第7話『緊張』
コンコンとノックの音がした。
「う……んん……」
ーー誰だろう……?こんな朝早くに。
「ミドちゃん、入るぞ」
ガチャっとドアが開く音がして、ラルフが入って来た。
「ラルフさぁん……どうしたんですかぁ?」
まだ、眠い。
ミドは目を擦りながら、ラルフを迎えた。
家に居たときは、誰かに起こされることがなかった為、いつも自分の好きな時間に起きていた。その為か、朝に弱い。
「おいおい、どんだけお坊ちゃんなんだよ。早く準備して、上司達が居る部屋に行くぞ」
「え……?はい……」
コクコクしながら、身支度を済ませ、ラルフに付いて行った。
♢♦︎♢
「連れて来たぜ」
「おはようございます……」
「ごめんね、朝早くに起こしちゃって」
知らない声が聞こえてきた。
「ミド・テトラ、Stone houseのリーダー、タナトス様だ」
スイナが紹介してくれる。
「そんな、様付けなんていらないのに。スイナは律儀だなぁ」
タナトスさん。様の方が良いのかな?なんて思ってしまうが、ここは様付けの方が良いだろう。なんて言ったって、ここのトップなのだから。
タナトスは微笑みながら、スイナの頭を撫でた。
「よろしくね、ミド・テトラ君」
「はい、よろしくおーー」
急にギュンと空間が揺れたような気がした。
『君はあの子の弟かい?』
「え……」
タナトスがミドの顔の横で呟く。
『君は美しい緑の瞳をしているね』
「あ、あのーー」
『黒猫の導きには、気をつけてくださいね?』
『美しい緑の瞳ーー』
「……」
「ミド、どうしたの?」
「え?」
レルナは、ミドを心配するように聞いた。
「なんでもないです……」
周りのメンバーも不思議そうな顔をしている。
不思議な言葉を言った張本人のタナトスも同じような様子だ。
あれは勘違いなのか?
いや、ハッキリと聞こえた筈なのだが。
「それでは、今日の任務ついて説明するよ」
「え?任務?」
「来て早々だが、簡単な見回りの任務を行う」
「そう。ステラ国周辺の国が怪しい動きをしていないか、又は侵入していないかを調べて来て欲しいんだ」
「今回の同行監視者は、私とアムールだ。リーダーのブルアと副リーダーのリンを中心に任務にあたってくれ。シルラとペイアは、監視室で、メンバーと通信を取り合って、状況をまとめて欲しい」
「了解致しました」
メンバーのみんなは、当たり前のようにその言葉を口にした。
「ミド・テトラ君は、周りがしっかりサポートしてね。では、いってらっしゃい」
みんなそれぞれ、部屋から出て行く。
「ミドちゃん、行くぜ!」
「あ、はい!」
ラルフさんに付いて行く。
ミドは後ろを振り返ると、タナトスはニコッとして、手を振った。
♢♦︎♢
ミド任務用の動きやすい服装に着替えていた。
短パンに小さめの茶色のジャケットだ。
そして、薄緑色の帽子を被り、帽子の上にゴーグルを装着する。
「ほら、スカーフ忘れてるよ」
「これって、必要なんですかね?」
「分かんない。僕だって、この帽子はいらないと思うけど」
レルナは、黒く平べったい帽子を被っている。
ミドはレルナに渡された赤茶色のスカーフを首に巻き、長方形のビスケットや水が入っている小さなショルダーバッグを肩にかけ、ボウガンを背負った。
ミドはこれで、人を殺めなくてはならない。これが、大切な人を失ったが為に流してしまった涙への代償だ。罪だ。
罪を犯してしまった者は、犯罪者として捕まり、国に管理される。
感情規制法に反した者は、国の安定、そして、幸せの為だけに戦わされる。
そして、施設という名の檻に閉じ込められ、そこで一生を終える。
それが、ステラ国に生まれた者の宿命だ。
「みーどっ!」
「うぁ!」
いつも、ミドを支えてくれるレルナは、とても優しい。
ここに居るということは、彼女も辛い経験をした筈に違いない。
なのに、どんなときだって、ミドを守り、支えてくれる。
ミドには欠かせない大切な友人、そして仲間の一人だ。
「そんなに汗かかなくても、大丈夫だよ」
「偵察だけだしね」
「気楽に行けば良いですわ」
セイラとウサナの二人も会話に入る。
「ありがとうございます」
三人と一緒にトラックに乗り込む。
そして、トラックはミドの知らない場所に向かって行った。