第1話『罪を犯した少年』
眩しい太陽の光。澄み切った空。ちゃんと整備された街道。
ステラ国の首都、リーブル区である。
一番の栄えている街だ。
自由な街リーブル区。そのイメージを強く押し出している。
街の所々には『Welcome to Libre!』と書かれた看板が大小問わず飾られている。
ミド・テトラは、走っていた。
彼は灰色の髪、白い肌、女の子みたいに華奢な体つき、そして、珍しい綺麗な緑の瞳を持っている少年だ。
何故、走っていたのかと言うと、病気がちのお母さんのお薬を買いに行く為だ。
お父さんの方はと言うと、仕事ばかりで、あまり家に帰って来ない。
ーー本当のお父さんじゃないのかも……。
なんて、思ってしまう程だ。
「あ!ミド君、いらっしゃい!」
ミドに声をかけた明るい声の正体は、薬屋さんのお姉さんだ。
「いつものお薬をください」
「お母さん、最近体調どう?」
「最近は結構調子良いんです。だから、このまま同じ状況が続くことを願うしか……」
「私は薬を用意することしか出来ないけど、また別の薬が必要になったら、言ってね?マケるから」
「ありがとうございます!僕、そろそろ行きますね!」
「ありがとうございましたー」
薬の入った袋を抱きしめ、家へと向かった。
ーーこれで、良くなるといいなぁ。ずっと、お母さんと一緒に居たいし。
走っていると、緑色の和服を着た人が前から歩いて来たので、ミドはそれを避けた。
一瞬、ニヤッとしたような感じだったが、気のせいだろう。
ーー和服なんて、珍しい。ヤヨイ国の人かな?
ヤヨイ国は和を重んじる国。
一部だけ、近代化しているが、他の所は伝統を守り、昔の風景のままらしい。
そうこうしている内に、家が見えてきた。
ミドの家は位が高い方ーーいわゆる、貴族である。だが、ミド自身は自分の家がどの位凄いのか、いまいち分かっていない。
貴族だからと言って、家に使用人が居るというわけでもない。
お父さんは、家の中に他人を居させるのが嫌いらしく、使用人を雇っていないのだ。家の扉を開き、中に入った。
「ただいまーお母さん」
返事はない。
きっと、寝ているのだろう。
お母さんの姿を見る為、寝室に向かう。
コンコン。
ゆっくりと扉を開ける。
「お母さん、体調どう--」
「はぁはぁはぁはぁ」
「お母さん⁉︎」
部屋に入ると、苦しんでいるお母さんの姿が見えた。
明らかに家を出たときより、状態が悪化している。
ーーどうして?体調良かったのに……。
「ミド……生きて。……ミカの分まで、生きて……どうか、--らないで」
「お母さん⁉︎嫌だよ……死なないで……」
「……」
「僕を一人にしないで!置いて逝かないでよぉぉぉ!!!」
ーー神様!お願い。お母さんを助けて。
手を組み、目を閉じて、必死にお祈りをする。
ミドはいつも、お母さんが調子を崩すと、お祈りをして、神様に願っていた。
神様は困っている人達を救ってくれる救世主なのだと、お母さんに教えてもらっていたからだ。
ーーお願い……。
「……」
目を開けると、お母さんは黙ったばかりで、何も答えてくれない。
体を揺するが、いつもより重く感じた。
まるで、人形みたいに見えた。お母さんの口元に耳を近づける。
ーーお母さん……?
息をーーしていなかった。
手を握ると、まだ温かさが残っているが、段々とそれがなくなっていくように感じた。
目の前で、消えた。
この世にミドの一番大切な人は存在しなくなった。
ポツリ。
ミドの目から、透明なものが流れた。
溢れてくる。
目から、何かが溢れてくる。
ーー苦しい……心がズキズキする。
「神様なんて居なかった……だって、僕のお願い、聞いてくれなかったんだもん……」
絶望の淵に立たされた。
大好きだった人。ミドを大切にしてくれた人。ミドが大切な人。今、それを失った。
心が空っぽにな理、何も考えられなくなった頃、突然、身につけていたエメラルドのブローチが光出した。
「何⁉︎この光ーー」
「確かに、神様は居ないだろうね」
ーーえ?
ミドの目の前に青藍色の長髪をなびかせている女の人が現れた。一部だけ、組紐で髪を結っている。
「ミド・テトラ、あなたは悲しみの罪を犯してしまった。私と共に来てもらう」
「あなたに付いて行くもんか!」
「やはり、無理矢理か……リゼ!」
「はい!」
また、ミドの目の前に別の女の人が現れる、
ピンクのドレスに二つ結びの金髪の人だ。
「リゼ、頼む」
「はい。スイナさん」
リゼと呼ばれた人はスッとこちらに近づいて来る。
「ごめんなさい。これも、仕事なんです」
そう言うと、額に手を当ててきた。
そして、ミドは眠りについてしまったのだ。