メイドのお姫様
● メイドのお姫様●
このお話は一人の少女の恋物語です。
昔々、とても平和なアブレストワールドに、とても可愛らしい女の子がいました。
その女の子は、シャーリー・サクリードという名前でした。シャーリーには優しいお母さんがいましたが、シャーリーが一人でお買い物ができる年になる頃には、他界しておりました。
シャーリーの父は国でも有名な錬金術師でしたが、シャーリーが生まれてすぐに、旅に出ていってしまいました。行き先は、わかりませんでした。ですから、シャーリーは父の顔を知らずに育ったのでした。
一人ぼっちになってから、半年もすると従姉妹達が家に来ました。
仲が悪かった、ルルド家の皆さんでした。
シャーリーの従姉妹は、姉のディランと、妹のベルナルドの二人でした。妹のベルナルドでさえ、シャーリーとの年の差は6歳ありました。
ディランも、ベルナルドもそれはそれは綺麗な女性でしたが、性格は童話にでてくる魔女よりも悪いのでした。
しかし、その二人とは比にならないくらいディラン達の母、つまりシャーリーの叔母は性格が悪かったのです。
傲慢で、勝ち気で、高飛車で……。短所はいくらでもありましたが、長所は一つもありませんでした。
サクリード家は、あっという間にルルド家に支配されました。
女王でもあるかのように、いつでも命令口調の叔母コルヴィン。
そして、コルヴィンの命令に従う忠実な従姉妹ディラン、ベルナルド姉妹。
標的のシャーリーは三日でルルド家の下僕になったのでした。
シャーリーは可愛く、美人で、優しいうえに愛嬌のある子でした。
当然、近所の人たちにも人気で、国中の男性の虜と言っても過言ではありません。
女友達も大勢いて、誰にでも好かれるシャーリーでしたが、それをよく思わないのが約三名。
勿論、隣国からきたルルド家の皆さんです。
三人ともシャーリーに劣らず、いえ……それ以上の美貌の持ち主でしたが、前にも言ったように、性格の悪さも天下一品です。
周りの人からは、恐れられるようになりました。変な噂も生まれました。
『ルルド家の三人は、悪魔と契約したんですって。』
『姉のディランは、人殺しなんですって。』
『妹のベルナルドは、実は合成獣なんですって!』
『いやいや……。母のコルヴィンなんて一日で一つの国を滅ぼしたって話だぞ。』
皆、言い放題です。
根も葉もない噂話に、ルルド家の皆さんは一国を滅ぼさん程に怒り狂いましたが、その怒りの矛先をシャーリーに向けてストレス発散していたので、なんとか堪えていました。
そして、ある日。
怒りがMAXになったルルド家の皆さんは、シャーリーを屋根裏部屋に閉じこめ、家事全般を押しつけたのでした。
それまでシャーリーが住んでいた豪華で広い部屋は、ディラン達の荷物置き場に。おそらく10万近くしたであろうドレスも売られて、コルヴィンの遊ぶためのお金になり、シャーリーはとても今までお嬢様をしていたとは思えない生活になってしまったのでした。
着ている服はボロボロのワンピース。色あせて、国の最下層の人たちでも決して着る事はないでしょう。
シャーリーは、自由に外に出ることは出来なくなりました。
シャーリーの事が好きだった男性達は、ひどく悲しみました。
シャーリーの友達も泣いていました。
『もう一緒に遊べないなんて……。』
『一緒に話すこともできないのね。』
『あの笑顔がもう一度みたい……。』
『ストーカーがもう出来ない。』
『電話ならできるかも。』
『一緒にお茶もできないのね!』
『ドレス……一緒に買おうって約束したのに……。』
中には、気持ち悪い願望もありますが、ルルド家の皆さんがシャーリーに行った腹いせは、皆に辛いものでした。
「ホッホッホッ、これでシャーリーは自由に外も歩けないわ。ご飯も残り物しかあげないつもりだし……。」
「犬レベルね。……いえ、まだ血統書付きの犬の方が頭がよくて可愛らしいわ。」
ディランとベルナルドが笑います。
「「いい気味。」」
コンコンコン。
屋根裏部屋の戸を叩く音がします。
朝日で読書をしていたシャーリーは屋根裏部屋の壊れそうな戸を開きました。
戸の向こうにいたのは、ベルナルドでした。
「シャーリー。この服、全部洗っておいてね。」
そう言うと、ベルナルドは五個のカゴを床に置きました。
どのかごも、服が今にも溢れそうです。
「わかりました。」
シャーリーはそう言ってカゴを受け取りました。
「シワ一つ残さずキチンと洗っておくのよ。」
ベルナルドが意地悪に笑いました。
「はい。」
シャーリーは依然とした態度で頷きました。
ベルナルドはその態度に少し驚きましたが、階段を下り、途中でふと足を止め、
「シワ、見つけたら許さないから。」
と言い残して下の部屋に消えてしまいました。
シャーリーは、すぐに洗濯に取りかかりました。すると、
「シャーリー。すべての部屋を掃除しておいてね。勿論庭の手入れも。……あぁ、貴女の狭くて埃くさいこの部屋なら掃除しなくてもいいわよ。」
ディランが掃除道具を持たせました。
「すべて今日中に終わらせてね。」
ベルナルドのように意地悪に笑います。
シャーリーはまた依然とした態度で頷きました。
「靴磨き、お皿洗い、夕食の準備。」
素っ気なく言うのは、叔母のコルヴィンです。
シャーリーは洗濯物にアイロンをかけていたのですが、靴磨きは今やることなのだと気づき、手を止めました。
真っ黒なハイヒールをシャーリーはピカピカに磨き上げました。
「夕食、不味かったら許さないし、一つでも嫌いなものがあったら作り直させるからね。」
コルヴィンは出かけていきました。
シャーリーはすべての仕事に取りかかり始めました。
少し長い話なのですが。
最後まで読んでいただければ光栄です。
基本ギャグですが、恋物語にも挑戦してみましたw