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白い雪は白い鳥の羽根

作者: 志崎洋

 男は夢を見ていた。それは、自分の子どもの頃の夢だった。


 窓の外には雪がやさしく降っている。

 突然、白い鳥がやってきてこう言った。

「ママのところにつれていってあげよう。さあ、ぼくの背中にのってごらん」

 子どもはこっくりとうなずいた。

「うん、つれていって。ママにあいたい……」

 子どもは白い鳥といっしょに飛び立っていった。


 男は、そこでハッとして目が覚めた。

「ママか……」

 その男はつぶやいた。

「ふん、しょせん女なんて……」

 男は女と別れたばかりだった。その腹いせに酒を飲み、いつしか酔いつぶれてしまっていたのだった。


 男が女と出会ったのは五年前。

 冬の夜、冷たい雪の中に埋もれるように倒れていたところを彼女が助けてくれたのだった。


 男は過去の記憶を全く失っていたが、彼女は手厚く介抱してくれた。

そして、いつしかそれはお互いの愛へと移り変わっていった。


「あの頃が、いちばん幸せだった……」

 男は、またつぶやいた。


 やがて、二人は結ばれ子どもが生まれた。かわいらしい男の子だった。

 しかし、子どもができてから二人の仲はおかしくなっていった。彼女は子どもを溺愛するようになり、男は彼女を罵倒するようになっていった。いや、それは男の嫉妬だったのかもしれない。嫉妬は憎しみへと変わり、もう取り返しがつかなかった。


「出ていくわ!もうあなたとは暮らしていけない!」

「ああ、出ていけ!」

「あの子も連れていくわ!」

「だめだ!あの子はわたしが育てるんだ。さっさと出ていけ!」


 売り言葉に買い言葉だった。女は泣きながら出ていった。外には冷たい雪が降っていた。


「これで、いいんだ……これで」

 だが、男は別れてから言いようもない寂しさを感じた。そして、本当に彼女を愛していることに気がついた。


 男はぽつりとつぶやいた。

「あの女はひょっとして、俺がさがし求めていた……」

 初めて出会った時、彼女はなぜか母親のような安らぎを男に感じさせてくれたのだった。

 その時、上の部屋からガタンッという音が聞こえた。

「何だ!」

 その部屋は子どもがいる部屋だった。彼はいそいで二階にかけのぼった。


「まさか…!」


 部屋にもう子どもはいなかった。ただ窓が開いていて、外から雪が入り込んでいた。

 窓の外には、ふわふわと白い雪がやさしく降り続けていた。それはまるで、白い鳥の羽毛のようだった。


 子どもは旅立っていった。ママに会うために…

 いや、男と女としてめぐり逢うために……。






            

男が愛に気づいた時に、男の旅が始まる。

永遠に追い求める愛は美しい……。


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