夢(仮)
夢、人は夢を見る生き物であるらしい誰しも一度は見たことがあるだろう。
夢、それはその人の願望、神のお告げ、幽体離脱体験、諸説あるらしい(wiki参照)
1章
2016年12月 福岡県鞍手町
知尋27歳男性は、普通の家庭に生まれ、何事も不自由なく過ごしてきた普通の社会人だと思う。
学生時代はそれなりに楽しかったし、部活もやった、恋人が居た時もあった。
自分で言うのもなんだが、今は俗に言う社畜だと思う。
好きでやっているのだから、不満はない。
今日も、週末の楽しみである貯金残高の確認に銀行へ行っていた。
もうすぐ目標の1000万を超えるらしい、人生計画に一片の狂いも無かった。順風満帆、毎日楽しく過ごしている。
「ただいまぁ」
「おかえり。今日は遅かったね」
いつも通りのあいさつを母と交わし、お風呂に入る。仕事の適度な疲労感と解放感につつまれながら湯船に浸かる。冷え切った体が温まっていく。
「知尋、上がったら少し話があるからきて」
母が一言扉越しに話してきた
それに、適当に返事をし、お風呂から上がり部屋着に着替え、リビングへ向かった。
そこには、祖母と母が座って自分を待っていた。
「知尋、家建て替える事にしたから」
「ふぁ?」
いきなりの、突拍子のない言葉に思わず変な声を出してしまった。
家・・・確かにうちの家は祖母が若い時に建てたもので築50年以上は経過している。床はギシギシいうし、隙間風も多い、昔ながらの造りで最近始まった家の前の道路の工事による影響か、玄関も閉まりにくい状態だ。
だが、自分は今の家でも充分満足なので別に建て替える考えは毛頭なかった。
何より、お金はあるのだろうか、ケチな性格故に一番に金銭に考えがいってしまう。
だが、さすがは自分を小さい時から育ててきてくれた祖母である。考えはおみ通しらしい
「お金は心配しなくて良いですよ。実は・・・」
そう言って祖母が一枚の紙を渡してきた。
それは、俗に言う道路幅拡張工事による住宅立ち退きの知らせだった。
たしかに、家の前の工事の具合を見てもうちは邪魔になるのではと思ってはいたが、本当に立ち退く話が持ち上がっていたとは、思わなかった。
前々から、県の土木作業員らが祖母と母と話しているのは知っていたがまさかこんなことになっていたとは
後から聞いた話だが、祖母が県土木と何度か遣り合ったらしい。まったく、この人は妙に頭がきれるので末恐ろしい。
「家かぁ」
まぁ、なんにせよ国がお金をくれるらしいし、この話に乗らない手はないと思う。
なんたる幸運!少し早い気もするが、将来のマイホームの心配はしなくて良いらしい。
「親父はなんて?」
「お父さんは、知尋に聞きなさいって」
一家の大黒柱がそう言うのであれば、自分が決めても構わないのだろう。ならば、建て替えるほかない
「建て替えても良いと思うよ」
「そうですか、ではそれで返事をしておきますね」
人生における一般的な大イベントの一つかもしれない事はこの日、願ってもいない形で現実のものとなった。
幸せな日常はこれからも続くみたいだ。
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ふと目を覚ますとそこには、学生時代の友人らが集まっていた。皆知らない部屋にいてどこか懐かしい雰囲気で話をしている
「ここが、知尋の家かぁ」
「綺麗で、大きい家やね」
「そうやろう!ゆっくりしていってよ」
何気ない会話をしている自分と友人。ん?だが何かがおかしい、なぜ自分が会話をしているのを自分が見ているのだろう、それにうちは築50年以上の古家である。
そんな事を考えているといきなり床が抜け自分だけが落ちていく、下はま真っ暗で果てしないあまりの恐怖に目をつむる。そこで記憶は途切れた・・・
ピピピッ!ピピピッ!
