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カフェオレ・ダーリン  作者: 風犬 ごん
42/53

happy birthdayを君に1


「もうすぐ誕生日だよね? 何が欲しい?」


 優吾にそう聞かれて、私の目が点になる。

 最近めっきり残暑も過ぎ去った冬のはじめごろ。確かにカレンダーを見ればもう十月も半ばだ。私、秋の間は何してただろう? ゲームしてたわ。やっとあのアクションゲームをハードでクリアできたのは一昨日の話。


「前にサプライズするとかなんとか言ってなかった?」


 別にしてほしいわけではないけど、そんなことを言ってたような気がする。


「言ってけど、誕生日プレゼントは、できれば本人が喜ぶものの方がいいって春乃が言ってたでしょ?」


「ああ、確かに」


 確か、優吾の甥っ子で、あだ名にぽんちゃんとつけられたゲーマーでドルオタな彼の誕生日の時に、そんな話をしてたことはあったな。


「だからプレゼントは春乃の欲しいものをあげた方がいいかなって思ってさ」


 休日の午後、午前中はお互い自分の部屋にこもっていたけど、お昼を食べた後はリビングでのんびりとテレビを見ながら雑談をしていたら、突然の話題に面食らったが……まあ前回のことも踏まえて私に聞いてくれるってのはありがたい。かな?


「気持ちは嬉しいんだけど、今のところ欲しいものが思いつかないんだよねぇ」


 生活環境が変わって以降、私の物欲センサーがまあ思った以上に反応しないのだ。てか、人ってほしいと思うものを手に入れられると、それ以上の余計なものに興味がいかないところがあると思うのよね。難しいところだ。


「本当に何にもないの?」


 優吾はそう言うと少しだけ困ったように笑う。

 私としては、欲しいゲームや本などは基本的に見つけ次第通販で買ってしまっているし、日用品やら衣服、貴金属なんかはたくさんあっても逆に困るのだ。何しろ私の体は一つしかないからね。気に入って購入したのに一回しか使ってません。なんてことになるほうがちょっと悲しい。

 じゃあほかに欲しいものは――と考えてみても、どうせ私は一般人なので、優吾が納得するような高価なものなど思いつきもしない。

 ああ、そう言えば。


「自転車は欲しいかも」


「自転車? 車があるのに?」


「言うと思ったわ」


 電車やバスを使うと要さんたちがうるさい。かと言って、車の運転を自分でしたいというほど車に乗ることが好きなわけじゃない。いつも運転をしてくれる要さんたちには本当に毎日感謝してますとも。

 でも原付バイクは絶対に要さんたちに止められるだろうし、そもそも体が露出している乗り物は怖いし。バイクとかカッコいいとは思うけど、上記の理由で乗ろうと思ったことがない。

 だけど、ちょと近所に買い物に行こうと思ったとき、わざわざ車を出してもらうのは本当に手間だろうし、それ以上に、近場で車を使うメリットってものがないんだよ。下手すると徒歩より時間がかかる。

 そこで自転車というわけですよ。近場のコンビニなら徒歩でも問題ないのだけど、時々買いすぎちゃうことってあるじゃない? そういう時に、自転車のかごとか便利だろうなと思うのだ。大体は近場の買い物なんてゲームをするときの食料品が主だし。飲み物も併せて買うと、まあ、それなりに重い。


「いや、本当に欲しいなら別にいいんだよ? でもなんで自転車?」


 そう聞かれたので、優吾に軽く説明してみたらほぼ納得してくれたようだったけど。


「そもそも買い出しなら要たちに頼めばいいのに」


 と言われたので『へっ!』と鼻で笑い返しておいた。

 大体自分の欲しいものを買いに行くのに、自分で見に行かないでどうするよ。新作とか出てたら手を出すだろう常識的に考えてっ。それに現地で見てあれも、これもとつい買いすぎてしまうのも買い物の楽しみの一つだ。と言いたい。


「買い物の楽しみを知らないとは、このボンボンめ」


「そう言えば、女性は買い物をするとストレス発散になるんだっけね?」


 そういうことだ。


「まあ、別に絶対欲しいってわけでもないけど」


 あれば便利だなぁ。くらいの気持ちではあるし。


「自転車ね。候補の一つにはしておくよ。それで、他に何か思いつくものはある?」


「えー? 他ぁ?」


 どうしよう。本当に思いつかないんだよなぁ。

 私がゲームを自作するとか、お絵かきするとかって趣味があれば、そういうソフトとかねだれそうだけど、私には絵心も文才もないのだ。もっぱら『やる専』である。

 ぬいぐるみは……この間、大好きなゲームグッズの中にぬいぐるみがあって、つい購入してしまったしなぁ。

 車とか? いや~。優吾の個人的な持ち物として三台もあるから要らないし。貸してと言えば貸してくれるし、たぶん大破させても笑顔で許してくれそうだ。いや、そうじゃなくて。

