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カフェオレ・ダーリン  作者: 風犬 ごん
31/53

贈るなら


「ねえ春乃。ドラゴンなんたらってゲーム知ってる?」


 休日の朝。朝食が終わってのんびりとテレビを見ていたら、急に優吾がそう聞いてきた。


「いや、その『なんたら』って一番大事な部分が抜けてると答えようもないんだけど」


「えっと……何だったかなぁ? RPGなんだけど」


 そう言って悩みだす優吾に、覚えきれないなら紙にでも書いとけよ、とちょっと思ったが。


「お前、世間で売られているゲームの数を舐めんなよ。PCから家庭用ゲーム機、スマホなんかのソシャゲまで合わせれば、全部を把握するのは間違いなく不可能だからな? せめて、ゲームのタイトルと売り出してる会社名くらい聞いてこいや」


「でも有名だって聞いたんだけど」


「うん。有名なドラゴンの付くタイトルのRPGなんざ山ほどあるわっ」


 国内、海外合わせれば、数えるのが嫌になるほどあるだろう。

 ゲームというくくりに入れるならば、TRPGだってトレーディングカードだってゲームジャンルだ。


「あ。もともとパソコンゲームで、家庭用ゲームにも移植されたとか聞いたかな。もともとは海外で作られたやつらしくって、自由度の高さが売りらしいよ」


 なんでタイトルよりも、どっかの掲示板のレビューみたいなことを覚えてるんだよ。

 でも、そこまで聞けば、多少は私の頭にも有名どころのゲームがいくつか浮かぶ。


「それって、ダウンロードのみ?」


「ソフトも売ってるみたいだよ」


「あー。それなら『ドラゴンデラックスRPG』とか、『バイドラゴンドリーム』あたりが有名なはずだけど」


「んー。そういうタイトルじゃなかったような……」


「そもそも、ゲームタイトルにきちんと『ドラゴン』ってのワードが入ってた?」


「たぶん」


「サブタイトルとか、売り文句的なやつじゃなくて?」


「そう聞かれちゃうと、すごい怪しくなってきた……」


「てか、なんでいきなりゲームの話?」


 普段は私の持ってるゲームを一緒にやるくらいで、優吾が興味をもってゲームを探すのは本当に珍しいと思うのだ。


「ああ、実は甥っ子がさ。来月誕生日なんだけど、こうサプライズ的な贈り物を上げようと思ったんだよね。で、それとなく調べてもらったら、今、その何とかってゲームが欲しいらしいんだよ。だから買って驚かせてあげようかなって」


「ああ、居るよねぇ。サプライズ好きな奴。私も好きだけど、でもゲームは絶対に本人に聞いてから買った方がいいって。間違うと大惨事だよ?」


「え? そう?」


「喜ばせたいってのは分かるけどさ、やっぱり欲しいものを送った方が絶対喜んでくれると思うよ?」


 私もサプライズは嫌いじゃないが、もらって困るものほども反応にも困るのだ。

 まして、子供に変な気を使わせるのもかわいそうだし、逆に子供が何の気も使わずに『いらない』と突っぱね来たら、しれはそれで悲しいだろうし。


「そっかぁ。海外のゲームだったら英語の勉強にもなるだろうし、翻訳してないのを買ってあげようと思ってたんだけどね」


「もっとやめろっ」


 何のいじめだそれは。


「えー? やっぱり英語を覚えるなら本場がいいでしょ? あ、じゃあ本場のランドに行くのもアリかも」


「アンタのその本場へのこだわりって何なのよ」


 意味わかんねぇよ。


「でも、ミュージカルとかオペラもいいかも」


「いいの意味が分かんないっ」


 すまない。見たこともない優吾の甥っ子よ。君のおじさんが暴走してしまいそうだよ。


「本場のオペラはいいよ? 迫力が違うし」


「そういうことを言ってるんじゃないからね? 誕生日のプレゼントからかけ離れてきてるってことを突っ込みたいからね私は」


「ん? 僕は十歳の誕生日の時に、オーストラリアでオペラを見たよ」


「駒百合の常識なんぞ知るかっ! 私が十歳の時にもらったのはクマのぬいぐるみだこのやろうっ!」


 そう言えば、熊三くまぞうさんはどこにしまってあったかな?

 それはさておき、本当に駒百合基準でものを考えると半端ねぇよ。あれだろ、オーストラリアのオペラハウスって、あの有名な奴だろ。ありえないわぁ。


「ああ、クマのぬいぐるみなら僕ももらった経験があるよ。かわいいよねぬいぐるみ」


「予想外の答えでびっくりだよ。でも、そういう普通……じゃないよな? それってアレなんじゃないの。世界で一番有名なクマさんじゃないの?」


「違うよ。ベッジってブランドの特注品だったかな? まあ、もう小さかった姪っ子にあげちゃったけど」


「あーもう、突っ込みたくないっ。この、金持ちのボンボンめっ!!」


 ベッジといえば、日本でも有名なブランドの一つだよっ。疎い私でさえ知ってる名前のブランドだよっ。一番安い財布でさえも一つ十万近くするようなブランドだよまったくっ!


