甘いブランチ
次の日、目が覚めると、まだ日が昇る前だった。というのも、カーテンから陽の光が差し込んでなかったからだ。
あの「家」では、この時間に起きるのが普通だったから…。
「ルカはまだ寝てるよね」と私を抱きしめて眠るルカを見て、その腕から脱出しようとすると、
「どうした。ユーカ。まだ早いぞ」と言って、目も開けずにきゅっと力強く抱きしめてくる。
「え、いや、あの、その」抱きしめられている現状に恥ずかしさを感じて言葉が上手く出なかった。
「寝ろ」と、今度は眠たそうに、言うことを聞かない幼児に言い聞かせるように、私を見ながら言う。
ルカの耳も眠たいのかペタンとなっていた。
私は眠いルカを起こしたくなかったので、大人しく寝ることにした。
誰かに抱きしめられて眠るなんてお母さん以来だな…。なんて思っているといつの間にか眠ってしまった。
目を覚ますと、ベッドには誰もいなかった。
今日の早朝目覚めた時が嘘のようだった。
「ルカ……」と、寂しさを誤魔化すように、早朝の暖かさを思い出しながら自分を抱きしめ、独り言を言うと、
「起きたか、おはよう」とルカがまるで私が起きたことが分かったかのように入ってきた。
「お、おはよう」
「着替えて、顔洗って、朝ご飯にしよう。朝と言うには遅いか。ブランチだな」
と、ルカが言うので、私は慌てて
「い、今何時ですか?!」と聞いた。
「今は10時過ぎだな。どうした」
「あの、私…ごめんなさい。こんな遅くに起きるなんて…」
10時過ぎまで眠ってしまうことなんて今まで無かった。泊まらせてもらってるのに、こんな時間に起きるなんて…と、叱責していると。
「ユーカも疲れてたんだろう。謝ることではない。それより、早くご飯を食べよう。エグエグを焼いたんだ。少し温め直してくる」と、ルカは言って部屋を出ていった。
私が顔を洗って髪をとかして、机の方まで行くと、パンやスープと、目玉焼きがあった。
「グロブの服もとても似合っているな。さあ、食べよう、ユーカ」
幸せなご飯の始まりだった。
「ユーカは、エグエグを食べるのは初めてだったか?どうだ、グロブの飯は?」
「初めて食べるものばかりで、少し、びっくりしてて…」
「味はどうだ、口に合うか?」
「う、うん」
事実口に合わないなんてことは無く、温かいご飯はすごく美味しかった。
「そうか」と満足そうな声を出すルカ。
「じゃあ、今日は、市場に行って買い物して、晩ご飯はなにかうまいものを食うか。服はリサに買ってもらったんだよな」
私はエグエグを口に含んでいたので、頷いて肯定した。
「そうか。では、髪飾りでも買おうか。ユーカの美しい髪はなんでも似合いそうだ」
「いや、でも…。ルカは保護者じゃないからお金が…」
「番いに尽くすのは普通のことだ」とルカは当然の事のように言う。
「私にとっては普通じゃないんです」
「俺がユーカに贈りたいんだ」と、私に熱い視線を送るルカ。
「う、じゃあ、1個だけ…」
「俺の愛は1個では示せない」なんて真剣な声で言うので狼狽して
「じゃあ、に、2個」
「数を増やすだけで愛が表せるとは思わん」と、ルカが言い切るので、恥ずかしくて俯いた。
ご飯を食べ終わると、ゆっくり暖かいお茶を飲んだ。
「じゃあ、行こうか」