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石の支配  作者: シュシュ
第1章 『涙から始まる物語』
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第40話『約束』

「痛てぇ!何すんだよ!?」

 

「ぶつかってきたお前が悪いんだろ」


「それは悪かったって謝っただろう!」


「ムカついたから、殴った」


 ラルフは街では悪い意味で有名な子どもだった。

 他人に暴力を振るうことで、ストレス発散をしている。

 だから、ラルフに近づく者は誰一人として居なかった。


「さぁーてと、帰るか」


 ラルフの家族は母親のみ。

 父親はというと、ラルフが小さい頃に仕事中の事故で亡くなってしまった。

 力強くて頼れる父をラルフは尊敬していた。

 自分もそんな風になりたいと一度は父親がやっていた大工を目指していたが、亡くなってからは将来の夢がなくなった。


「ただいまー」


「お帰りなさい。ラルフ」


 今、家計を支えているのは宿を経営している母だ。

 そんなに人が来るというわけでもないが、日々の生活をまかなえるくらいは稼げている。


「また、喧嘩したの?」


「まぁ……」


 母は頬を膨らませる。

 とにかく母は優し過ぎるので、暴力が嫌いだ。

 母の嫌いなことをして申し訳ないとは思うのだが、癖になってしまいやめることが出来ない。


「ラルフ、何回も言ってるけどねーー」


「人を傷つけるのは良くないーーだろ?そんなの分かってる」


「分かってるなら、どうして……」


「何でも良いだろ!」


「ラルフ、本当に気をつけないと、いつか返ってくるんだよ?」


「返ってくる?」


「やったことは返ってきてしまうの。もしかしたら、ラルフがやったこと以上のものかもしれない。だから、今日からもう暴力を振るうのはやめて」


「分かったよ」


「本当に?」


「本当だってば」


「よし、約束ーー」


 母は小指を出す。

 14歳にもなって、指切りげんまんは恥ずかしいのだが、一応ラルフの方からも小指を出した。

 指切りをし、約束を誓う。

 母はラルフの頭を撫で、微笑んだ。

 ラルフは恥ずかしさで、顔を赤らめた。


 ◇◆◇


「行ってきます!」


「行ってらっしゃいー暴力はダメだからね!」


「分かってるって」


 家を出ると早速、周りがざわつき始めた。


「ラルフだ……」


「お母さんは優しいのに、どうしてラルフはあぁなんだろうね」


 いつもそうだ。

 家を出て、街を歩くと必ず言われる。

 "お母さん"はーーなのに、"ラルフ"は違う。

 俺は俺だ。何故、母と同じでなければいけない?

