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カフェオレ・ダーリン  作者: 風犬 ごん
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日常のひとこま

 要さんの案内で、私たちが辿り着いたのは俗に言う『オタクの聖地』と呼ばれる場所だった。都内のどっかにある。詳しくは言わない。

 とにかく様々な店が並ぶ少々コアな印象を受ける通りだ。

 私の目的であるゲームショップやサバイバルショップ、メイド喫茶やら執事喫茶やらなんかいっぱいあって、某有名電気量販店なども軒を連ねている。

 フィギアと呼ばれるお人形さんが売ってる専門店、プラモデルを売ってるこれまた専門店と、とにかくここには専門店が数多く存在し、ここでなら、一般的に手に入りにくいと言われているものさえ、普通に店のショーケースに入っていたりするのだ。

 今日は平日だと言うのに、歩く人の数はそれなりに多い。これが休日なら、さらに人の数は三倍くらいは増えるだろうな。

 車を駐車場にとめて、優吾と要さんを引き連れながら、私は人通りの多い道へと足を進める。少々早足になる私だが、連れてる男どもは足が長いせいか、とくに文句も言わず私の速度に合わせてついて来ているのだ。

 しかも、二人はまだ余裕のある感じがありありと分かる。普段はもっと早く歩いているのかもしれない。

 なんかちょっと拗ねたい気分になった、けどまあいいか。

 それよりも私が気になるのは周囲の視線だ。気にしないでおこうとは思っていたのだが、やはりと言うか、イケメン二人を連れて歩いていると、まわりの視線が痛い。

 とくに女性の視線は二人に注がれ、振り返ってまでこちらを見る人もいるし、隣を歩く私になんか嫌な視線を向けてくる人までいる始末だ。

 本当に気にしたらきりはないと思うが、私が少し早足になってしまうのも仕方ないと思うでしょ。変な目立ち方はしたくなんだけどなぁ、なんて考えながら歩く私に。


「だけど、これだけお店があると迷っちゃうね」


 私のほぼ真横に近い位置から、優吾の明るく弾んだ声が耳に入り込む。

 そちらに顔を向ければ、声と同じように明るい表情を浮かべている優吾が、あたりに視線を泳がせていた。

 おのぼりさんか。


「キョロキョロしてると、怪しい人にカモられるよ」


 と、私が意地悪い笑みを浮かべてからかえば、優吾は私の手をガシッと掴み。


「むしろカモられそうなのは春乃でしょ? 僕や要から離れないでよね」


 なんて、至極真面目な顔で言われてしまった。

 おい。私はお子ちゃまかっ!?


「個人的に言わせていただくのであれば、手をつないで一緒に行動していただけると、私はいざという時に非常に助かります」


 私と優吾の後ろから、要さんが静かにそう言ったところでオチが付いた気がした。

 要さんから見たら、私も優吾も似たり寄ったりと言うことなのかっ。なんだろうか、この口惜しさっ!

 大体、いい年した大人二人が仲良くお手々つないでって、こっぱずかしいわっ!!

 私は腕を掴んでいた優吾の手を『ていっ!』と振りほどき、さっさとゲームショップへと入った。

 年齢的には優吾より私のほうが上なんだからなっ! 私のほうがお姉さんなんだからなっ! くっそう。

 ちょっといじけそうになって居た私だが、店内に足を踏み入れれば気持ちはすぐに切り替わった。

 そうなのだ。いじけている場合じゃない。

 私の目の前には、ゲームが陳列されている棚、また棚。店内の高い天井まで届きそうなほどに所狭しと並べられたゲームたち!

 こんな幸せ空間に入り込んでおいて、いじけた気持ちのままでいるわけがないっ。


「新作ゲームの棚は……」


 と、私が店内をぐるりと見回せば。


「左の奥へ入ったところに、ここからちょうど見えているあの棚でございます」


 そう言って、要さんが私のすぐ後ろから、棚を指して私に耳打ちした。

 なんか知らないが、さすが要さんっ。本当にいろいろ知ってるっ。

 私は要さんへと振り返り、ありがとうとお礼を言うと、急ぎ足で新作ゲームが並ぶ棚へと向かった。

 そして迷うことなく目的の三本を手に取って、ここからが本番だ。

 好きなだけ買っていいと言われたからには、遠慮などしない。店の中を物色しまくって、大量にゲームを買いあさってやるっ!


