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カフェオレ・ダーリン  作者: 風犬 ごん
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どちら様?


 家に帰り着き、早速買ってきたゲームをやろうと思ったが、なぜか優吾もゲームをしてみたいというので、私の個人ルームに優吾を招き入れて、私の持っているゲームを彼に見せてあげていた。興味を引くものがあればやってみるといい。

 ちなみに、要さんは私と優吾を送り届けた後、優吾の車を駐車場に戻してからそのまま夕飯の買い物へと出かけた。今日の夕飯は海鮮丼を作る予定らしい。お刺身大好き。

 リビングよりは狭いものの、個人ルームもそれなりに広い部屋だ。

 部屋の中央に三十四インチのテレビが二台、壁際に置かれた広いデスクには三台のパソコンが並び、部屋の隅を陣取るように大きな本棚が二つあり、もちろん本棚の中には漫画や小説を詰め込んでいる。

 テレビを乗せている棚には、もともと持っていたゲーム機が二台と、今日買ってきたゲーム機を入れ、優吾がゲームを選んでいる間に、買ってきたゲーム機をつなげていた。

 この部屋には押入れ的な収納型のクローゼットがあって、その中にはまあ、なんかいろいろ入っている。PCのソフトとか、DVDとか、同人誌とか、なんかいろいろ。


「このシューティング面白そう」


 ゲーム機の設置が終わったころ、優吾の声に顔をあげれば、彼は私のお気に入りの一つである横スクロールシューティングゲームを、私に見えるように目線まで持ち上げていた。


「面白いよ。やってみる?」


 私がそう聞けば、彼は笑顔でしっかり頷いて見せた。うむ。よしよし、では準備してやろう。

 テレビとゲームの電源を入れて、ゲームのコントローラーを優吾の前に置き、ゲームを本体にセット。これで準備完了。

 しばらく待てば本体がゲームを読み取り、テレビ画面にはゲームのスタート画面が映し出される。

 ちなみに『横スクロールシューティングゲーム』と言うのを知らない人はいないだろうが、蛇足として説明しておく。

 勝手に流れていくゲーム画面を、自分の選んだキャラ、あるいは飛行機などの機体を操作して、向かってくる敵や設置されたトラップなどを攻撃したり避けたりしながら、ステージに用意されたボスを倒すゲームだ。

 横に流れる画面と言う特徴から、横スクロールという呼び名が付いている。

 また、一言にシューティングゲームと言ってもいくつか種類があり、縦に画面が流れるものや、射撃のように目標物を撃ち落とすタイプのもシューティングゲームと言うのだ。

 言葉通り『シューティング(撃ち落とす)』系のゲームのことなので、まあ難しい説明はいらないわね。


「もう始められるよ?」


 熱心に取説に目を通す優吾に声をかければ、優吾はうなづきながらも、取説から目をそらそうとしない。


「せめて基本操作だけでも覚えておかないと」


 つぶやくようにそう言う。まあ、それも間違いじゃないが。


「ゲームは楽しんでこそだから、基本操作の機体の動かし方と、タマの打ち方と、パワーアップアイテムのことだけ頭に入ってれば大丈夫だと思うよ。あとは習うより慣れろっ」


 まさにそれである。ゲームにも慣れは必要だ。


「んー。そうだね」


 優吾はそう頷くと、取説を手放してコントローラーを握った。

 スターボタンが押され、ゲーム画面は機体選択画面へと移動する。


「春乃のおススメはあるの?」


「そうねぇ……やっぱり初めてだったら、バランス重視の機体を選択することをススメるよ。一番上の機体だね。これレーザーやオプションの使い勝手がいいし、シールドも優秀だから」


「じゃあ、これでやってみる」


 そう言うと、優吾は最初の機体を選択。画面は第一ステージへと移る。


「後は全種類を一回は全部使ってみるのもいいよ。自分の気に入った機体で操作したほうが多分やりやすい」


「うん」


 そして、オープニング音楽とともに、ゲームが始まる。




 ゲームを始めて一時間、すっかりゲームにのめり込んだらしい優吾は、すでに第三ステージのボスを倒そうとしていた。何気にこいつうまいんだが、どうしよう。

 最初こそ、慣れない操作で死にまくった――三回ほどコンテニューしたんだよね――くせに、ひとまず選べる機体の中で、気に入ったらしい機体ではじめたら、あっという間にノーミスで第三ステージを――。


「たおしたーっ」


 クリアしたようだ。


「おめでとう。次の第四ステージが少し難易度上がるよ。がんばれー」


「うん。ゲームって、思ってたより面白いね」


「そう思ってもらえて私は幸せだよ」


 自分が好きだと思うものを、同じように好きだと言ってもらえるのは嬉しいことだ。


「今までは、友達の影響からちょっとね。僕の友達はどっちかというと、怖いからさ」


「その理由も分からなくはない」


 廃ゲーマーの多くは鬼気迫る感じがある。しかも、そう言うやつらは入れ込みようとやり込みようが異常のレベルだ。

 私もゲームは好きだし、ゲームをやり込めばとことんまでやるが、廃ゲーマーに比べれば、私なんざまだまだひよ子レベルと言える。


「まあ、好きなモノにのめり込むとか、熱中するのは分かるんだけどさぁ。ゲームしてるときに一緒に居ても面白くないんだよね。こっちの話なんて聞いてないんだもん」


 そう言うと、優吾は思い当たる誰かを思い出しているのか、小さく息を吐いて見せる。


「そうねぇ。せめて一緒に遊ぶときは、こっちを優先してほしいかもね」


「そうそう。だから一緒にゲームするなら、こうして話しながらこのステージをどう攻略しようとか、ここの敵がどうとか、そう言うのを楽しみながら一緒にやってくれれば、僕だってもう少しゲームにも興味持てたかも。とは思うかな」