「ああ、じゃあこうしよう。春乃の誕生日には、絶対に腰を抜かすようなサプライズを送ってあげるから楽しみにしてて。確か十一月だったよね?」


「ああ、そういうのはいいです」


 普通にケーキがあるだけでハッピーなんで。

 なんかものすごいキラキラした顔で優吾が笑ってる、怖いっ。


「いや、そんなことより、甥っ子への誕生日プレゼントは?」


「ああ、そうだ。どうしようかな? 春乃だったら何を贈る?」


 まあ、さっきは駒百合式誕生日のサプライズに突っ込んでいたけど、そう聞かれても困るは困るよなぁ。

 結局、相手は駒百合の血族なわけで、当然金持ちなんだから何を贈れば喜んでくれるかなんか私にはわかりっこないのだ。

 今だって、私と優吾の生活の基準は私の常識がベースになっている。時々すごい物や事が起こったりするけど、それでもまだ私に寄せていてはくれてるらしい。

 でもそれは、あくまで私と優吾の間だけでのことで、それを彼の親戚にまで押し付けるわけにはいかないし、でも、子供が欲しそうなものって、大体同じじゃね? とも思わなくはないし。何しろゲームが好きっていう情報が出たぐらいだ。


「相手の好みのものが基本じゃない? 聞いた方が早いのは確かだけど、優吾がどうしてもサプライズしたいっていうなら、甥っ子の好きなものに関連したものがいいと思う」


「ゲームかなぁ?」


「そっからいったん離れようぜ。インドアかアウトドアならどっちよ?」


「それは間違いなくインドアだよ」


「ゲーム好きなんだもんね」


 そうしたら、やっぱりそっち関連のグッズという手もある。

 私も大ハマリしたゲームの関連グッズを買おうと、この間も公式ホームページをのぞいていたくらいだし、きっと喜んではくれるはずだ。

 ただ、相手がすでに全部持ってる可能性は捨てきれないんだけどね。


「あとは、フィギアとかいう人形も好きみたい」


 それは、うん。


「あとは、なんかテレビには出ないアイドルとかも。よくライブに行くらしいよ。ペンライトみたいなのもって仲間と最前列で踊るのが楽しいらしいね」


「デフォルトのヲタクじゃねぇか」


 って、ちょっと待てよ。


「私さ、甥っ子って小学生くらいを想像してたんだけど」


「ああ、ごめん、年齢教えてなかったね。ぽんちゃんは今年で十八歳になるんだよ」


「そのあだ名に悪意を感じるぞ」


「ぽんちゃん? 昔からちょっとぽっちゃりさんだったからね。ほら、『未来から来たぽんちゃん』ってアニメが昔流行ってたの知ってる? あのぽんちゃんに似てるからって付けられたあだ名なんだよ」


「ああ、未来の狸型ロボットのぽんちゃんね。覚えてるよ……って、いいのか本人はぽんちゃんでっ!?」


「本人は気に入ってるみたい」


 本人がいいならいいけどさっ。ぽんちゃんかわいかったしっ! って、そうじゃねぇ!


「でも十八歳って、さすがに何をあげれば喜ぶかなんて全然わかんねっ!」


「やっぱり本場のミュージカルでも見に連れていく?」


「それは絶対に喜ばないのだけはわかるっ!」


 好きなものがモノだからなぁ。


「うーん。じゃあ、好きなゲームの関連グッズとかかなぁ。この前、春乃もみてたし」


「なぜお前が知ってる」


「履歴って知ってる?」


「怖いんですけどっ!!」


 なんで私の履歴見てるのっ!?


「別にストーキングの一環ってわけじゃないからね? この間、自分で見たサイトをうっかりブックマークし忘れてて、仕方なく履歴から探しただけなんだよ。それでたまたま開いただけって話だから」


「ああ、そのたまたまは信じるわ。まさか優吾がそういう系に目覚めたのかとひやひやした」


「いくらなんでも、それは……。あ、でもこの前、会社の後輩の女の子たちと心理テストで遊んでたら、僕はヤンデレの素質があるんだって出たよ」


「そうか。ぜひ今の爽やか系美形男子のままでいてくれ」


 数ある『〇〇デレ』の中でも引きたくないのが病み系だわ。あれは物語の中だから面白いのであって、実際そんなの引き当てた日には命がいくつあっても足りやしない。

 でも私はどS系男子も好きだがな。って、それも今はどうでもいいんだってばっ。


「話が脱線しすぎだから。プレゼントだよ。プ・レ・ゼ・ン・ト」


「だね。でも、僕もぽんちゃんが喜びそうなものって思いつかないんだよなぁ。ぽんちゃんって、大体はあげたものを喜んでくれちゃうから。逆に気を使わせちゃってるみたいで申し訳なくてね」


