表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
カフェオレ・ダーリン  作者: 風犬 ごん
30/53

雨の日の過ごし方


 最近、雷を伴う雨が増えてきた。ゲリラ豪雨もすごい。

 まあ、私は普段から家にいて滅多に外に出ないし、出ても結局は近場の本家か、美影さんたちと車での移動ばかりだ。

 だけど……。


「三日も雨が続いてると、出かけたくても出かけられないよなぁ」


 窓の外を見上げて、私はこっそりと息を吐き出した。

 優吾は今、仕事で家にいないし、昨日ダンスレッスンをやったから今日はお休みだし、本家に用もない。

 ゲームも今のところやりたい気分ではないし、せめて雨さえ降っていなきゃ気分転換に散歩にでも行けるんだけど。


「こういう日は本でも読んで過ごすしかないか……」


 とは思うのだが、自分の持っている本は全部読んだことのあるものばかりで、途中で飽きてしまいそうだ。

 私はリビングのソファーに座り、テレビをつけた。午前中の公共テレビは私の興味を引いてくれるようなものはやっていなくて、いろいろチャンネルを変えても結果は変わらず、今日はどうにも暇を持て余してしまっている。

 いつもなら、何かしら暇つぶしはできているのだけど、でもあれだ。今の生活にだいぶ慣れたせいだと思う。

 最初のころは、暇なんて感じる間もなく忙しかったり、慣れなきゃいけないことばっかりだったしな。


「あーーっ。でも暇だーー」


 結局テレビを消してリモコンをテーブルの上に置くと、私はソファーに寝転がった。

 高い天井を見つめても何かがぱっと思いつくわけもなく、こんなに冴えた頭では雨音を聞きながら眠るというのもできそうにない。

 雨は嫌いじゃないけど、今日に限っては止んでくれないかと思ってしまう。

 たまにはネットの通販サイトでものぞいて見ようか。それとも――こういう時こそ、素敵な愛人探しでもするべきなんじゃね?

 私はばっとソファーから起き上がると、スマホを取りに自分の部屋へ向かい、スマホを片手にまたリビングに戻って、飲み物を用意してからソファーにまた座る。


「でだ。探すといっても、そう簡単じゃないよな。まず、何をすればいいやら……」


 SNSとか、出会い系のアプリとか、まあいろいろあるだろうけど。


「そういうのは筆まめな人がやるやつだから」


 やばい、早々に挫折した。

 そもそも、愛人探しって、暇つぶしでやることでもないんだよな。

 平日の昼間に遊べる友人なんてないし、てか出かけることになれば、もれなく要さんに連絡入れないとならなくなるし、するとお守り付きで出かける目になりそうだ。

 今、会える知り合いのところに行けたとしても、ボディーガードつけてくのはさすがに無理。


「あーもう。本当に今日はとことんダメだなぁ。思考もグダグダじゃん」


 でもうまくいかない時ってのは誰にでもあるものだ。

 暇をつぶすことだってそう。こうしてグダグダと過ごしていれば、いつの間にか時間は過ぎてしまうだろう。でもそんなのはあまりにも時間を無駄にしてるんじゃないかと思うと、もったいないから何かしたいと思ってしまう。

 でも、そう思ったところでいい方法は思い浮かばず、自分でひねるり出した暇つぶしはどれも魅力的には思えず、しかも昼ご飯を食べるにも作るにも時間が早すぎる。

 でも何かしら面白いことはあるだろ。

 私はスマホをいじりながら、ニュースを見たり、何かしら動画を見たりもしてみるが、やはりすぐに興味は薄れていって、結局、時間が潰せたのはほんの三十分程度だった。

 でも、いろいろ見ている分には情報が入るし、無駄に過ごしているわけではないはずで、私はもうしばらくだけスマホをいじくってみることにした。

 そう言えば、最近ゲームの最新情報をあまりチェックしていなかったことも思いだして、口コミやレビューのチェックもやっておこうと、様々なサイトを開いていく。特に、最近の私はインディーズゲームが来てるのだ。






「てか、洋ゲーってFPS系多くない? アクションは好きだけどホラーはなぁ……和洋問わずホラーは一定の人気あるよねぇ」


 なんて、私が動画サイトでゲーム実況を見ていた時だ。

 急にスマホが鳴りだして、私はちょっとびっくりしてしまった。うん。情報収集がいつの間にやら実況観賞になってしまって、今はホラゲの実況見てたからね。自分ではできないけど、見るのは平気なんだよ。

