祐さんのお家事情
前作に引き続きのお話ですが、祐司の色々が出てきます。普段は寡黙で縁の下の力持ち的な祐司の、ちょっぴりほろ苦いエピソードを堪能いただければ幸いです(^^);。
タレント、芸人、歌手……人々からの支持が必要な商売では、もしグループを組むのであれば、それぞれがもつ芸才の他に、できれば押さえたいポイントがあるという。
それ即ち『キレイ、カワイイ、カッコイイ』
この黄金律を備えたグループは、幅広いファンを獲得できるということで、某男性アイドル専門芸能事務所などは、どんな多人数で組むときも、それぞれに該当する者を最低一人は入れるのだという……。
「まさしくうちの看板アーティスト〈T-ショック〉のことですね」
Gプロビルの二階にある休憩室の片隅で、マネージャーの沖田智紀さんが雑誌の特集記事をテーブルの上に置いて言葉を切ると、先日配属されたばかりのスタッフの青年、橘奏太と広田稔がへえぇーと椅子から身を乗り出した。
〈T-ショック〉新配属者支援プログラム、仕事の合間を利用した初心者用レクチャーである。
「ほら。あの幅広いファン層を見てください」
彼の指差す先には、壁に備えつけられた液晶テレビがある。今、その画面にはつい一週間前に放送された年末ドキュメントスペシャルの映像が映っていた。
「ちょうどファンのインタビューが入りますよ」
その声につられ、僕もスケジュールチェックの手を止め、スマートフォンから顔を上げて注目した。
画面には、昨年の全国ツアーの会場のひとつ、さいたまアリーナの前で長蛇の列を作るファンの開場前の様子が映し出されていて、カメラのズームが華やかなフリルやレースの集団に絞られるところだった。
『えー、あたしはマース! もー、綺麗でちょーカワイイところ。出待ちのファンにも笑顔で手とか振ってくれるし、その辺のアイドルなんて目じゃないってカンジ!』
渋谷に湧いていそうなフワフワファッションのギャルたちが目を輝かす隣では、グッと大人びたミニスカートの女性たちが負けじとマイクに答える。
『誰がなんと言おうとタクミさまよ。あの超絶に美しい顔を見るだけでも脳ミソ潤うのに、歌スゴいって無敵でしょ!』
さらに奥へとカメラが進むと、あれっ、と思う黒溜まりにぶつかる。
『ユージに決まってんだろ。あのギターテクに痺れない女はどっか壊れてんぜ』
力説する若者の周りには、黒い革パンにぴったりしたプリントTシャツ、ゴールドやシルバーのアクセサリーをジャラジャラさせたお兄さんが多い。他にもビジュアル系に特化した衣装のグループや普通にお洒落したカップルなど、様々な身なりの人々が入り乱れている。
沖田さんが画面に体を傾けながらレクチャーを続けた。
「これはごく一部ですが、これだけでもファンの層にかなりの幅があるのがわかるでしょう。それだけに、コンサートのときなどは、警備や誘導などの対応を幅広く考える必要があります」
二人はコクコクと頷いた。
「〈T-ショック〉さんのスゴさは知ってるつもりでしたけど、改めて考えると、渋谷系からハードロック系までファンが揃ってるバンドってなかなかないッスよね」
「しかもよく見ると、ビジュアル系ロックバンドにしては年齢層が幅広いです」
イヤ、約二名がたまたま美形の上にちっとも年取らないだけで、別にビジュアル系は謳ってないんだけど……。
学生バイトではあるが一応、先輩付き人の身としては、担当するアーティストの情報は正確に把握することを推奨したい。
僕の思いをよそに、画面が入場中のファンの様子を映し出した。なるほど、上が五十代あたりの男性から下は中学生と見られる少女まで取り揃っている。
「そうですね。それはやはり活動年数が長いですからね。聞けば和巳君の担任の先生も長年のファンで、生徒さんにもファンの子が多数いるそうですから、押して知るべしです」