 母も一人の人間で、俺はラルフという一人の人間だ。

 決して、俺は母や父のコピーではないのだ。

 悪口は止まらない。まぁ、自業自得なのだが。


「痛っ」


 誰かがラルフにぶつかってきた。

 最初、ラルフは相手の胸ぐらを掴もうとしたが、母との約束を思い出し、踏みとどまった。

 だが、相手のからぶつかってきたのに、態度が大きいのが気に食わなかった。きっと、この街に住む貴族のお坊っちゃんだろう。

 ラルフは好まないが、いかにも高そうな服を着ている。


「お前、確かあのボロい宿屋の子どもだったか?君の母君に伝えてくれ。もうすぐ、あの宿屋はいらなくなると」


「はぁ?」


「君の家はあまり税金を納めてくれないよね?だから、この街にはいらない。消えてくれ」


「じゃあ、お前がどっか大金を納めてくれる街に行けば良いだろ!!」


 ラルフは約束を破ってしまった。

 母との思い出のあの場所を壊されたくなかった。

 恥ずかしくて言い出せなかったが、本当はーー


 あの宿屋を継ぎたかったんだ。


 笑顔溢れるあの場所が居心地が良かった。

 俺も母さんが大事にしていたあの場所を守りたかった。

 いらないなんて、お前が勝手に決めるな。


「いいか、あの宿屋は絶対に渡さない。壊させるもんか!」


「この僕を殴ったこと、後悔するんだなーーやったことは必ず返ってくるんだ」


 所詮、犬の遠吠えだと思っていた。

 両親と金に守られているひ弱な奴。

 あんな奴に負けてやるもんか。

 俺は強い。母さんもあの宿も守れる。


 その筈だった。


 ◇◆◇


 宿で客と自分達の朝ごはんを作っている母が居た。

「おはよう」の挨拶をしたラルフは母の元へ向い、盛り付け終わった料理を客へと運ぶ。

 運ばれた料理を美味しそうに食べる客を見て、母は喜んだ顔をした。そんな母を見て、ラルフも嬉しくなった。

 談話をしていると、扉が開いた。

 受付机に向かおうとしたが、ラルフの歩みは止まった。

 入口には貴族のあいつが居た。

 あいつはニヤリと笑う。


「こいつの母親を捕らえろ」


 ぞろぞろと黒服の男達がやってくる。

 黒服は母の手を引っ張り、どこかへ連れて行こうとした。

 ラルフは追いかけたが、一人の黒服に足止めされる。


「お前を不幸にしてやるよ」


 あいつはまたニヤリと笑う。


「母さん!!!……?夢なのか……」


 悪夢で起きるとは最悪だ。

 ラルフは冷や汗をかいていた。

 タンスからタオルを出し、シャワールームに向かった。

 冷たいシャワーを浴びても、気持ち悪いモヤモヤが止まらなかった。


 あれは本当にただの夢なのか……?


 そんなモヤモヤな気持ちを抱えながら、下へ降りて行った。

 母と客の楽しそうな声が聞こえてくる。

 その声を聞き、ひとまず安心することが出来た。


「母さん、おはよう!」


「おはよう、ラルフ」


「っ!?」


 聞こえてきたのは母の声じゃない。

 扉の方を見ると昨日殴った貴族のお坊ちゃんが居た。

 あれは夢じゃなかった。

 このままだと、母さんが!


「母さん!逃げろ!」


「行け」


 黒服の男が飛び出した俺を床に押さえつける。

 その間に母さんは他の黒服に手を引っ張られて行く。


「母さん!母さん!」


 俺は母さんの方へ手を伸ばすが全然届かない。

 母さんが見えなくなると、あいつは俺の前にやって来た。

 今すぐ殴ってやりたいが、体を完全に固定されている。


「広場に来い。良いものを見せてやる」


「クソッ!!!母さんをどうする気だ!?」


「離せ、行くぞ」


 体が自由になったとき、貴族の方に殴りかかったが、逆に黒服の大人の腕が腹にくらって倒れ込んでしまった。

 だが、倒れている場合じゃない。

 あの場所へ行かなければ。


 ◇◆◇


「すまねぇ!どいてくれ!」


 沢山の人を掻き分けて、広場の真ん中にある場所へ向かった。

 真ん中には噴水があるのだが、その近くに手を後ろで縛られている母さんが居た。


「母さん!」


 今度は誰にも止められず、母さんの元に辿り着くことが出来た。

 縄を解こうとするが、きつくて男の俺でも難しかった。


「ラルフ、約束破ったのね……」


「え……」


「お母さんはラルフに幸せになって欲しくて、約束を取り付けたのに……」


「ごめん……ごめんなさい!母さん!」


「もう、本当に悪い子なんだから……」


 母さんは笑いながら涙を流した。


「今度はその力を誰かを救う為にーー」


 大きな銃声が聞こえてくると、母さんの頭から血が出ていた。


「母さん!母さん!?なぁ!なぁ!起きてくれよ!!!」


「だから言っただろう?やったことは必ず返ってくるって」


「クソ野郎!」


 俺はあいつに殴りかかろうとしたが、止めた。


「今度こそは約束を守るみたいだね。まぁ、せいぜい亡き母の前で自分の罪を反省してな!どれだけ謝っても、君のお母さんは帰って来ないけど!あははっ!!!」


「母さん……今度こそ約束守るから、帰って来てよ!!!お願いだから!!!」


「俺を一人にしないで……」


 目から雫が垂れてきた。

 しょっぱい雫だ。

 意味の分からないそれを手で拭くが、それは止まることを知らない。


「ごめんなさい……ごめんなさい……」


 もう、俺は生きていけない。

 家族を失ってしまった俺は生きる意味をなくしてしまった。

 母さん、ごめんなさい。

 俺、母さんの子どもで幸せだった。

 だけど、親不孝な子どもでごめんなさい。


「うぐっ……ひっく……ひっく……」


「そのまま死ぬつもりか?」


 気づいたら、目の前にはスーツを着た全く知らない男が居た。


「お前は悲しみの罪を犯した。一緒に来てもらおうーー」


 ◇◆◇


 俺はこうして、覚醒者となった。

 戦場に赴き、人を殺める。

 もう、約束守れないや。

 俺はこれから、誰かを傷つけることしか出来なくなっていくから。

 ただ、戦場で母さんと同じくらいの歳の女性を見ると手が止まってしまう。たとえ敵でも、敵にだって家族が居た筈。

 それをぶち壊しているのだから、俺はーー

 きっと、残酷に死ぬ運命なのだろう。






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