第50話『陰陽師と二匹の大蛇』
「ブルアさん……ブルアさん!」
ブルアはゆっくりと目を開けた。
目の前にはシロキが心配そうにこちらを見ていた。
すぐに立ち上がろうとするが、意外とあの空間でエネルギーを消費していたようで、よろけてしまう。
「くっ……こんなところで……」
「先程の術は人間をこことは違う別の空間に閉じ込めて、出させないようにするものです。どうやら、ブルアさんだけを狙っていたようですね」
「俺は情けないリーダーだな……」
「今はあなたのお仲間さんがフミオと戦ってくれていますが、最終的にはあなたの力が必要です!」
「シロキ、ありがとう。俺はもう大丈夫だ。成し遂げなければならないことがある」
「その調子ですよ」
シロキに手を差し伸べられたブルアはその手を取り、立ち上がった。
周りを見渡すと仲間達がフミオと対峙している。
フミオはブルアが別の空間に飛ばされる前よりだいぶ、様子が違っていた。
瞳は人間のそれではなく、蛇のようで、首には二匹の大蛇を巻き付けている。
まるで、その二匹の大蛇がフミオを操っているように見えた。
「シロキ、お前の主人は元からあんな雰囲気なのか?」
「いいえ、全く。温厚でとても優しい方でしたよ」
「戦って後悔しないか?」
「えぇ、私はあんなに苦しんでいる主人の姿を見たくありませんので」
「分かった。早く、止めに行こう!」
ブルア達はフミオと対戦している仲間達の元へ加勢しに行く。
「みんな!待たせてすまなかった!」
「ブルア!今、フミオは防御するばかりで、攻撃してこないけど、どうする?」
二人が加勢して、副リーダーのリンはブルアに状況を伝える。
「俺たちの目標はあくまでもミドを救出することだ。攻撃を仕掛けつつ、隙を見て、ミドを助け出すぞ!」
「おう!!」
「リン、ケガは大丈夫か?厳しいなら後方でーー」
「ブルア、私ならもう大丈夫。戦えるよ」
リンはしっかりとした目をしていた。
その目線の先にはもう人間の心など持ち合わせていないフミオが居る。
フミオは薄ら笑いを浮かべて妖しくこちらを見つめている。
そして、目をギョロリとさせた。
「ひゃっはははは!!!かかって来い。愚か者共よ」
フミオは不気味な高笑いをしながら、手を広げる。
彼に巻き付いている二匹の大蛇が完全にフミオの意識を乗っ取っている為、もう説得は効かないだろう。
フミオはミドの実の父親ではあるが、ブルア達はミドの為にもやらなければならない。
殺さなければならないーー
「はっ!!」
まずは最初にリンが斬りかかった。間を開けずにウサナも斬りかかる。
だが、フミオには当然のように避けられる。
「黒影よ、我に力を貸してくれたまえ。目の前の妖を喰らえ」
次にシロキが術で黒影を召喚する。黒影達は一気にフミオの体に取り憑き、フミオの動きを止めてくれた。
「シロキ、あいつの対処法とかは分からないのか?」
「あの大蛇達は恐らく、物理的な攻撃はあまり効果的ではないでしょう。フミオの体には傷がつくんでしょうが、奴らの術によってすぐに回復されるかと。そして、この黒影達もすぐに消えてしまうかもしれません」
フミオの体に巻き付いている二匹の大蛇が黒影達を喰らい始めた。
あっという間に黒影達は消える。
「まぁ、黒影は生物ではないので、死ぬことはありませんけど」
「で、対処法は結局ないのか……?」
黒影達が消えた後はリンやウサナ達が攻撃を仕掛けて、時間稼ぎをしてくれているが、一つも攻撃が当たらない。
ーーこのままではダメだ。何せ慣れていないタイプの敵。ただの力任せじゃ、絶対に勝てない。だが、今ここにいるのは物理攻撃が得意な奴ら。魔法が使える奴はまだ来ていない。どうすれば、勝てる?どうすれば……。
「対処法は二つ。一つ目はあの大蛇達を消す。まぁ、祓うか封印するかですね。ただこれは相当な技術がないと無理ですので、可能性が高い二つ目ーーフミオを一撃で倒す」
「一撃で?」
「心臓を一刺し。それも大蛇達に気づかれないくらいに早く」
「分かった。けど何故一撃でなければならない?」
「中途半端に瀕死状態にさせてしまうと、大蛇達がフミオの体を捨てて、別の誰かの体を乗っ取ってしまう可能性が高いです。彼が死にかけていれば、他の強い奴を乗っとればいいと考えるでしょう。そうしたら、次はあなたかもしれませんよ?」
ーーフミオを一撃……あまり使いたくないが、手段は選んでられない。
「シロキは援護を頼む」
ブルアは覚悟を決めて、フミオの元へ歩き始める。
「何か考えがあるんですか?」
「ちょっと無茶をする方法だけどな。勝率は高くなる筈だ」
ーーフミカ、ごめん。今だけは許して欲しい。どうしようもない子どもに戻る俺を。
ブルアは目を閉じて、昔の感覚を思い出させる。
戦いを、人を殺すことに快楽を感じていた頃の自分に戻る。
そちらの方が何も考えず、本能的な感覚で戦える。
『いいのー?僕が来ちゃって』
ーー手段は選んでられない。
綺麗な青髪の子どもがこちらを見ながら、悪魔みたいに笑っている。
ブルア本人の目が変わった。
「お前を一撃で殺したら、ヒーローになれるんだ」
「ブルア……?」
「ヒーローになって、またみんなと幸せに暮らす」
『そうだ。こいつさえ殺せばヒーローになれるんだ』
いつもと雰囲気が違うブルアにリン達は戸惑っていた。
「ブルア、どうしたのかしら?……」
「ブルアさん……」
ウサナとシルラは不安になる。
「大丈夫だよ。ブルアにはきっと何か考えがある。リーダーを信じよう」
「……それもそうですわね」
ーー楽しい、楽しい楽しい楽しい!!!