「あははっ。なるほどね」


 そもそもテレビゲームなんてのは一人で遊ぶが基本だ。何しろ操作キャラが一人なんだからしかたない。

 複数プレイが出来るものもあるけど、私が持っているものは、シューティングか、アクション以外、みんなプレイ人数は一人だ。

 オンラインゲームもあるが、あれこそシステムに慣れなきゃやってられない。

 大体、友人がいるときにゲームを続けるのは、友達同士であっても失礼なことだと私は思う。友情は大事にしないといかんだろう。

 友人入れてゲームするなら、ぜひともケンカにならないパーティーゲームをススメたいね。

 なんて話をしていれば、優吾はすでに第四ステージのボスとご対面していた。

 こいつ、やれば絶対に私よりうまいぞ。マジで。

 そうしてゲームを二人できゃいきゃい楽しんでいると、急に家の電話が鳴りだした。


「あ、ちょ、どうしようっ。タイム」


 そう慌てだす優吾に私は笑った。

 ゲームに夢中になってる時に急に電話が来たりすると、慌てちゃうことって時々あるよねぇ。なんて、ゲームあるあるに、ほっこりしてしまったが、まあまあ慌てなさんな。


「やってていいよ。私が出るから」


 ここは優吾だけの家じゃない。私の家でもあるんだから、手の空いているほうが出ればいいじゃないか。

 私が笑顔でそう言って立ち上がれば、優吾は一瞬迷ったあとに。


「うん。ありがとう」


 と言って笑い返してくれた。その後すぐにゲーム画面へと顔をもどしたが、むしろ、笑い返す余裕があったことを褒めてやろう。

 危なくボスの攻撃で死にそうになっていたがギリで回避していた。「あっぶな」と、つぶやいていた優吾に、ちょっとだけ舌打ちしたい気分だったのは内緒だ。

 電話はまだ鳴り続いている。急いで出ないと留守番電話に切り替わってしまう。そう思って廊下を小走りで進み、私はリビングへと駆け込んだ。電話の本体がリビングにある。

 互いの寝室には子機を置いているのだが、個人ルームには入れてないあたり、私も優吾もプライベートは邪魔されたくないタイプのようだ。なんてちょっとだけおかしく思う。

 それはさておき、私は慌ててリビング内のドア横に置かれている電話に飛びつくと、何とか留守番電話に切り替わる前に受話器を取り上げることに成功した。


「もしもし」


 受話器に耳を当て、そう私が声を出せば、向こう側から息をのむような音が聞こえた……気がしたが、気のせいか?

 ちなみに、家では苗字を名乗ることは絶対ない。と言うか、名乗ってはいけませんと、要さんに口を酸っぱくして言われている。

 まあ、いろんな対策のための一環なんだそうだ。

 それにしても、なぜか無言で返されてる私としては、これをどう処理するか悩みどころなんだが。


「もしもし? どちら様でしょうか?」


 この家の電話番号を知っている人間は限られている。

 私の幼馴染か、優吾の実家とそれ関係、優吾の会社、優吾の友人、そして――。


『も、もしもし……狛百合さんのお宅ですか?』


 それは少し高めではあるが、青年の声だった。

 よかった。無言電話ではなかったようである。


「はい。狛百合ですが。どちら様でしょうか?」


 戸惑うような少し大人しめの声だが、顔も分からぬ青年よ。一つだけ言わせてくれ。

 同じことを二度言わないと答えないのは仕様なのか? 頼むから、一回で答えてくれないだろうか。

 そうしてもらえるとお姉さんは非常に助かる。イライラ的な意味合いで。


『あの、ぼ、僕は、西園、圭介と、言います。あの、ゆ、優吾さんは』


 ちょっと落ち着きなさいよ青年。てか西園にしぞの 圭介けいすけ君よ。ドモリすぎだから。緊張してるのか? それとも動揺してるのか? 


「居ますよ。代わりましょうか?」


 私がそう聞けば、受話器越しでなぜか震えるように吐き出す西園君の息遣いが聞こえた。どうやら、緊張ではなく動揺によるドモリのようだ。わかりやすいな。君。


『は……あ、いえ。いいです』


「いいんですか? 優吾さんにご用件がおありなのでは?」


 私がそう聞き返せば、西園君は一拍置くと『そうだったんですけど』と囁くように声をだしたあと。


『あの、もしかして……宮島、春乃、さん、ですか?』


「そうですが、私になにか?」


 どうやら相手は私の名前をご存じの様子。って、私は君のこと知らんがな。君は一体誰なんだい? と、その場で首をかしげてしまう私だが、まあ当たり前だが電話の相手には見えるはずもない。


『ど』


「はい?」


『どうして……』


「何が?」


『あなた……』


「私が何です?」


『優吾さん……』


 なんだこの単語の羅列。会話になってねぇしっ!


「――あのですね西園さん。はっきり言ってください。単語ばかり並べられてもわけがわからないんですが?」


 私は会話を望む。OK?

 私の言葉に、西園さんはふと無言になる。だが、次の瞬間。


『あなたはどうして優吾さんと婚約なんてしたんですか? お金が目的? それとも、優吾さんの見た目? それとも狛百合の権力ですか? だって、あなたは優吾さんを愛していないんでしょ? それなのに、ただ性別が女だからって婚約できるなんておかしいっ。僕のほうが優吾さんを愛しているのにっ』


 いっきにそう言われて、一瞬ぽかんとしてしまう私。

 だが、普通に話できるじゃん、と明後日な納得に自分で「違う」と突っ込みつつ、ようやく相手の青年の存在が、何者であるのかを理解できた。


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