「なるほどぉ」
こちらを見る橘と広田に会釈で応える。
沖田さんが得意げに続けた。
「これはでも、実力派が凌ぎを削るJポップグループやロックバンドではなかなか難しいことです。〈T-ショック〉は偶然が生み出した稀なる奇跡ですね」
画面が切り替わり、ステージ上で演奏する三人が映し出される。ファンの歓声がテレビのスピーカーを震わせたそのとき、背後のドアがバタンと開かれた。
振り返ると、そこには画面の中でファンの歓声を浴びるメンバーのうちのボーカル、僕の父親である高橋拓巳が無表情に立っていた。
それをまともに目にした若手二人が「ヒャッ」と声を上げて固まる中、僕は意外に思って椅子から腰を浮かした。
「拓巳くん。岩田書房さんのインタビューは?」
彼は音楽雑誌の取材を受けるため、つい二十分ほど前、リーダーのマースこと小倉雅俊、僕のパ―トナーである俊くんとともに地下のスタジオへ入ったばかりだ。
すると一瞬、迷うようにこちらを見た彼の脇から細身の姿が現れた。
「俊……雅俊さんまで」
俊くんと呼びかけそうになり、新米二人組の存在を思い出して言い直す。彼は軽く手を上げて僕に返すと、休憩室を突っ切って沖田さんに突進した。
「お、お疲れ様さ……わっ」
剣幕に怯んだ沖田さんが椅子の上の体を引くと、彼はテーブルに置かれたリモコンを引っつかみ、慌ただしく操作して画面を変えた。
「な、何?」
こちらに近寄ってきた拓巳くんに訊ねると、彼も「見ろ」と僕の隣の椅子を引き、ドカッと腰を下ろして足を組んだ。すると。
『驚きました。これは以前から決めていたことなんでしょうか』
ワイドショー系ニュース番組の司会者が、驚きを露にしてコメンテーターの年配男性に投げかけている。
あ。これ、結構メジャーな番組だ。
司会者の男性は人気アナウンサーとしてあちこちの番組でよく見かける人である。その、知名度のある番組の司会者が、まだ学校も始まらぬ正月明け第一週の平日の午後に何を驚くのか。
コメンテーターの男性が自分の隣の女性ゲストに話しかけた。
『こういうお家騒動は木村さんの得意分野ですよね。何かご存じですか?』
すると少々ふくよかなショートヘアのおばさまが、背筋を伸ばして前のめりなった。テロップには〈木村範子弁護士事務所代表〉と書かれている。
『はい。井ノ上財閥は親族経営ですので、当主が大株主、つまりトップということになります。株の譲渡に言及したということは、そのトップが交代する可能性を含むわけですから、ご親族、関連企業の代表や経済界等、様々な人の注目を浴びることになります。ましてそれが知名度の高いアーティストとなれば尚更ですよね』
徐々に輝きを強めるおばさまのつぶらな瞳とは裏腹に、僕や沖田さんの顔が引きつる。
井ノ上の、なんだって⁉
目の端に映る橘と広田が、ただならぬ気配になった僕たちにキョロキョロと落ちつかなげな視線をさ迷わせている。しかしそれを気遣う心のゆとりは次のテレビ画面の会話で粉砕された。
『では、やはりあの有名ギタリスト、ユージこと井ノ上祐司氏が、後継者としては有力候補ということになりますか?』
『本当に株式の四十パーセント近くを譲渡されるなら、当然そうなります』
「ええっ! マジで!」
名前を出されて意味がわかったか、声を上げたのは橘だった。
「ユージって、うちのユージさんですよね? 今そこのビデオに映ってた」
さらに続けようとした彼は、しかし足を組み替えた拓巳くんに不機嫌な顔を向けられ、一瞬で石像になった。
テレビ画面の会話が続く。
『では、今後の演奏活動はどうなるのでしょうか』
深刻そうな顔になった司会者に、ゲストのおばさまはスラスラと説明した。
『それはやはり影響は出るでしょうね。井ノ上財閥の会長職に就くとなれば、さすがに立場上、続けるのは困難かと』