 あー。こうして考えると、本当に困る。子供の時はわりとぱっと出てきた気がするのに、大人になると、実用性とかなんか色々考えてしまうからなのか、本当に思いつかないのだ。それとも私が一般人だから出てこないのか。


「本マグロを一匹とか?」


 お魚は好きですし。


「本気でほしいなら買ってきてあげるけどね。一人じゃ絶対に食べ切れないよ?」


「その時は本家でマグロパーティーを開こうぜっ」


 ちょっと魅力的なプレゼントだと思ってしまった。

 ちょっと落ち着こうか自分。


「じゃあ、どうせなら市場で旬の魚でも買い占めてくる?」


「優吾も落ち着いて。市場が荒れるのでやめてください」


 すごく魅力的な提案なんだけども。


「うーん。あ、春乃ってサーカス見たことある?」


「ないよ。ってか、呼ばんでいいからな?」


「楽しいのに」


 それって海外から呼び寄せるっ意味ですよね? 本気でいらないからな? 私の誕生日のたった一日のためだけに、どれだけサーカス団の人たちに苦労を掛ける気だよっ。


「ちなみに、遊園地だとか水族館だとかを貸し切るのもナシだからな」


「それはしないよ。前に貸し切りの遊園地ほどつまらないものはないって言ってたでしょ?」


「覚えててくれてよかったわ」


「じゃあ、マジシャンとか? ああ、好きな芸能人とか呼ぶ?」


「止めろっ! なんかやめてっ!! いたたまれないからっ!!」


 私はどこの御大臣様ですかってんだっ!


「好きな歌手とか芸能人呼ぼうかって言うと、大体は喜んでくれるのに」


「その大体の枠組みに一般人の感覚が抜けてるからねっ!?」


「そうかな? 学生時代なんか喜ばれたよ?」


「ミーハーな若者と私を一括りにするなっ! 私は家族や友人と祝う方がよっぽど安心して嬉しいですぅっ!」


 もう、話が脱線しまくってるじゃんか。とにかくプレゼントの話だろ? 今、一生懸命考えてるんだから余計なツッコミ入れさせるなよっ。まあ私が巻いたネタのせいとも思うけど。でもマグロパーティーは魅力的だと思う。マジで。


「うーん。じゃあ逆にもらってうれしいものってなに?」


 困り顔の優吾がそう言って腕を組んで首をかしげ気て見せる。聞いても分かんないとか、ないとか答えられても困るわなぁ。


「もらってうれしいものは、心のこもったプレゼントだよ。例えば、それが自分ではあまり使わないものでも、私のことを考えて選んでくれた物ならやっぱり嬉しいよね。とはいえ、実際もらって困るものは本当にどうすればいいか悩むのも事実だけど」


 そういうのをわがままともいう。


「喜ばれるプレゼントは消えもので、嫌がられるのが生き物ってのは一般的だけど、それも場合だよねぇ。実際、美影がプレゼントに生き物を持って帰って大いに子供たちに喜ばれてるし」


「そう言えば、あのわんこの名前は決まったの?」


「ケツァルコアトルになりそうだったのを慌てて止めて、金太郎で落ち着いたみたいだね」


「色んな意味でなぜ子供たちが空飛ぶ蛇の名前を知ってたのか謎。マジで金太郎になってよかったと思ってしまう私が居る」


 名前に関連性ゼロじゃねぇか。


「横文字のカッコいい名前にしたかったらしいんだよね。候補はいろいろあったんだよ? リバイアサンとかバハムートとか、オシリスとかなんか、いろんなのが……」


 優吾が遠い目をしてる。きっと苦労したに違いない。


「横文字がいいならジョンとかレオンとか、なんかあんだろ?」


「子供たちは大好きなRPGから名前を取りたいっていうのもあったんだろうけど、本当に良かったよ。わりとまともな名前になって」


「子供たちのその気持ちが分からなくもない。私」


 何を隠そう、昔飼ったことのあるハムスターに大好きなRPGのキャラの名前を付けたことがあるのだ。いわゆる黒歴史に分類される……のか? まあ、とにかく、そんな昔のことがあるので、子供たちの気持ちは分からないでもないが。


