は疲れてないのかい?」
突然の質問でした。ブロッサムも、言った後で自分自身にびっくりしたようでした。
「え……?心が?」
取り敢えず、ブロッサムは頷いておくことにしました。
「うん、大丈夫だよ。錬金術が助けてくれる。心配ありがとう、ブロッサムばっちゃん。」
“ブッロサムばっちゃん”人間とネズミだが、とある形の絆ができたのは、事実でしょう。
もう作品は完成しているので、続きをどんどん更新していきたいと思います。
スローペースですがどうぞおつきあいくださいw