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石の支配  作者: シュシュ
第1章 『涙から始まる物語』
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第19話『暖い天使の笑顔はもうそこにない』

 一方、監視者達は監視者専用の休憩所に集まっていた。

 そこには外の景色が見える酒場みたいな場所だ。


 スイナ、アムール、リゼは外の景色を一望出来るカウンター席で、それぞれ過ごしていた。

 スイナはコーヒー片手に報告書を作成している。

 リゼも同じようにコーヒーを飲みながら、パソコン画面とにらめっこしていた。

 アムールはというと、少し分厚いステーキと水で、腹を満たしているようだ。


「アムール、ミド・テトラの訓練はどうだ?」


「動けてきてはいますが、まだ心がお坊っちゃんです」


「ですが、周りからの信頼は厚いそうです。やはり、"前"の方の影響かとーー」


「そうかーー何かあったら随時、報告しろ」


「了解しました」


「ーーーー」


「あっれれ〜?こんな所に居たんだ!」


「ーーーー」


「落ちぶれ貴族の出身のくせにーー」


「オトカ?」


 三人の目の前に現れたのは、15歳くらいの少女。水色のスカートに白いシャツ、水色のリボンと爽やかな雰囲気の少女だ。

 だが、この少女、少し悪い噂がある。


 噂好き、傷えぐりのオトカーー


 けれど、オトカの情報力は役に立つものばかりで、おまけに格闘術を心得ている。

 なので、スパイとして潜り込むこともしばしあるくらいだ。


「そんな話、まだ信じているのか?」


 アムールは呆れたように言う。

 言われている本人、スイナは無表情で自分の持っているコーヒーを眺めていた。


「本当だよ⁉︎覚醒者で犯罪者のくせに両親共々、貴族時代の自分に浸っていたんだから!」


「やめろーー」


「おまけに犯罪者扱いが嫌だからって!人をーー監視者を"亡き者にしたんだから"!!!」


 ガタッ!!!


「部屋に戻る……」


 スイナは無表情のまま、休憩所から出て行った。

 それをニヤニヤしながら、オトカは見送る。

 その様子を見たアムールは腹立たしくなり、オトカの胸ぐらを掴んだ。


「お前、許さないぞーー」


「良いよ〜別に?」


「くっ!」


 アムールの手に力が入る。

 これ以上はダメだと、リゼが止めに入った。

 アムールはオトカのことを睨みつけていたが、オトカは気にしていなかった。


 ♢♦︎♢


 バンッ!!!