「実際バハムートとかって名前にしたら、散歩とかで『バハムートおいで~!』とか呼ぶんだぜ? 子供たちはいいかもしれないけど、自分だったらと考えると恐ろしいわぁ」


 名前は大事よ。うん。


「ホルスとかアヌビスあたりならまだ言いやすそうなんだけどねぇ。って、本当になにか思いつかないの? このままだと、なんかすごいものを贈らないといけないよ?」


「なぜそうなる!? いや、話が脱線したのはもう、いつものことだからあれだけど。普通の物でいいんだよ普通の物で、デパートとかの売り子さんが薦めてくれるようなもので」


「それって、心がこもってるっていうのかな?」


「うーん」


 確かに、売り子さんが薦めてくれたままの物を買ってしまうと、自分で選んだとはいいがたいかもなぁ。でも、人気の商品や喜ばれる商品なんかにも詳しいプロですし、大外れはしないとはお思うけど。


「そう言えば、春乃の誕生日は十一月でしょ? 誕生石って何になるの?」


「ん? トパーズだね」


「さすが詳しいね」


 いや、自分の誕生石くらいはわりと女の子はみんな知ってそうだけどな。


「トパーズか……」


 何やら優吾が何かを考え始めたようだが。


「ベタに誕生石をプレゼントされるのは嫌いじゃないよ」


 どうせ考えてるのはそんなところだろう? と、優吾に笑って見せれば、彼も小さく笑いながら頷いた。


「ベタでも、喜ばれるものがやっぱりいいでしょ? トパーズのなにかをあげようか。まあ、楽しみにしてて」


「おう。大いに期待してるよ」


 そういう宝石関係なら、まず間違いはなく女子に喜ばれるだろう。逆に言えば、光り物が嫌いな女性は限りなく少ないだろうし。


「そう言えば、優吾は誕生日に何ほしいの?」


 私がそう聞けば、優吾は少し考えた後に、ふっと息を吐くように笑みを口元に浮かべる。


「最近は馬でも買おうかと思ってた」


「それは予想してなかったっ」


 馬って、競走馬かなんかの馬主にでもなるつもりだろうか?


「広い土地でも買ってさ。馬を飼って休みには馬とのんびり過ごすのもよくない? 癒されそう」


「癒されたいの? 疲れてる? いいゲームありますぜ」


 鶏からクジラまで何でも飼える牧場経営ゲームな。かわいい動物たちを飼って癒されるぜ。たぶん。私は好きだし、あのゲーム。


「うん。ゲームがいいところだよね。時々、現実逃避したくなるだけだから気にしないで。ゲームはやってみたいけど」


「あとでやらせてあげよう」


「うん」


 と笑顔で返事はくれるが、優吾はやはりどことなく疲れてる気がする。いや、今、彼が変なことを言ったから急にそう見えるだけかもしれないが。

 現実逃避か。てか、何で誕生日プレゼントの希望を聞いて時間を要求されなきゃいかんのだ。そういうのは神様の領分だ。あれ? でも欲しいのは癒しか?


「お手軽マッサージグッズでもあげようか?」


「マッサージグッズねぇ。んー。きっと僕はぬくもりに飢えているんじゃないかと思うんだ」


「そうか。じゃあ今では懐かしささえ覚える湯たんぽでも買ってやろうか?」


「確かにそっちもあったかいけどねっ。どちらかというと人肌が恋しいんだよね!」


 笑顔でそう言われても困ってしまう。


「ああ、それなら優秀な従者があなたの心も体も温めますよ。おすすめは美影さんか聖君で」


 美影さんはいいにおいするし、聖君の体系なら抱きしめるのにちょうどいいサイズだろう。


「さすがに美影や聖を抱き枕にして寝たくないんだけどっ!」


「え? 贅沢なわがままだわ」


「え? 当たり前だよね?」


「私は美影さんとこの金太郎でいいわ」


「むしろ僕と一緒に寝ればよくない!?」


「えぇー?」


 犬は人間より体温高いから一緒に寝るには最高のパートナーですけど?


「一緒に寝ればあったかいでしょ?」


「暖房器具がありますし」


「僕が春乃と一緒に寝たいっ!」


「初めから素直にそう言えばいいものを……だが断固拒否する!」


 急に何を言い出すのかと思えば、まったく。


「僕を癒してよ~」


「私と寝ても蹴飛ばされるだけで癒されないと思われる」


 私の寝相はいい方ですけどね。


「となりにいてくれるだけでも癒されるんだよっ」


「ひとつ屋根の下で一緒にいるじゃないか。はっはっはっ」


「そういうことじゃないんですけどねぇ」


 知ってますけどね。


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