不穏
「じゃあ、奥で書類を書いてもらおうか」
と、ギルド長が奥を指さしながら言った。
「ユーカも一緒でいいだろ」
「部外者は入れない」
「ユーカは俺の番いだ。部外者じゃない」
と、イラつきをにじませながら答えるルカ。
「悪いな、あの件についてはなるべく人に知られたくないんだ。おい、ミーシャなんかあったら直ぐに呼んでくれ。これでいいだろ」
と、ギルド長がギルドの職員に大声で叫んだ。
これは、何かあったらギルド長が対応するという周りの冒険者に対する脅しでもある。
ルカは苦々しい顔をしてこう言った。
「ユーカ、すまない。少しだけ待っててくれるか?」
私が頷くと、ルカは名残惜しそうに何度も振り返りながら、ギルド長と奥の部屋に入っていった。
なるべく邪魔にならないところに立っているとひそひそと声が聞こえる。
「なに、あれ?」
「耳無し?本当にいるんだ…」
「あんな弱そうなのが番いなんて可哀想」
「強制的に好きになっちゃうんでしょ?もし、めちゃくちゃ弱い獣人だったらどうする?」
「あたしは絶対嫌よ」
「言えてる〜」
「ってか、ルカさん狙ってたのに〜」
と、露出の高めなお姉さん達がいっせいに言い出す。
「おい、あれがあのSランク冒険者ルカの番いらしいぜ」
「最強の種族の狼獣人がね…。あんな弱っちぃのが番いか…」
と、男達も好き勝手騒ぎまくる。
「おい、聞こえるだろ…。ルカに絡まれたらどうすんだよ。ギルド長だって…」
「大丈夫だって、耳無しは俺らより何倍も耳が悪いらしいぜ」
と、優香には聞こえないように話す者達もいる。
優香は辛くなり、俯いてしまう。
「待たせたな」
俯いていた優香は、ビックリして顔を上げる。
その顔を見たルカは何かあったと確信して優香に聞く。
「何かあったか?」
「な、なんでもないよ」
「言い方を変える。 何があったんだ?」と、かなり強めに言うルカ。
「……」何も言えずに俯く優香。
「おいおい、その言い方はないだろ。嬢ちゃんだって言いたくないことぐらいあるだろうが」
と、ギルド長が割り込んできた。
ルカは周りの人達を睨むように見つめた。
「…。帰るか」
私は何も答えれなかった。本当の帰る場所なのか分からなくなったからだ。
そんな私を見て、ルカは少し乱暴に私の手を引いた。
帰り道で、星空を見ながらぼぅっと考える。
私は、やっぱりルカのそばにいちゃいけないんだ……。ルカは優しいから、番いである弱い私を切り捨てたり出来ないんだ…。離れなくちゃ…。