長い一日の終わり
「ふぅ…」とルカさんは立ちどまり一息つき、また口を開く。
「ここが俺の家だ。二人で住むには少し狭いかもしれない。落ち着いたら引越しでもしよう」と言いながらルカさんは家に入っていく。
「どうした、おいで」とルカさんが手招きするので、「お邪魔します」と戸惑いながら言うと、「ただいまだろ」と、言いながら私の頭をぽんぽんと優しく叩く。
「ただいま」と私は照れながら言う。
両親が生きていたあの日々以来の言葉だった。
「ル、ルカさん。今日からよろしくお願いします」
「ああ、こちらこそ。今日から永遠にな」と、ルカさんは、微笑み、こう続ける。
「俺のことは、ルカと呼んでくれ」
私は、困惑しながら
「呼んでますよ」
「さんをつけなくていい。あと、敬語は止めてくれ」
敬語は、もはや癖だった。というのもあの「家族」は、私が簡略な言葉を使うとそれはもう、鬼のように怒るのだった。
「ルカ…?」と、困ったように私が呼ぶと、なにか凄い嬉しいことが起こったかのように「ああ、そうだ」と微笑むルカ。
「お前の名前をもう一度聞かせてもらえないか」
「優香だよ。ゆうか」となるべくゆっくり言うと、ルカは
「ユゥカ、いや違うな。ユゥッカ…。違うな…」
なんて、試行錯誤している。
グロブの人達にとって優香と、発音することは余程難しいのだろう。
「あ、あのユーカって呼んでくれれば」
「それはお前の名前じゃないだろ。でも、ちゃんと言えるようになるまでユーカと呼んでいいか?」
私の名前をちゃんと呼ぼうとしてくれる思いが嬉しかった。名前は両親が残してくれた唯一のものだから。
「はい。じゃなくてうん」私は、なれない砕けた言葉で答える。
「ユーカ。今日は疲れただろう。お風呂に入って早めに寝よう。また、明日ゆっくり話そう」とルカが言う。
お風呂は、シャワー付きで、しっかりセパレートだった。
ルカにお風呂の使い方と、歯磨き粉の場所を説明してもらって、お風呂からあがると、
「……なんて無防備な」
「え?なんて言ったの?」
「ちゃんと髪を乾かしてから出てこい」と、ルカが言い直してくれた。
「はぁ」とため息をつきながらルカは洗面所の方に言ってしまった。
ルカを怒らせてしまった。髪が濡れたままで出ていくことがダメなことって知らなかった。あの家では、髪を乾かすことなんて許されなかったから…。どうしよう…。
不安になっていると、ルカが洗面所から出てきた。
「ほら、髪乾かしてやる。なんで、涙目なんだ?風呂が熱かったか?」
ルカが怒ってないことが分かるとすごく安心した。
「なんでもない。ありがとう」
初めて髪を乾かしてもらった。それは気持ちよくて、温かくて、初めての体験だった。
ルカは私の髪を乾かし終えると、お風呂に入っていった。
ルカが乾いた髪で、お風呂から出てきた。自分で乾かしたみたいだ。
「じゃあ、寝るか。ベッド1個しかないけど、一緒でも大丈夫か?」
「わ、私は大丈夫だけど、ルカは狭くない?」
「ユーカは小さいから、狭くなんかならない。 」と少し笑いながらルカは言った。
そして一緒のベッドで眠りについた。
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