「悪そうな顔してるねぇ」


 私がにやりと笑った顔に、優吾の突っ込みが入るが、知ったことじゃない。


「私はしばらくゲーム漁ってくるから、優吾と要さんはどっかで暇つぶしてていいよ」


 あくまで私個人の趣味だ。これにずっと付き合わせるのもかわいそうだと思い、そう二人に提案してみるも。


「護衛が対象から離れると言うのは聞いたことがございません」


 と、要さんに拒否られ。


「ここで放置されるほうが困るから一緒に居る」


 と、優吾にも拒否られた。

 別に、近場のカフェで軽くお茶してくればいいじゃん、とは思ったが、本人がそれでいいなら、もう何も言うまい。


「好きにすればいいよ」


 私はそれだけ伝えると、すぐに売り場を回り始めた。

 分かりやすくジャンル別に陳列された棚を、上から下まで、文字通り舐めるように見ていく私。だが、ここで私の行動をおかしく思うやつはいないと断言できる。

 なにしろ、この店に来ている客のほとんどが、私と似たような行動をしているからだ。

 なんかここ落ち着くわぁ。

 そうしてしばらく幸せ空間に浸っていた私だが、不意に腕を引かれて、私の背中に何かが当たった。

 見れば、それは優吾の胸で、私が『何事だ?』と見上げれば、綺麗なお顔が私の顔のすぐ近くにあって思わずビビる。思った以上に顔の距離が近かった。


「なによ?」


「あのさ。あれ、うちにあるゲーム機と一緒でしょ?」


 優吾はそう言って、レジカウンターの前にあるショーケースを指した。


「そう、って言っても、家にあるのはあれの一つ前の機種。新機種出てたのか」


 発売日をしっかりチェックしてなかったわ。


「そうなんだ。あれは必要?」


「あれば嬉しいけど、家のやつまだ使えるしなぁ」


 何でも買えることと、無駄な買い物をするのは別の話だ。

 あるから何でも買っていいってことじゃない。必要だから買う。使えるものは最後まで使う。私はこれが常識だと思っている。

 家電関係は特にそうだが、私は直せるものは直して使いたいタイプなのだ。

 買いかえればいいじゃん。と言うのは、なんだか個人的にちょっと寂しい気分になる。だって、どんなものでも長く使えば愛着ってものがわくじゃない。

 新しいものに興味がないわけじゃないけど……。


「今のところ必要はないからいいや。それより、その隣のやつは欲しい」


「どう違うの?」


 なんて、優吾が本当に不思議そうな顔を見せるので、私は思わず苦笑いだった。

 そりゃ知らない人からすれば、どれもこれも似たり寄ったりに見えるだろうしね。


「家にあるのがソーニャのゲーム機で、あれはアミューズのゲーム機なの。同じタイトルのゲームも出てるけど、アミューズ専用ゲームってのもあってね。あのゲーム機でしかできないものなんだ」