『しかし、以前から祐司氏はそういう噂が出るたびに一貫して否定されていましたが』
『どうでしょう。いつもは内輪のパーティーの出席者からそんな噂が出たりすることが多いですが、今回は違うようですから』
『違うと言いますと』
『出どころが経営者会議や理事会の出席者だったようなので。それというのも、近々会長が後継者について言及するとの発表があったらしいのですが、それらしい候補者が見当たらないのだそうで』
『ははぁ、そこで以前から会長が望んでいると噂の高い祐司氏の名が上がったと』
『はい。といいますのも会長は近年、健康診断での要注意条項が増えてきたそうなのです。そこに株の譲渡の情報が出たので、これはいよいよ動き出したのかと』
そんなことまで知られているのか。
『なるほど、会長は六十代後半ですが、お子様はまだ若いお嬢さんがお二人でしたね』
『ええ、たまに女性週刊誌のセレブ特集に出ていますが、上のお嬢様が二十八、下の方に至っては二十五歳ですから……』
そこまで聞いたところで画面がブチッと切れ、俊くんがリモコンをポイッと沖田さんに放るのが目に映った。
「あのっ、これってホントなんですかっ! ユージさんが会長になるって……!」
青ざめた広田が、石になったままの橘を支えながら沖田さんに小声で訊ねた。彼の失敗から学んだ賢い判断である。そして沖田さんはさらにベテランであるところを示した。即ち俊くんにこう聞いたのだ。
「雅俊君。真嶋さんに連絡してみますか?」
「そうだな。一応、聞いてみてくれ。祐司に何かあるなら教えてくれるだろう」
息を吹き返した橘と広田が困惑した顔でささやき合った。
(なあ、ナンでユージさんの進退について専属スタイリストさんに聞くんだ?)
(さぁ……従兄だからかな。でも真嶋さんは井ノ上の縁戚じゃないよな)
ごもっともである。しかし彼らはまもなく〈T-ショック〉関係においては誰もが(それこそ社長に至るまで)彼を頼り、敬意と感謝を捧げるのだということを学ぶだろう。
沖田さんがスマホを操作し出し、俊くんが難しい顔のまま隣に座る。僕は自分のスマートフォンをスーツの内ポケットにしまうと、足元の鞄を膝の上に乗せつつ訊ねた。
「ね、インタビューってまだ途中でしょ? 記者さんは? もしかして取材中に何か気に障ることを言われたとか」
俊くんは額に落ちかかる天然ウェーブの髪を煩わしげにかき上げてから頷いた。
「インタビューの途中で、女性カメラマンのスマホ画面に芸能記事の速報が入ってな。若いから知らなかったらしくて、記者に喋りかけちまったんだ」
「えっっ」
ナニを知らないかと言えば、それは『タクミをインタビューするときは、たとえ親の訃報が届こうとも記者の作業を中断してはならない』ということだ。
僕は椅子の上にすっかり根を下ろしてふんぞり返る(そして明らかに僕が帰り支度を始めるのを待っている)美貌の主にチラリと目線を投げてから俊くんを促した。
「な、なんて?」
彼は横に束ねた髪の房をいじりながら嘆息した。
「記者が質問した直後に『先輩すみません、これ見てください!』ってスマホを差し出した」
あちゃー。
つまり、質問に対する返答を待たずに割り込んだということだ。
彼女は多分、内容が内容だったので、先輩の業務に役立つと信じて知らせるほうを優先したのだろう。しかし常の場面なら正解であろう最新情報の伝達も、こと〈T-ショック〉のタクミが相手の場合は大変な失態になる。
「どうも担当カメラマンが風邪でダウンして、急遽立てられた代役だったらしい。お陰でヤツの気が削がれた上に、情報とやらに興味が移って記者に見せろと要求して」
もちろん記者はインタビュー続行のため、間髪を入れずにスマホを差し出した。しかし時すでに遅かった。