 扉を思いっきり閉める。


『人をーー監視者を"亡き者にしたんだから"!』


「そんなの……私が一番分かっている……私はこの目で見てしまったのだからーー」


 まさか、あの人達が両親だったなんてーー


 ♢♦︎♢


 生まれたときから、私に自由はないのだと、悟った。

 周りには無表情の大人ばかり。笑っている大人なんて、居なかった。

 この場所で生まれたからには、ここで"生き"ここで"死んでいく"と学んだ。


 ある質問をいろんな大人達に聞いたことがある。


「"家族"って何ですか?」


「あなたは知らなくていいーー」


「"家族"って何ですか?」


「お前は私達が教えることを覚えればいいーー」


 誰も教えてはくれなかった。


 だから、自分で調べようとした。

 過去の色々な文献を読み漁り、パソコンで調べたりもした。


 だけど、分からなかった。


 私はよく周りに「スイナ様」と呼ばれる。

 それは私が頑張って成績を上げているから、敬意を評して、様付けをしてくれているのだと思っていた。


 違った。


 私の両親は元は貴族らしく、まだ貴族気分に浸っていた愚か者だから、悪ふざけで様付けしていたのだった。


 その日から「スイナ様」と呼ばれるのが苦痛になった。


 あるとき、私は見てしまった。


 人が人を殺める瞬間をーー


「あぁぁぁっっ!!!!!」


「?どうしたーー」


「っ⁉︎」


 目の前には、女の監視者を踏みつけている男の覚醒者と近くに女の覚醒者が居た。


 鼻を両手で覆う。

 鉄が錆びた匂いがした。

 とても、ずっとは嗅いでいられない血の生臭い匂い。

 そして、恐怖で足がすくんだ。

 震える手で無線機のマイクを口に近づける。


「せ、先生っ……先輩がーー女の先輩が覚醒者にーー」


『分かった!急行する!場所は?』


「談話室近くの……廊下です……」


 先生は無言で通信を切った。


 ーーはぁはぁはぁ……。


 苦しい。

 あの女の先輩は関わったことがないけど、とても優しい先輩だと言われていた。

 いつも笑顔で、眩しくなる程の明るさでみんなを照らしていた。


 その先輩がーー


 血だらけで……。


 少しずつ血の海が広がっている。


「?」


 男の覚醒者が私の存在に気づいた。

 続いて、女の覚醒者も私の方へ振り向いた。


 ーー怖い……誰か、助けて……。


 どんどん、近づいて来る。


「く、来るなっ!お前達はもう少しで包囲されるぞっ……!」


「スイナーースイナなのね⁉︎会いたかったわ……」


 急に女の覚醒者が私を抱きしめる。

 私は突然の出来事に体を震わせた。


「は、離せっ!」


「どうして、そんなことを言うの……?」


「スイナはずっと、ここのおかしな奴らに洗脳されていたんだ。でもーーもう、安心だ。お父さんとお母さんが居る」


 私はその事実を聞いた瞬間、ゾッとした。


 母だという者を突き飛ばした。

 目を閉じた。耳を塞いだ。


 知りたくない知りたくない知りたくない。


 もう、家族のことなんか、知りたくない……。


 何も教えないで、喋らないで。

 もう、聞いたりなんかしないから。

 "家族"というものを語らないで。


「見つけたぞ!」


 先生達はすぐにやって来て、犯罪者を捕まえた。


「スイナ!スイナぁぁぁ!!!!!」


 手を伸ばしてくる。

 私はそれを拒否した。

 また、目を瞑る。耳を塞ぐ。


 もう、真実なんて知りたくない。


 ♢♦︎♢


 私は心の病に罹ったらしく、医務室に閉じ込められていた。

 毎日、先生が「大丈夫、大丈夫」と言ってくれるが、簡単に治るものではなかった。

 私は時々、フラッシュバックをするようになった。

 食事をしているときでも、医務室で勉強をしているときでも、お風呂に入っているときでもーーどんなときでも、起こるようになった。


「ーーっ⁉︎」


『でもーーもう、安心だ。お父さんとお母さんが居る』


『スイナ!スイナぁぁぁ!!!』


「や、やめて……違う、お前らじゃない……私の両親がおかしい奴らなわけない……」


 誰か、言って。紹介して。

 狂った夫婦じゃなくて、優しいお母さんとお父さんを連れて来てーー


『この方々があなたのご両親よーー』


 って、言って。


「スイナ、気分はどうだい?」


「あんまり……ねぇ、先生!」


「うん?」


「あの覚醒者の夫婦は、私の両親なわけないですよね?幻覚を見て、私が娘だと勘違いしているだけですよねっ⁉︎」


「…………」


 先生は何も言ってくれなかった。

 きっと、悩んでいるのだ。


 "真実を言うべきか"


 "心を傷つけない為に嘘をつくべきか"


 迷っているのだ。


 そうだ。あの日から気づいてた筈なんだ。

 あの夫婦が私の両親だと言うことに気づいていたんだ。

 だけど、私は目を背けた。


 何も、知りたくないと望んだ。


「先生……あの夫婦はどうなるのですか……?」


「普通の刑務所に行くことになるよ」


「そうですかーー」


 私はそのとき、安心してしまっている自分が居ることに気づいてしまった。

 あの覚醒者の夫婦が遠くへ行って良かった。

 もう、会うことはない。


 もうーーあんな怖い思いをしなくていい。


 それからは、少しずつ回復に向かっていくようになった。

 だけど、私は前よりさらに、心を閉ざしてしまった。


 自分で檻を作った。


 誰にも入られないように。


 心を覗かれないように。


 ♢♦︎♢


 私は人と関わらなくなった。

 ずっと無表情で、無反応。

 最初は両親のことをからかっていた覚醒者の子ども達も、私が何も言わないし、表情を変えないから飽き始め、私をほっておくようになった。


 私はそれで良かった。いや、それが良かった。


 もう、誰とも関わりたくないから。


 だけど、突然ーー


 私の心の中の檻の南京錠を解こうとする者が現れた。


 それが、フミカだった。


 苗字は知らない。


 初めて会ったとき、彼女はフミカという名前しか言わなかった。


「ねぇ、あなたのお名前は?」


「…………」


 いつも通り、無表情、無反応で突き返す。

 これをされて、嫌じゃない人間は居ないと学んでいるからだ。

 知識だけが、私を裏切らない。

 知識だけが、私を助けてくれる。


 そう、心に染み付いてしまっていた。


「ねぇーー独りぼっちは楽しい?」


「ーーっ⁉︎」


「私ね、覚醒者じゃないし、覚醒者の子どもでもないんだ。いわゆる、外部の人間ってやつ?出身国も違うし、服装も変わってるでしょ?だから、そんな私が怖いのか気味が悪いのかは知らないけど、関わろうとしてくれないんだ。私も独りぼっち。仲間だね」


「別に寂しくなんかない」


「そう?私は寂しい。それに、あなたの心の叫び声が聞こえるよ」


 ーーは?