「ああ、ゲーム関係の三大企業の一つだ。ソーニャ、アミューズ、ポセイドンと言えば、業界では有名だもんね」


「ゲームのことはわからなくても、企業のことは知ってるのね」


「まあ、三社ともお得意様だしね」


「へぇ……って、マジでっ!? すげぇなっ!?」


 なんて驚く私だが、そう言えば私、優吾がどんな会社でどんな仕事してるか知らないわ。

 なんで聞かなかった私。


「そう? でも、家にあるのはあの一台だけだし、他の会社の機種も買おうか。ここでなら、一通り売ってるみたいだし」


「え? いや、それはどうかなぁ……そもそも、やらないゲームの機種を買う意味ないと思う。やりたいタイトルが出れば別だけど、今のところ他の機種はいらないかな」


 私が要らないとはっきり口にすれば、優吾はどこかおかしそうにくすくすと笑って見せる。なんだよ。私、別に面白いことは言ってないぞ。

 そう思って、いぶかる私に。


「いや、コレクターではないんだなって思ってさ」


「ある意味ではコレクターだよ。一度手にしたものは絶対に手放さないし」


「そう言うんじゃなくて、契約上どれだけ好きに散財してもかまわないって言ってるのに、必要かそうでないかをきちんと考えるんだなって」


 優吾はそう言うと、なんとも言えない柔らかな感じで両目を細めて私を見つめていた。

 なんだか、その瞳に見つめられると非常にいたたまれなくなってくる。だって、なんだか恥ずかしい気分になってくるんだよ。

 なんなんだよ一体。


「私はもともと豪遊するタイプじゃないだけでしょ。庶民の散財なんてたかが知れてるんじゃない? 私はなんでも簡単に手に入ることが、必ずしもいいことだとは思えないだけよ」


 ないよりあるほうがいいに決まってる。だけど、なんでも簡単に手に入ってしまったら、何か大切なことをなくしてしまいそうだ。

 物を大切にすることとか、愛着をもつこととか、苦労を知り、その先の喜びを得ることとか。そう言うのがなくなるほうが、よっぽど寂しい気がするのよね。


「そうだね。僕の選んだお嫁さんが賢い人で本当にうれしいよ」


「なんだそれ。バカにしてんのか?」


「もう。褒めてるのに」


 褒められてる気はしたが、恥ずかしいからちょっと睨んで誤魔化してみた。

 マジで、もうやめてくれ。そう言う優しい目で私を見つめるなっ! マジで逃げ出したくなるからっ!




 結局、買ったゲームは五本になった。最初の予定していた三本と、実は前に買おうとして断念したやつを二本。手に入れられた喜びで、私は心底幸せだわ~。とかご満悦だ。

 帰りの車の中で、私はゲームを開封して優吾と取説を一緒に眺めながら、あーでもないこーでもないとずっと話し込んでいた。

 とくにゲームに興味もないだろう優吾が、それでも興味深そうに私と話をしてくれるのが、なんだかちょっとうれしくて。


「それにしても、ホラー以外のゲームは何でもやるんだね」


 そう優吾に言われて、私はコクリとうなずいて見せた。


「ホラーはない。怖い。基本的にはアクションと横スクロールのシューティングがかなり好き。でも、育成シュミレーションも好きなんだよね。かわいいモンスターを育てるのが何よりも楽しい」


 PCゲームで妖精の女の子を育てる伝説的ゲームもやったことがある。あれは面白かったが、基本的に人型の何かを育てるのは飽きてしまうので、私の場合はモンスター育成推しなのだ。

 そもそもシュミレーションはどうしても作業ゲーになってしまうので、飽きっぽい私にはあまり向かないとは思っているけど。


「育成かぁ。だったら、動物でも育ててみる?」


「いや、それは遠慮しとくわ。将来的にホモサピエンスのリアル育成が控えてるし」


 早めに籍を入れさせたいという本家の考えもあるし、籍を入れれば子供を作ることが決まってるんだから、遅くても籍を入れた二年以内には、私は母親にならねばならんのだ。

 それを考えたら、その上さらに手間のかかる動物を育てていくのはストレスになってしまうじゃないか。


「教育係や乳母を付けられるから大丈夫じゃないかな?」


 そう言って笑う優吾だが、そこはちょっと言わせてもらおうか。


「子供を産むからには、私はちゃんと母親になりたいの。まあ、他の人にも助けを求めたり頼っちゃうこともあるだろうけど、自分の人生をかけたリアル育成シュミレーションを失敗するわけにはいかないのだっ!」


「あーうん。春乃がゲーム脳ってことはよくわかったから。大丈夫だよ。誰も春乃から子供を取り上げたりしないから」


「まだ産んでもいないけどなっ!」


「そうだね。そう言えば、何人までなら産めそう?」


「一人で十分じゃないのかっ!?」


「うーん。僕は出来たら二人欲しい」


「は? なぜに?」


「僕が一人っ子だったから。それに、最初の子供が女の子だったら、結婚させたくなくなっちゃうかもしれないじゃないか」


「女の子二人だった場合はどうすんの」


「どこの馬の骨とも知れない男に可愛い娘をくれてやる気は起きないなぁ」


「どうしよう要さん。優吾の親バカが今決定打を決めたよ」


「狛百合家の将来は安泰でございますね」


 それは激しく違うと思うっ。


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