「あはははっっ!!」
ブルアは子どものように笑いながら、フミオに向かって走る。
「……っ⁉︎」
今までフミオはリン達の攻撃を避けてばかりだったが、ブルアが向かってきて初めて攻撃を仕掛けてきた。
ブルアはその攻撃を軽やかに避ける。
「すばしっこいネズミめ!」
「どこ見てんの?」
「何?」
「つーかまえた!」
ブルアはフミオの背中に周りしがみついた。剣を持ち替え、心臓を一気に狙う。
「死んじゃえ!」
グサリと確かに刺した感触がした。
「これで殺せると思ったかぁ?」
「死んでない⁉︎」
ブルアの剣はフミオの心臓を刺している。だが、血が全く出ていない。
「この大蛇達は優秀でね。私の体の外だけではなく、二匹で分かれて中身も守ってくれている」
フミオの体を見ると大蛇が一匹、見えなかった。
もう一匹は腕に巻き付いており、ブルアを睨んでいる。
「どう攻撃されようとお前達は私に傷すらつけられない」
「ひゃーはっはっはっ!!!!!!」
「くそ!!!」
ブルアは剣を持っている手がガクガクと震えていた。
剣を引き抜いて、体勢を立て直したいのだが、大蛇が剣に強く巻き付いて離れない。
剣が引き抜くことができない。
「おい、蛇……邪魔なんだよ!!!」
「さぁ、そろそろ離れてもらいますか」
フミオはブルアの腕を掴んで、投げ飛ばす。
「かはっ!!」
「今度は僕が一瞬で殺してあげましょう」
フミオは自分自身に刺さっていた剣を抜いて、上からブルアの心臓目掛けて振りかざした。
「させない!」
リンが駆け寄り、フミオの攻撃を弾く。
「ブルアさんの武器を返せ!」
シルラは自分の体を最大に強化し、フミオの腹に一発入れた。
彼の手から離れた剣をブルアは何とか剣を取り戻す。
「さぁ、次は私たちが相手です」
「わたくしも参加させて頂きますわ」
「リン、シルラ……ありがとう」
「今はウサナと白い奴が対応してくれている。ブルア、立てる?」
「あいつ、見た目以上に力が強い。きっと蛇の力で強化されている」
「そんな……」
「あとさっきは伝えられなかったが、どうやらフミオの心臓を一発で刺して殺さなければならないらしい……」
「一発……少しずつ弱らせるのは得策ではないのですね」
リンとシルラに立たせてもらいながら、ブルアは大事な情報を伝える。
「外も中も守られている。だが、大蛇二匹には直接的な攻撃は効かない」
「何かフミオや蛇達を焦らせるようなこと、起こせないですかね……」
ーーフミオ達を焦らせる方法……奴らの弱点は何だ?弱み、弱み……。
『覚醒者のリーダーは力だけで、頭は悪いのかぁ?』
「誰だ⁉︎」
知らない男の声が頭の中に流れ込んできた。
そして、何か音がする。この音はーー
「じゃあ、お前の仲間もらってもいい?」
声がした方を向くと、ペイアとコハク。そして、目の下に目立つクマがある男ーークロキが居た。
しかも、クロキは椅子に縛り付けられて眠っているミドのすぐ近くに居て、彼の手には何かのリモコンのようなものが握られている。あれはーー
「眠り姫様。おっと王子だったか、今楽にさせてやるよ」
「やめろ!!!ミドに触るなぁぁぁぁ!!!!!」
フミオは必死に叫びながら、ミドに駆け寄ろうとする。
クロキは最高の笑みで、リモコンのスイッチを押した。