「見出しを読んだら祐司のアレだろ? テレビで詳しく知りたいから今日はヤメだってゴネるんで、取りあえず記者には待ってるように言って出てきた」
今ごろ固唾を飲んで祈ってるだろうさ、と意味深な目線を向けられ、僕は眉をひそめて質問した。
「まさか続けられる気でいるとか」
「まあ、ヤツのインタビュー記事は希少価値が高いからな。名にしおう付き人さんの助力を期待してるだろうよ」
僕は横を向き、無表情にこちらを眺める拓巳くんに微笑みかけてから俊くんに顔を戻した。
「諦めてください」
はっきりと告げると、新配属のお二人さんが(えっ、中断しちゃうの⁉)と目を剥いた。
確かに岩田書房の『月刊ミュージックレーベル』は注目度が高い。しかし彼らにはおとなしく見えるだろう拓巳くんの様子が僕にははっきりとわかる。今、彼が心の奥底から『早く帰ろーぜ!』と訴えているのが。
俊くんがため息をついた。
「ダメか」
「うん。条件悪すぎ」
そこへの希望を断ち切るように僕は質問を変えた。
「この番組の報道、どう思う? 誰かのコメントに尾ヒレがついただけ?」
俊くんは残念そうに眉を下げながらも質問に答えた。
「多分。ただ、情報の漏れ方がいつもと違う気がする」
「漏れ方?」
俊くんは少し考えると首を横に振った。
「祐司に聞いてみないと。おれにはよくわからないから」
そして青年二人に目を向けた。
「橘はスタジオにいる記者に、もう少ししたらおれだけ戻ると伝えてきてくれ。広田は一応、ビルの出入り口チェックを。祐司がもうすぐ代々木から帰ってくるはずだ。まだ大丈夫だと思うが、週刊誌の記者が来ているようなら裏口へ誘導してくれ」
「誰を誘導するんだ」
ふいにドアが開き、メンバー三人目の男が長身を少し屈めて室内に入ってきた。
「祐司」
「ユージさん」
みんなに口々に呼ばれ、祐さんは落ち着かせるように片手を上げた。
「どうした、雁首揃えて。拓巳と雅俊はインタビューじゃなかったか?」
「どうしたじゃない」
俊くんは橘に行けと指示しながら立ち上がった。
「今、テレビ見てたんだ。総司さんところが報道されてる。祐司の名前も頻繁に出てるぞ。財閥安全部の報道対策はどうなってる」
安全部の報道対策とは、井ノ上財閥によるメディアへの報道規制依頼――つまり圧力のことだ。
井ノ上財閥では、巨大な権力に絡む親族のプライバシーを守るために様々なセキュリティを講じている。メディアへの介入も重要な防犯上の手段で、むろん祐さんの井ノ上家に関わる部分もそこに含まれる。内部情報に触れると思われる報道は安全部情報課がいち早くつかみ、芽のうちに手を打つのがいつものパターンだ。
俊くんが放送内容をかいつまんで説明すると、祐さんは口元で笑った。
「それについては多分、大丈夫だ。昨日、伯父に会ったときにはそんな話は出なかったからな」
「昨日、お会いになったんですか?」
俊くんに続いて立ち上がりながら訊ねると、祐さんはちょっと目を細めてこちらを見た。
「来週の件で夜に少しな。先月挨拶に行ったとき、おまえも約束しただろう」
祐さんは定番の黒い革ジャンの内ポケットから白い封筒を取り出した。
「おまえへの分も預かってきた。楽しみにしているとのことだったぞ」
「あ、はい」
条件反射的に差し出した手に乗せられたのは、何やら高級そうな和紙の細長い封筒だ。表書きには招待状と書かれている。
あ、これって。
「十五日に開かれる、祐さんの叔母様の誕生パーティーですね?」
「ああ。それ一枚で同伴者込みだ」
祐さんは頷き、拓巳くんの隣の椅子に腰を下ろした。
先月のはじめ、僕は拓巳くん、俊くん、祐さんとともに祐さんの伯父、井ノ(の)上総司さんの自宅を訪問した。
理由は端的、夏から秋にかけて〈T-ショック〉を揺るがせたアイドル歌手、柳沢亜美の移籍騒動の際、ひとかたならぬ助力を受けたことへのお礼参りだ。