聞きなれたアラーム音と共に目が覚める。どうやら夢だったらしい、ほかの人がどうなのかはわからないが、自分は毎日と言って良いほど夢を見る、どうやら昨日の事が起因してこんな夢を見たのだろう。見る分には良いのだが、見る夢を選べないのは困りものだ、仕事の夢、怖い夢、楽しい夢、死ぬ夢、魔法が使える 夢、色々なものを見るが大概覚えている。
いつも通りの朝、今日も会社のために働くとしよう。
そんな、社畜根性に我ながら感心しながら仕事の準備をし出社する。
2章
2017年2月 福岡県鞍手町
あれから約2か月、家の話が正式に決定し、うちは大騒ぎである。何せ初めての引っ越しに今までの家財道具はどうするのかなどやることは山ほどあり、家の中は山積みのダンボール箱でいっぱいになっていた。
自分は荷物が少ない方なので引っ越しの準備は完了している、そんな中一番の問題児である妹がなにも準備をしないのはいささか心配ではあるが、まぁなんとかなるだろう。
新築着工は4月らしいので、それまでには今の家をでなくてはいけない。27年も住んだだけに名残惜しいが、しかたあるまい。新居の間取りなどは連日親父と、母が急ピッチで計画を立てていた、あまりこういったことに関心がないように見えた親父も意外とやる気はあるらしい。それにつき合わされる母が日に日にストレスを抱え込んでいるが・・・
最近、裏のリビングに通じる勝手口の閉まりが悪く、時折閉めたつもりが開いているときがある。これも工事の影響なのだろう、出かける際は気をつけておくとしよう。
夜、週末という事もあり少しお酒を飲んで眠りについた。
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見慣れたダンボール箱の山に囲まれた部屋がそこにはあった。家族みんなが揃っての会話、これからどんな家が建つのか一喜一憂しそれぞれが楽しそうにしている。
しかし、突然そんな時間は奪われてしまう
「おい、なんか臭くないか?」
親父が唐突にそんなことを言い出した。確かに臭う、灯油だろうか。どうせ母が服についてしまったのを気づかずにそのまま来てしまったのだろう
「灯油臭いわね・・・でも今日は入れていないはずよ」
それじゃあこの臭いはどこから・・・そんな事を考えているといきなり煙がリビングへ入ってきた。
いきなりにことに、皆混乱している、なぜ火の手が!そんなことが起こることあるはずない!だが今は考えるより先に動くしかない、冬の乾燥した空気に強風火の手は増すばかりだ。
「ばぁちゃんが!」
妹が叫ぶ、最悪なことに祖母の寝室は火が上がってきた方向にあるしかも今は夜23時を回っている。いつもなら寝ている時間だ、母は腰が抜けて動けない妹も混乱している
「親父!早く外に二人を連れ出してくれ!こっちはオレが見てくる!」
「あぁ!最悪わかっているな!」
クソッ!なぜこんなことが、とりあえず今は祖母の部屋へ急がなくては。煙で前が見えない、その時天井が傾いた気がした瞬間、ドンッ!と上から天井が落ちてきた。祖母の部屋まではあと1mもないというのに、増す煙と火の手ここまでなのでろうか・・・
順風満帆な人生、いったいどこで狂ってしまったのだろうか。
今はそれもわからない、悔しさと絶望の中自分はこれが夢であればと、願うばかりだった。
ゆっくりと意識が覚醒していくこの感覚はたまにある、夢と現実がわからなくなっている感じだ。周りを見る、そうやらまだ日は上っていないらしい。思わず欠伸より先に安堵のため息がでてしまった。
昨日、飲みすぎたのだろうか、しばらく微睡に浸りあの夢を思い出す。ごく稀に現実と区別がつかない夢を見るが今回のやつは、まぁ強烈だった。
とりあえず顔でも洗おう、祖母の部屋にはもちろん祖母が寝ている。リビングには見慣れた段ボール箱の山、そこえいきなり風が吹いてきた。思わずビックリしてそちらを見たが、締りが悪くなっている勝手口が開いているだった。ドキドキしている自分が少し恥ずかしくなりつい勢いよく扉を閉めてしまい、閉まる音でまたビックリしてしまったのは意外と自分が小心者であることの証明なのかもしれない。
勝手口の向こう側にある、金木犀の木も風と共に揺れているような気がした。
最終章
2017年3月30日 福岡県鞍手町
ついに引っ越しの日前日でが来てしまった。これで今の家ともお別れである、ある一名を除いて皆引っ越しの準備は整っているのだが。
「美八早く準備しなさい!」
「うわぁぁん。お母さん一緒手伝ってー」
「だから、早めに準備しなさいって言っておいたでしょう!」
「だってぇ」
誰もが予想していた事なのであまり気にしてはいないが、4月から新社会人になるのだがこれで勤まるのだろうか、社会人の先輩としてこの妹の将来がすこし心配になってきた。