 いや、まあ、電話な。誰だろう。と、画面を確認すれば、聖の文字が見える。聖君から電話なんて珍しい。

 ちなみに、側近四家の番号は自宅から緊急用にスマホまで全部知ってる。

 一先ず電話に出ると、名前の通り聖君からで。


『春乃様、今ひま?』


 と、聞かれた。

 いったいなんだというのかね? まあ暇だけど。


「それなりにね。どうかしたの?」


 そう聞き返せば、聖君は『あのね』と話し始める。


『実は俺、今日休みな上にすっごい暇なんだけど、雨降ってるでしょ? 遠出もしたくないし、かと言って家にいてもちょっと家族が面倒くさいし、要も蛟もいないし、美影は女のところだし。で、考えたら春乃様ってゲーム持ってるじゃん? だから、一緒に遊んでもらおうと思って』


「うん。遊ぶのはいいんだけど、貴重な休みを私と過ごしていいわけ? せっかく護衛対象と離れていられる貴重な時間でしょうに」


 別に遊ぶのが嫌なわけじゃない。

 見た目が天使のごとき聖君と一緒にいるのは、こちらとしても色んな意味でありがたいが。


『ああ、うん。そういうの気にしないから。それに俺、春乃様と遊ぶの好きだし。春乃様がダメじゃないなら行ってもいい?』


 そりゃ、本人が気にしないというなら、私の答えなんて決まってる。


「ウエルカム」


『やったっ。じゃあ三十分過ぎくらいに着くと思うから、ちょっと待ってて。それと、お昼は何食べるか決まってる?』


「いや、まだだけど」


『じゃあピザ食べようよ。エビマヨとマルゲリータがすっげー食べたい気分なんだ』


 なるほど。どうやら今日の昼は決まったようだ。






 それから時間通りに聖君が現れて、私たちは早速、飲み物とお菓子を用意するとゲームを始めた。

 私の持っているゲームの半分ほどは彼もやったことのあるものだったらしく、聖君は自分でやったことのないものを選んではいろいろと手を出していた。まあいろんなものに興味を持つのはいいことだ。

 でも、聖君が来てくれたおかげで、私の暇はすっかり消えて終始、私は聖君と笑って過ごしていた。

 お腹すいたの聖君の一言で、昼もとっくに回った時間になったことにも気づかなかったくらいだから、相当私は楽しかったんだろう。

 電話で話していた通り、ピザのデリバリを頼んで、私たちはいったんリビングに移動して、お昼を食べることになった。

 お昼を食べ始めて二枚目のピザを食べているとき、聖君が急に何かを思い出したように「あ」と声を上げた。ついでに説明しておくと、ピザはLサイズのマルゲリータ一枚と、Mサイズのエビマヨ一枚がテーブルに並んでいる。

 これ、私と聖君だけで全部食べ切れるだろうか?


「どうかした?」


 先ほどもれた聖君の声に首をかしげて見せる私に、彼は口の中のものをコーラで流し込むと私に顔を向けた。


「今さら思い出したんだけど、美影にさ。『春乃様には女のところに行ったのは内緒にしてて』って、言われてたの忘れてた。聞かなかったことにしといてよ」


「今さら言うか。しかもものすごい清々しい笑顔で」


 絶対忘れてたんじゃないでしょ?


「まあ、俺には関係ないから。そもそも、あの女好きの印象を悪くしたいんだから、いわないはずないよね?」


 なんて天使のようなほほえみを浮かべて悪魔のような一言を口にする聖君に、私は苦笑いを返すしかない。

 美影さんの印象って、別に私の中では一定だけどな。


「相変わらず、美影さんにだけは厳しいね」


「見た目が女みたいなくせに女好きで、しかもモテるんだよね、あいつ……それがめちゃくちゃ気に入らないんだけど、別に美影が嫌いってわけじゃないよ。どっちかというと、昔は俺の面倒を見ててくれたのは美影だし」


