第6話『訓練と怪しい者達』
「はぁはぁはぁ……」
「遅い!もっと早く動け!」
ここに来てから、二日目。
ミドは只今訓練中だ。
『お前の訓練を担当することになった。昨日も自己紹介したが、アムールだ』
『早速、お前の武器だが……ボウガンになった』
『ボウガン?』
『簡単に言えば、高性能な弓矢みたいなものだと思ってくれ』
そうして、今に至る。
「遅いんじゃない?リーダー」
「お前が上達したからだろ。魔法だけに頼らずに」
ペイアは短刀を、ブルアは背負っていた剣で戦い合っている。二人共、凄い速さだ。
「よそ見をするな!」
ミドも頑張って、ボウガンでアムールを狙っているのだが、やはり怖さが勝ち、全て外れてしまっている。
いくら、練習用の怪我をしない矢だからって、見た目が本物に近いから手が震えてしまうのだ。
怪我をさせたら、どうしよう。殺してしまったらどうしよう。そればかり、考えてしまう。
「考え込むな!私はお前を殺そうとしている敵だ!今は拳だけだが、私は銃も使える。何通りの戦い方を持っている奴も居るんだ!殺らなければ、お前が殺られる!」
「で、でも……」
「お前は自分の身ですら、守れないのか⁉︎」
ーー自分の身……。
確かにミドはずっと、お母さんに守られてきた。
けど、ミドを守ってくれていたお母さんはもう……居ない。
自分の身は自分自身で、守らなくてはいけない。
「うあぁぁ!!!」
ミドは狙いを定めて、思いっきり打った。
でも、軽々と避けられてしまう。
「よし、休憩だ」
「え?僕、アムールさんに当てられてませんよ……?」
「お前は当てる前に撃つことに慣れろ。お前は貴族出身だから、こういうのは、慣れないだろう?」
「ほら、お疲れ!」
さっきは、遠くで銃の撃つ練習をしていたレルナが透明な筒状のものをミドの頰に当ててくる。とても、冷たい。
「これは?」
「知らない?ペットボトルっていうやつ。これはスポーツドリンクが入っているんだよ」
「初めて、知りました」
「これ、あげる。飲んで」
「ありがとうございます」
だけど、開け方がわからず、レルナに教えてもらい、やっとスポーツドリンクというものを口に含んだ。
スポーツドリンクは初めて飲んだが、甘くて美味しい。
訓練の後にピッタリな飲み物だなと思った。
「ミドちゃんって、知らないこと多いんだな」
ラルフも、スポーツドリンクを飲んでやって来た。
「僕、基本的にリーブル区から出たことないので、他の街のことは、よく分からないんです」
「箱入り息子ってやつ?」
「そうなるんですかね?」
「あーあ、ムカつく」
先程、ブルアと訓練をしていたペイアは、ミドに聞こえるようにそして、嫌味みたく言う。
「ペイア、言葉を慎め」
「あんまり、あいつのことは気にすんな。何考えているか分からない奴だから」
「はい……分かりました」
「そういえば、ミドは上層部の人達には、会ったの?」
「いえ、会っていないんです」
「そっか。まぁその内、呼ばれると思うよ」
ーー上層部の人達って、どんな感じなんだろう?怖いのかな?
「ミド・テトラ、これから共に頑張っていこうな」
アムールが手を差し出す。
「はい!」
ミドはもちろん、手を掴んだ。
「僕達も、付いているからね!」
レルナは、肩に手を置き、言った。
昨日の重い雰囲気とは反対に、今日はなんだか楽しい。
みんなで、沢山笑い合った。
♢♦︎♢
そんな輝かしい風景を監視室から、見ている人影が四人居た。
「ツクナに随時、様子を報告させるわ。頼むわね、ツクナ」
「はい、ツキ様。承知致しました」
黒の長髪で、着物を着ている。
さらに、車椅子に乗っている女の人は、ツキ。
車椅子の傍にずっと付いている短めの白髪に白の帽子、白のコートを着ている女の人の名は、ツクナ。
「どうやら、"前"とは違って、戦いには慣れていない新人のようですね」
「まぁ、何も知らされずに生きてきたからね」
黒髪で、黒縁眼鏡をかけ、スーツを着ているのはジバル。
机に肘をつきながら、映像を見ている黒髪でたまに白色の髪が入っている男の名は、タナトス。
白いブラウスにグレー色のスーツを着ている。ネクタイはしていない。
タナトスーー
彼はStone houseの頂点に君臨し、死神と呼ばれている存在だ。
Stone houseに居る者の命を握っているのは、彼。
生きるか、死ぬかは、彼次第。
優しい顔をしていながらも、心は何も思っていない。
冷静で冷酷な姿は、ジバルに敬われている。
「タナトス様、ヤヨイ国の奴らが欲しがったら、どうされるおつもりで?」
「まずは、あっちに渡す。あっちが儀式の準備を終えた後に奪い返せば良い話だ」
「なるほど。ですが、ブルア達は緑の瞳が狙われていることを知ってしまっています。必死に守るのではないですか?」
「あの子に暗示をかければ良い」
「承知致しました」
「僕はこれから、ヤヨイ国の代表と電話会談する」
「俺はミド・テトラのことをもう少し、調べてみます」
「頼んだよ」
「はい。失礼します」
そう言って、ジバルは部屋から出て行った。
「君はとても美しい緑の瞳をしているね。"前"の人みたいに」
タナトスは映像を切って、部屋を出たのだった。