いろいろな問題はあったものの、皆の準備ができた時にはすでに23時を回っていた。自分も結局他人の荷物整理もやらされるはめになり疲労困憊だ、明日も早いのだし少し飲んでもう寝よう。
だが皆、引っ越し前夜ということにいつもより気分が向上しているらしい
「おい!ビール!」
親父が気分よさげに言う。それをいつもなら母が冷蔵庫から取り出して渡すのだが、今日は準備を手伝ってもらった罪悪感からか妹が率先して動いていた。珍しいこともあるものだ、ちゃっかり自分の分も取り出しているところは、まぁ突っ込まないでおこう。
「今日はおつかれぇぇ!」
一人テンションが高いのはいつものことだ。
自分も飲みながらふと勝手口の方を見ると、やはり少し開いていた
「知尋、ごめんけど鍵閉めておいてくれる?」
「はいよー」
勝手口を閉めに行き、向こう側にある金木犀の木を見るいつも見ているはずなのになぜか今日は少しだけ違う木のように見えた。酔ってしまったのだろうか
「ねぇねぇ、そういえばさぁ」
うるさいやつが、もうできあがった状態で話しはじめた
「前ねぇ、夢の中でこうやって皆で話しててぇそしたらいきなり家が火事になる夢みてさぁ」
「あぁ、なんかあったな!」
「お父さんも?私も見たような気がするのよ」
「えぇ!皆同じ夢見るとかすごくない!?」
「そうねぇ、たしか火事の原因は・・・」
この時自分の中で、とてつもない悪寒と恐怖が蘇ってきた。その時だ
「おい、なんか臭くないか?」
「灯油臭いわね・・・でも今日は入れていないはずよ」
悪い予感というのは、なぜこうも当たってしまうのか。だが、今回はあの時のようなるわけにはいかない
「親父!もうすぐ煙が来る!はやく母さん達を連れて外へ出てくれ!オレは、ばあちゃんを連れてくる」
「あぁ!最悪わかっているな!」
クソッ!どうしてこうなった!祖母の寝室へ急ぐまだ火の手は上がっていない
「ばぁたちゃん!火事だ!」
そう叫ぶもまさかの、そこに祖母の姿はなかった。どこえ・・・
呆気に取られていると後ろで天井が落ちる音がした、しかし前からは火の手が迫っている。またあの時とおなじなのだろうか。すると突然後ろか聞きなれた声が聞こえた
「まったく二度も同じことを繰り返すとは、私の孫なのに不器用ですねぇ」
「ばぁちゃん!」
「ほら、焼け死にたくなかったら早く出ますよ」
そういって手を引かれ気が付けば外に出ていた、自分はまた夢なのだろうと、水をかぶったりしてみるが目は覚めずただ寒いだけだった。祖母は金木犀を背にこちらを見ていた
「ばぁちゃん、これどうなってんだよ!」
「そう慌てなさんな、みっともない。お前たち!」
そう祖母が言うと金木犀の木が中型と小型の犬になり燃えている我が家へ走っていった。家の向かい側へ行くと二匹の犬は息を合わせ一声ワンッ!と吠えた。その瞬間火は一瞬で消え家は元通り綺麗になっていた、
やはり、疲れているのだろうか叶うのなら夢であってほしい。社畜もほどほどにせねば・・・
後日談
その後、祖母の話しによるとうちの家系は代々魔法使いの家系らしく。もちろんだれも知らなかったのだがこの新居建て替えの話しが持ち上がった時点で、祖母は魔法使いの国であるもう一つの日本に家を建て皆で暮らしたかったらしい。しかし、向こうの世界へ行くには一応試験みたいなのがあるらしく。それが先日のなんちゃって火事試験の正体だったらしいのだが。
「他の3人は、無事合格したのになぜ、知尋くんだけ合格できなかったんでしょうねぇ、仮試験も一度やっておいたのに。」
そんな事を、困り顔で言われても困る。そもそも魔法なんてのは、ライトノベルやアニメの中だけにしてほしいものだ。まさか現実にあるとは思いもしない
「毎日、夢の中で魔法使ってるでしょう。空飛んだり」
「いや、それは夢の中だから」
「まぁいいです。この子達はおいて帰りますから、はやく試験に合格してこちらへ来てくださいね」
「じゃっ!オレら先行ってっから!」
「じゃぁねぇ」
「知尋その子達のごはんちゃんとあげなさいよ」
そんな、順応が早すぎる家族たちを見送りながら。二匹と一人の生活が始まったのである
「ワン!わん!(エサくれ!)」
「うるさい!寝かしてくれっ!」
順風満帆、なんの狂いも無くごく平和に楽しく過ごしてきた日常は崩れ去り、どうしてこうなったと思いながら今日も夢を見よう。とりあえず金はあるのだなんとかなるだろう。
その日見た夢は、弟である兄一が魔法の国で自分の貯金を魔法でおろし、ゲームを買い込む姿だったのだが。これだけは本当に夢であってほしい。
初めて投稿させていただきました!
ラノベやアニメは見たり読んだりするのですが、自分で作るのは初めてで
とにかく文字打つのと表現の仕方が難しかったです
プロの作家さんはすごい!と思いました。