「ぽんちゃん、いい子じゃねぇか」


 それなら確かに喜ぶものを送ってあげたいという気持ちもわかるけど、そうなるとサプライズは避けたいところだ。でも逆に考えれば、気を使っちゃうからこそ、欲しいものを聞かれても何でもいいよと言いそうでもある。

 てわけで、私と優吾はかなり悩んでしまった。

 きっと大好きなフィギアは、それこそ自分でこれと思うものを買っているだろうし、サプライズでゲームを贈るにも、ゲーム好きというからには私よりももっと情報を持ってそうだし、ゲーム自体も本数をこなしているだろうしな。


「ああ、好きなアイドルの子のライブチケットとかは?」


「使用人駆使してチケット取ってるからねぇ。逃してるライブは今のところないんじゃないかな?」


「くっそう、ボンボン二号めっ」


「そう言えば、春乃がこの間見てたゲームのホームページって有名なの?」


「ん? ああ、そこそこね。ただ今のところダウンロードでしか買えないから、日本ではいまいち盛り上がってないけど、海外ではかなり評価の高いゲームだよ。なんで?」


「うん。ぽんちゃんってゲームは好きなんだけど、手元に残らないダウンロード系ってほとんどやらないからさ、春乃が薦めるなら興味持ってもらえそうだなって、ほら優那と話が合うでしょ? ぽんちゃんも優那とわりと仲がいいんだよね」


 ゲームヲタクの優吾の友人、氷室優那君とはまあ、確かに時々PCの無料通話でゲームをやりながら話はするな。ぽんちゃんはそっちとも仲がいいらしい。


「じゃあ、逆にゆーなちゃんが薦めてるかもよ? 確か私はゆーなちゃんの薦めであのゲームやったし」


「たぶん言ってないと思う。優那もぽんちゃんがダウンロードのみのゲームをあんまりやらないの知ってるから」


「ああ、確かにそういう場合もあり得るか。じゃあ、ゲームそのものを贈るより、関連商品のTシャツとかマグカップやらキャラのぬいぐるみやらを贈ってみる? 私とゆーなちゃんが今ハマってるゲームのキャラグッズだよって。もしかしたらそっから自分で調べてハマる可能性もあるかもよ?」


 それに、近々あのゲームは他のメディア媒体で発売されるらしいうわさも聞いてるし。


「シャツとかマグカップとかならあっても困らないでしょ?」


「そうだね。二人が好きなゲームのキャラって言えば、高確率で興味持ちそうだね」


「ならさっそく商品の注文してみるか。でもうまくいかなかった時のことも考えて、別のプレゼントも探しておく?」


「だね。無難なところでスペースゾデアックの腕時計でも買っておくかな」


「腕時計の有名ブランドじゃねぇか……まあいいんだけどさ」


 無難って言葉の意味が、今一瞬、私の頭の中に思い浮かばなかったわ。

 まあ、とにかく。私と優吾はテレビを消すとリビングから出て私の部屋へ。

 パソコンのブックマークからゲームの公式サイトへ飛び、さっそくどのグッズをどれだけ買うかを話し合いながら、私はちょっと内心ほくほくしていた。

 だってさぁ、欲しいと思ってたグッズは買えるし、もしかすれば、私とゆーなちゃんが好きなゲームの信者を増やせるかもしれないんだから、そりゃ気持ちもほくほくするというものである。

 ぜひぽんちゃんにもハマっていただきたい。


「ところでさ……」


「ん?」


「なんで優吾の甥っ子が私の趣味を知ってるんだい?」


「ああ、たぶんだけど。稀人か優那あたりに聞いたんじゃないかな?」


「稀人君とも仲いい感じで」


 アニヲタの伊集院稀人君とも仲いいってのは、まあ納得だ。


「唯一ぽんちゃんが苦手なのが世良くらいかな」


 と苦笑いする優吾に、私も笑っておいた。

 まあ、私から言わせれば、稀人君もゆーなちゃんも、優吾と仲がいいというのは分からなくもないが、皐月さんだけ毛色が違いすぎるのだ。

 だから、いまだに優吾の友人関係は謎だなと思う。まあ、基本的に優吾の友人たちは、悪い人たちではないのでいいんだけど。


日常的な話をちまちまと。

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