青い書物
彼らはより大きな何かだ、ということを僕は気がつくべきだった。自分よりもはるかに巨大なものとぶつかる事が、人間の人生ではありえる。像やクジラよりもっと最悪で、劣悪な知恵を持ち…口にしたり耳にしたりすることで彼の目や体はおかしくなる。そういうものがあるのだ。
僕は何としても彼らを確かめてやろうとして、直に見ようとしたことがある。ジャングルを抜けて、その向こうに何があるのか?彼女は僕の手を止めて、やめなさい、と言った。少しだけ、と僕は言って、いいでしょう、と彼女は言った。するとどうなったか?
みるみるうちに目が落ち窪んで行くように真っ暗になったのだ。まるで命ある花がしおれるように、赤ん坊が生きることそのものを断念するように僕の目は暗くなり始めた。即座に実験は中止された。つまり彼女たちはどんな風に僕を気を遣っているのか?そこが知りたいだろうと思う。
夢の中で同じような挑戦にかられ、僕は登場人物達と素人なりに戦おうとした。大抵の場合やられてしまうが僕はやられないで夢を見た。連中の目を潰したり、はっきり顔を見たことがある。そういうのは大抵の場合普通の人間の姿だ。それが誰なのか、僕は知らない。だが彼らを始末できたことは覚えている限りでは少ないのだ。
実験1が真実だとしたら、悪や敵のような人物は現れなければならないがだとすれば僕は毎回死ぬような目に合うことになる。そういうわけで僕はこのような仮説を立てた。それは比較的安全で重要度の低い、それと似たような人物のイメージである。そしてそれは少なくとも演じられている必要がある、ということだ。本当は誰なのだろうか?
彼女達は「私達だ」という嘘をつき、ついてきた。
ある時ジャングルを破って巨大な何かが突っ込んできたことがある。むしろ僕が連中を始末しようとしてやったことだったような気がするが、その時彼女は何と言ったか。後になってそれは自分だった、と言ったのだ。そしてこうも言った。
「私達には悪い側面もある。君も知っている通り、私は祟りもするしそういう基地も船もいくらでも持っている。」
その通りだろう、と思った。でもそう考えるには僕らは仲良くなり過ぎていたので、それは違う、とその都度答えていた。ありえないことだ。むしろそれは論理的に崩壊している。だがもしそういうことがあったら?いや、ないな。無いと思う。
だが僕は彼女のいう通り、その筋書きを信じて、君はなぜそんなことをするのか、と激しく格闘したこともある。あるが、その時からして僕は彼女がなぜか二人いるのだ、と誤認していたのでうまく話がまとまらなかった。つまり角を生やした彼女が、気まぐれな海のように海賊達を連れてやってきたのだ。それらは古のまつろわぬ死者達であり、そのことで有名だった。だから論理的に矛盾していなかった。僕には、知っている知識の線をたどってある現象が引き起こる、と考え節さえあったのだから。実際その連中が何であるのかを知るためにそれほど研究の必要はなかった。
何が言いたいかというと、最初に出会った頃彼女は裏切り者の現実主義者のごとく振舞っていた。そしてそうでは無いことがわかると、今度は最初の人物は誰であったのか?と思うようになった。しかし、そのような像がちらほら特に理由もないのに現れ始めた時期があって、僕はそういうものは何か誰かが化けた悪質な幻影だと理解しているつもりだったのだ。
この時点では、全て彼女の仕業だったのだ。だがその悪の実行犯となることは親玉となることとは正反対だった、ということだ。何でも気まぐれな神様のせいにしていれば幸せに暮らせる。というのも悪質なカジノで遊んでいるわけではないからだ。愛と憎しみが元の半分ずつになったとしても愛が勝利すればそれはいい人生ではないか?それは完璧な計画だ。文字通り、二倍以上の愛がそこにはある。
悪は曖昧でかつおおざっぱに存在する。そしてそれを見たとき人間は死ぬことになるのだ。彼らもまた強大な神のような何者かだという事を、何となく下劣なイメージから忘れてしまう。それが何なのかを考えることは、実のところ分を超えた仕事だったのだ。
僕は彼女がそういうものでない事をはっきりさせた。一方で彼らについて彼女が語るあらゆる仮説を真実ではないからという理由でことごとく退けてきた。そういうわけでヌミノースの接近を許してしまったのだ。直接的にそれらを見てはならないのである。おそらく、知ってもいけないのだ。僕は今化け物を隔てたジャングルの向こうの三日月のような砂浜で暮らしている。
だから象徴は重要であった。それは精神的内容である。仮託された存在がそのこころである。百合の花の機微はその美に同じである。真実は嘘だが、それは真実そのものを超えたものだった。だから人間はその生を生きる必要があるのだ。