 聞こえるわけがない。

 誰も人の心の中なんか、覗けない。


 私は分かるよ。辛いよね。


 そんなのただの文字を並べて、言っているに過ぎない。

 適当な言葉を探して、見つけたに過ぎない。

 どうせ、人間は自分が可愛いんだから、本音は他人のことなんてどうでもいい。


 自分の立場を良くする為に、綺麗な言葉を並べ立てている。


 あぁ、吐き気がする。


 結局、大人達も同じだ。

 私達のことを考えている風で考えていない。

 同じ境遇だから、気持ちが分かる。

 そんなの、全員がまるっきり同じなわけないのに。


「あなたは、檻の中に自ら閉じこもっているようだけど、檻の隙間から手を出している。本当は誰かに救われたくてーー」


「うるさい!あんたなんかにーーあんたなんかに分かるわけない!!!」


 いつもは出さない金切り声で叫んでいた。

 立ち上がり、しっかりとフミカの目を睨みつける。

 それでも、フミカは怯えることはなかった。

 拳を握り締め、私の目を真剣な眼差しで見ている。


「あなたは嘘をついている。本当は大丈夫じゃないし、辛い筈よ。これは辞書から借りた言葉じゃない。私自身の声で届けたい言葉なの」


「っっ……あんたなんかに……あんたなんかに……」


 檻の隙間から見える笑顔は本当に私を光は導いてくれそうな笑顔で、救われそうだった。

 だけど、手を伸ばすのが怖かった。


 裏切られるんじゃないかーー

 また、傷つくことになるんじゃないのかーー


「ねぇ、閉じこもってないで。外の世界は広いんだよ!あなたと気が合う人も沢山居ると思うの!だって、世界には何万もの人々が暮らしているんだかさ!」


 フミカは両手を大きく広げる。

 目が希望に満ちて、輝いていた。

 それはあまりにも眩し過ぎたが、憧れた。

 希望を掴みたくなってきた。

 開いている窓から風が入ってきて、フミカやスイナの髪を揺らす。

 風が私の闇を吹き飛ばしてくれたような気がした。


 あなたの笑顔があれば、私は前を向いていけると確信したんだ。


「私はーースイナ。よろしく、フミカ」


 私は笑顔の彼女に手を伸ばす。

 喜んで手を取ってくれ、仲良くなってくれた。私の最初のお友達になってくれた。

 フミカは目を少し開けた。

 瞳は緑でエメラルドのような美しさがあって、綺麗だった。

 よく見ると、髪に小さな赤い紐が付けられていた。


 綺麗ーーその一言しか思い浮かばなかった。


 紐を見続けていた私を見て、フミカは静かに微笑んだ。

 恥ずかしくなり、目をそらす。


「これは組紐って言うのよ。そうだ!これ、黄色い組紐二個、あげる。髪が長いから束ねるのに便利じゃないかな?」


「あ、ありがとーー」


 それからと言うもの、組紐は毎日付けていた。

 少し低めの所に結びつけ、ちょっとしたおしゃれを楽しめるようになった。

 何もかも全部、フミカのおかげだった。

 新しく信じられる仲間もでき、仕事が楽しくなった。


 あの日まではーー


 雨がきつかったあの日、フミカは死んだ。


 神父の格好をした者によって。


「フミカ!フミカぁぁぁぁ!!!!!」


「スイナ……今までありがとう……そして、お願い……もう一人の緑の瞳を救って……その子も危険に晒されてしまうから……」


「フミカぁぁぁぁぁ!!!!!」


 グシャリ。


 もう聞きたくない音がまた、耳に響いた。


 細い腕からは血が流れ出ている。


 あのときのように鉄の錆びた匂いが鼻に纏わりつく。


 今度は覆うのを忘れる程、悲しかった。


『今日も任務、頑張っていこー!』


 最後に別れたときは暖かい笑顔がまだ、残っていたのに。


 ーーあぁ……。


 ーーあぁぁぁぁぁぁぁ…………!!!!!


 私を導いてくれたフミカの笑顔はもうそこにはない。

 苦しみと悔し混じりの顔ーー

 何かやり残したことがある顔だった。


 フミカーーあなたは私の天使でした。


 今は大好きな暖かさではなく、大っ嫌いな血の暖かさしか残っていなかった。

 











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