久しぶりに訪ねた鎌倉の本宅は、昔の記憶のままに広大で、門を潜ったあたりから立派な体格のSPに囲まれ、六畳近くありそうな玄関で執事に出迎えられたときは、記憶にないものものしさにちょっと腰が引けたが、案内された応接室では、気さくな総司さんや奥様の珠江さんにもてなされ、泰然として振る舞う祐さんや動じない俊くん、相手が誰でも態度を変えない拓巳くんの影響もあって、まるで親しい親戚の家に立ち寄ったような感覚で楽しく過ごすことができた。
そのとき、遅れて座に加わった祐さんの叔母、総司さんの妹である玲さんを紹介され、昔話に興じるうちに誕生パーティーの話になった。すると彼女がこう言ったのだ。
「和巳くんがいると、祐くんもいつもより楽しそうねぇ。そうだわ。年が明けたら私の誕生パーティーにいらっしゃいな。横浜の井ノ上家には、みなさんで来てねって声をかけるのだけど、いつも祐くんしか来てくれなくて寂しいのよ。私ももっと和巳くんとお話したいわ」
ねぇ? と顔を向けられた総司さんと珠江さんが賛同した。
「それはいい。ぜひおいでなさい。拓巳君や雅俊さんもたまにはどうかな?」
もしここに真嶋さんがいたら、返事は違うものになったかもしれない。しかし彼は仕事の都合で同行しておらず、出席は現場の判断になった。
「ねぇ祐くん。あなたからもお願いしてちょうだいな」
祐さんの叔母というには年齢を感じさせない可愛らしい造りの顔が、頬をうっすらと染めてお願い仕様になり、祐さんはまるで年下の従妹を宥めるような笑みを浮かべてから僕を見た。
「どうする?」
どうすると聞かれて俊くんや拓巳くんを交互に見るも、彼らも判断に迷うようにお互いを見ている。その目線が『気が進まないけど祐司は来てほしそうだぞ』『きっといつも我慢大会してるんだぜ』と会話しているのがわかり、心に響いたところで総司さんがだめ押しのように言った。
「君はすぐ打ち解けてしまったからわからないだろうが、こう見えても妹は人見知りなんだよ。先日のお礼をと言ってくれるなら、彼女の誕生日に花を添えてやってくれると嬉しいな」
その言葉が決定打となり、僕は「ありがとうございます」と頷いたのだった。
「でも祐司。さっきなんか株がどうたらとか言ってたぞ。予定どおりに出席して大丈夫なのかよ。芳弘に確認したほうがよくないか?」
拓巳くんが訊ねると、祐さんは少し考えてから口を開いた。
「そうだな。憶測の話とはいえ、色々言ってくる輩もいるかもしれん。芳兄さんは警戒が必要だろう」
「真嶋さんがですか?」
僕が首を捻る間にも、こちらに来た沖田さんが「どうぞ、真嶋さんです」と通話中のスマートフォンを祐さんに差し出す。質問の答えは俊くんがくれた。
「こういった報道が出ると、祐司にその気がなくても心を騒がす連中はいる。財閥の役職についているようなヤツは、情報がほしくて芳さんにちょっかい出すのさ」
なにしろ本家の関心がもっとも高い人物が信頼する従兄だと知れ渡ってるんで、と言われてなんとなく理解する。
つまり将を射んと欲すれば、の諺のごとく、祐さんの動向を知りたければ真嶋さんを探れというわけだ。
わあ、煩わしい……。
巨大財閥の関心を背負う羽目になる運命の真嶋さんに同情を寄せていると、椅子に足を組んだ祐さんが、スマホに向かって僅かに声を上げた。
「さすがにそれは困る」
珍しく食い下がっている様子だ。
「相手が……そうさ。今更だ。……ああ、そこを頼みたいそうだから……そうだな。それでいいだろう」
話がまとまったのか彼はひとつ頷くと、「じゃあまたあとで」と付け足してから通話を切り、沖田さんに返しながら僕たちにこう言った。
「今回、芳兄さんは欠席だ。おまえたちは身なりを工夫してもらうことになった。ちょっと演技も必要だがよろしく頼む」