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石の支配  作者: シュシュ
第1章 『涙から始まる物語』
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第21話『書類と期限に厳しいあのお方』

 誤字確認、良し。空白がないか、良し。

 時間は、遅れていない。完璧だ。

 ミドは丁寧に書類の不備を確認すると、小走りで、事務室へ向かう所だった。


「みーどちゃん!どこへ行くのかしら?」


「コハクさんーーちょっと、ハヤトさんの所へ書類を届けに行くんです」


「あら、ハヤトの所へ?私も付いて行きましょうか?」


「ぜひ、お願いします……」


 ハヤトは、主に事務の仕事をしている。その為、健康診断書などの書類を集め、管理し、入居手続きなどの作業もハヤトの仕事なのである。


 そして、ハヤトは、期限が少しでも遅れたりすると、ものすごい怖いとチームのみんなからは聞いている。

 なので、早めに仕上げて、今提出しようと思っているのだが、普段の顔も怖いので、ミドにとって、コハクの言葉はありがたい。


 事務室に着くと、コハクが率先してドアを開け、中に入ってくれた。それに倣う。

 部屋に入ると、ハヤトが机に向かって何か書き物をしている。


 真剣にやっているので、中々声をかけづらい。だが、コハクはそんなの気にせず、ハヤトの目の前に立つ。


「ハヤト!ミドちゃんが書類を提出しに来たわよ〜」


「コハクさん、驚かさないでくださいよ……」


「もう、敬語はいらないって、いつも言っているじゃない。あまり、歳変わらないじゃないの!」


「いや……だって、先輩ですし……」


「ハヤトさんって、おいくつなんですか?」


「19歳です」


「え、」


 ーー未成年⁉︎


 ーーハヤトさんは凄く大人に見えているのに、まだ未成年だとは……。


 それに、5歳差はあまり変わらないとは言わないような気もするのだが……。


 どうやら、ハヤトとコハクは、仲が良いらしい。この雰囲気だと、上手く書類が渡せそうだ。


 持っていた書類をハヤトの目の前に出し、「確認、お願いします!」と言ってみたものの、ミドは凄く不安であった。


「…………」


「あの……?」


「うん、大丈夫ですね。ありがとうございます。確認、完了しました」


「あ、ありがとうございます」


 なんと、ハヤトはぎこちないけれど、微笑んでくれた。きっと、表情を作るのが苦手だけで、根はとても優しく、真面目な性格なのだろう。


 コハクも隣で、微笑んでいる。

 成長した若者を見守るような眼差しで、彼を見つめていた。

 暖かくて、優しい。そんな感じだった。 


 お母さんーーみたいな。


 ミドはお母さんの笑顔を思い出した。

 いつも、何か出来ると、褒めてくれた。

 抱きしめてくれた。それがとても心地良くて、ミドは幸せだった。


 だけど、お母さんはもう居ない。

 どれだけ探したって、見つかりやしない。

 悲しいけど、現実だ。それが、真実だ。


「さてと、ミドちゃん、行きましょうか?ハヤトもお仕事残っているみたいだし」


「あ、はい!では、失礼しました!」


「また、来るわね〜」


「ーーーー」


「また、寂しくなったな」


 ♢♦︎♢


「はぁー」


 やっと、気持ちが軽くなった。

 さっきは、とても緊張感を漂わせながら、過ごして居たので、ぐっと軽くなった。


 コハクは相変わらず、ルンルン気分で歩いている。そこまで、明るく振る舞えるコハクが羨ましいとミドは思う。


「コハクさん、ハヤトさんと仲が良かったんですね。今まで、気づきませんでした」


「あら、そう?彼とは私が入所した当初からの付き合いなの」


「昔から、あんな感じなんですか?」


「うーん……だいぶ、明るくはなったわよ。昔なんて、無表情過ぎて怖かったもの」


 コハクは言葉を続けた。


「彼ね、特殊な環境で育ったものだから、感情に乏しくて。言われたら動く、ロボットみたいだった。だって、私が微笑んだだけで、何故、そこで笑うという感情を表に出したのですか?って、言われたのよ?」


 ミドはStone houseの職員達は、親の顔を知らずに幼少期を過ごすと言っていたことを思い出した。


 立派な監視者になる為に、完璧な職員になる為に、彼らは教育される。

 親の情報を一切教えられず、温もりを与えられず、愛を与えられないで生きていた。


 大人達に愛がなかったとは、思わない。

 だが、幼少期に必要な親の愛をもらえずに、成長していってしまっている。

 母親の温もりに抱かれる幸せ、共に寝る幸せ、共に過ごす幸せを彼らは奪われている。

 冷たい机に知識だけを詰め込ませる教科書、無表情の大人、静かな空間。


 永遠に出られない檻ーー


 どれだけ、鉄格子から手を伸ばしたって、助けを呼ぶ声を出したって、誰も救ってはくれない世界に居続けてきた。


 だから、ここの人達には、笑顔が欠けている。


 ミドは彼らを救いたいと思った。

 だけど、どうすれば良いか分からない、どうしようもないんじゃないかと言う諦め、その両方がミドの胸に引っかかっていた。


 今日もまた、ミド自身の答えを待たないで、日が変わっていく。










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