第12話『人間じゃない』
私は普通の家庭で育ったと思う。
優しいお母さんとお父さんが居て、料理は美味しくて幸せだった。
私だって、ちゃんと言うことを聞いて、真面目に勉強もしていたし、人の気持ちを考えて行動していたし、とにかく努力していた。
捨てられる理由なんか、ある筈ないーー
でも、お父さんが亡くなってからは、家計が苦しかったかな。
朝、昼、晩、全く同じ食事なんて、当たり前になってきたし、自分達で野菜を育てるようにもなった。
幼い私も出来ることはしようと、努力していた。
穀潰しではないから、見捨てられる理由なんかない筈なのにーー
お母さんに手を引かれて連れて行かれたのは、周りの洋風の建物とは違い、なんかグレーの塊がそのまま建物になったみたいな風に見える所だった。
「お母さん?ここは?」
「あなたが今日から住む所よ」
「お母さんと一緒に?」
こういうとき、純粋な子どもの言葉は親の胸に突き刺さるのだろう。
お母さんは黙り込んでしまった。
中に入ると、白くて、ボタンが空いている服を着た男の人達が沢山居た。
「こちらが、シルラちゃんですね?」
「えぇ……」
お母さんは私の肩を掴み、こう言った。
「あなたは、ここで幸せに暮らすのよ。いつか、会いに行くから。じゃあね、シルラ……」
「お母さん?」
お母さんは私の肩から手を離し、一人の男の人とどこかに行ってしまった。
「シルラちゃんは、こっちへおいで?」
さっきとは違う、一人の男の人に誘われたがニヤついた微笑みが違和感を感じた。
♢♦︎♢
「腕にはこれを」
「はい、分かりました」
白い人達によく分からない物を取り付けられている。
痛くはないけど、嫌な気分だ。
ーーお母さん……早く帰って来てよ……。
「君は良い子だね。はい、アメちゃん」
「ありがと……」
私はお母さんが帰って来ると信じていた。
お父さんが亡くなったから、お母さんがお仕事を頑張っているんだ。
お金が貯まったら、迎えに来てくれる。
そう思っていた。
何をされているのか分からないけど、痛いときもあって、段々嫌になってきた。
それでも、お母さんに会えると信じて、頑張っていた。
なのに。
「ねぇ、お母さんはいつ、帰って来るの……?」
「え?まだ信じていたの?君のお母さんは、君を捨てたんだよ?」
「え……」
白い男の人は高らかに笑いーー
「あははっ!君のお母さんは、お金が欲しくて欲しくて、大金を手に入れる為に君をここへ売ったんだ!酷い母親だなぁ?」
「そんな……」
お母さんが私をーー売った?
『いつか、会いに行くから』
あの言葉は嘘だったの?
あの笑顔も?
手を繋いだのも?
お父さんが亡くなってから、働いていたのも?
私に食事を作っていたのも?
私を望んで産んだことも?
全部全部、嘘だったって言うの⁉︎
私をずっと、騙していたって言うの⁉︎
ーー私が今まで抱いていた希望は何だったの……?
「……」
「大人なんて、そんなものさ。もちろん、俺もね。うん?おい、どうしたーー」
「っ⁉︎おい!おい!」
私は肩を揺さぶられても、それが気にならなくなってしまった。
白い男の人はどういう人かなんて、気にならないし、私が何なのかも気にならなくなってしまった。
私の中から、何かが少しずつ消えてしまった。
もう、私に希望なんてものは、なくなった。
♢♦︎♢
感情を失った私は、感情を取り戻す為に研究所が経営している孤児院に入れられた。
だが、体がおかしい私は受け入れられる筈なかった。
「シルラちゃんの体、気持ち悪い」
青いスモッグを着た男の子が言う。
「シルラちゃん、怖い」
白い小さなワンピースを着た女の子が言う。
「近づかないで!」
二人よりうんと年上のお姉さんが言う。
私は耐え切れなくなり、一日で孤児院を抜け出した。
どこへ向かえば良いかなんて分からないから、がむしゃらに前へ前へ走り続けた。
「はぁ、はぁ、はぁ」
ーー私は必要とされていない。
ーー私は誰も幸せに出来ない。
ーー私はゴミだ。
私は"モノ"だから、必要とされていないのなら、ゴミだ。
邪魔な存在。
邪魔、邪魔、邪魔、邪魔、邪魔、邪魔、邪魔、邪魔、邪魔。
生きちゃ、ダメな存在。
気がつくと、街に着いていた。
私は走るのをやめる。
そして、一歩一歩、ゆっくりと進む。
「きゃあ!!!ば、バケモノ!!!!!」
「何だあれ⁉︎隣国の新兵器か⁉︎」
「逃げるわよ!!!!!」
「近づかないで!!!!!」
どうして、そんなこと言うの?
私が何かした?
ねぇーー教えてよ。
私があなた達に何かした?
「きゃあぁぁ!!!!!」
あぁ、もう良いや。
私の瞳は赤くなる。
まずは、近くの男の人を。
ガッ!!!!!
殴る。
少し鈍い音がして、赤い薔薇みたいなのが舞い踊るのが目に映った。
「私はただ!幸せを望んだだけなのに!!」
ガシャンッ!!!!!
ゴキッ!ボギッ!!!!!
「こんな体なんか、好きでなったわけじゃないのに!!!!!」
ガンッ!!!!!
「お母さんを愛していたのに!!!!!信じていたのにぃぃぃぃぃぃ!!!!!」
赤い血が私にかかる。
私の顔や服が血だらけになる。
「はぁ、はぁ、はぁ、っ⁉︎」
気づくと、周りは血だらけ、人だらけ。
近くの女性が女の子を守るようにして、覆い被さっていた。
手が一瞬、ピクッとしたがすぐに止まった。
「こんな体がなければ!なければ!私はっ……」
私は取り付けられた機械を叩く。殴る。
「お母さん!私はあなたを愛していたよ……なのに、どうして酷いことをするの……?お母さんは私がいらなかったの?欲しくなかったの?」
「何で産んだんだよ」
「捨てるくらいなら、最初から産まなければ良かったじゃん!!!!!」
ポツリ。
透明な何かが私の目から込み上げてくる。
濃い赤を薄く染め始める。
「いつだって、大人は残酷だ」
ーーっ⁉︎
まだ、生きている奴が居る。
黒髪にスーツにメガネの男。
いや、さっきはあんな奴居なかった。
どこから?
「シルラ・キリシュ、お前は悲しみの罪を犯してしまった。連行する」
こいつも私を不幸にする奴だ。
私は男の腹に向かって力をチャージした拳を突き出した。
だが、避けられ、腕をがっしりと押さえ込まれてしまった。
「くっ!離せ……」
「さっきまで、泣いていたくせに余裕なんだな」
そこから、私の記憶は途切れている。
気づいたら、一生出れない檻の中に居た。
『いつか、会いに行くから』
私はあなたを許すことが、出来ません。