 そう言うと、聖君は複雑そうな顔で口元を緩めて見せる。

 まあ、仲が悪そうには見えなかったからね。


「そう言えば、四家の当主ってみんな歳が離れてるの?」


 確か要さんは私より年上だったはずだ。でも残りがよくわからないんだよな。年齢を聞く機会もなかったし。


「歳が離れてるのは俺だけだね。他三人はそこまでじゃないよ。蛟が要の二つ下で、美影が蛟の一つ下」


「美影さんが思った以上に年上でびっくりした」


「美影は見た目の年齢が不詳なところがあるからね。ちなみに俺は二四歳」


「そっちも見た目のわりに歳がいっててびっくりした」


「それも割とよく言われる。俺って童顔なのかなぁ?」


 そう言って首をかしげる聖君に、その見た目の可愛さのせいじゃなかろうかと思わずにはいられない。


「十代後半で行けるくらいには若く見えるよね」


「マジで? あーだからよく女の子たちに頭撫でられるのかぁ」


「撫でさせるんだな」


「いちいち避けて説明するのがめんどいだけだけどね」


 わりとその辺が大らかというか無頓着よね君。


「でも撫でたくなる気持ちはわからないでもないわ。聖君って見た目がかわいいっていうか、つい撫でたくはなるよね」


「うわぁ、ショックだ。まあ、春乃様は俺より年上だし、春乃様に撫でられるは仕方ないとは思えるからいいや」


「いや、いいのかよ。そこは男として拒否しても問題ないところだよ」


「女性が頭を撫でるって、相手をかわいいと思うからでしょ? それって相手に好かれてる証拠でもあるからさ、ある程度は受け入れてるけど、美影に撫でられるのだけは屈辱だよね」


「そこはブレないのね」


「だって、あいつが頭を撫でる相手って、女か俺だよ? そりゃ屈辱以外ないでしょ?」


「ああ、そういう括りなら確かに屈辱だわ」


 聖君の立場から言えば、まあそうなるだろうな。

 とはいえ、たぶん美影さんからすれば、かわいい弟の頭を昔の感覚のまま撫でてる感じなんじゃなかろうか。だから、こうやって反発されちゃってるんじゃね?

 なんか、それはそれでやっぱり微笑ましいコンビだな。


「でしょ? 春乃様も気を付けなよ? あの野郎、見た目が女っぽくて一見無害そうでも、俺たちの中では一番危険人物だからね?」


「あーうん。想像ができないけどね」


 美影さんはやはり優しいイメージしかない私にとっては、聖君の言葉にはなんとも複雑だ。

 確かに、最初に浮気相手にどうか、なんて美影さんに言われたことはあったけど、あれを断って以降、そういう感じの誘いとかは一切ないし、どっちかというと美影さんって女子と居る感覚に近いんだよな。


「いやいやいや、美影ってぜんっぜん優しくないよ? 美影を優しいと思ってるのは春乃様と奏奥様だけだから」


「え? うそん」


「あいつは『ご主人様』にしか尻尾は振らないんだって」


「あーうん。ある意味、四家全員がそうじゃん」


「えーーー。うん……そうだね。いや、でも、美影は特にそうなんだって。一番、情に脆いのって蛟だし」


「予想外だったわっ」


 インテリヤクザ風の見た目に反して、蛟さんは恥ずかしがり屋な上に情に脆いのか……これで動物好きで涙もろくて、ドキュメンタリ番組とか見ると泣いちゃう感じだったら、もうなんだか全部許せるぞ、おい。


「でしょ? 俺の見た目がどうのってよりも、蛟の方がギャップはすごいと思うよ。映画とか漫画とかでも感動してすぐ泣くし、動物好き過ぎて家にかなりの数の動物がいるし、おまけに、今の蛟の目標が『春乃様に名前を呼んでもらうこと』らしいからね? 多分見た目で言えば、俺と蛟の中身が入れ替わってるといいかもしれない感じだよね」


「うん。蛟さんって……かわいいな」


「かわいいんだよ」


 うっかり萌えてしまった。


「じゃあ、あれだね。要さんが見た目と中身のギャップがほぼない感じなのか」


「だね。要はどっちかというと見た目と同じで真面目だし、でも融通が利かないってわけでもないから、やっぱりさすが四家の筆頭ってポジジョンだなって思う」


 逆に言えば、個性的なほかの三家をまとめる役目も持ってるんだってことなら、要さんの苦労も体外だろうなとは思うけど、それをまとめ上げる彼はやはり見た目に反することなく優秀なんだろう。

 この間も彼の優秀さに私は降参したばっかりだしな。






 昼を食べた後はまた聖君とゲームをして過ごした。

 聖君と他愛ない話をしながら、時折、側近四家の話を織り交ぜつつ一日はあっという間に過ぎてしまったと思う。結局、夕方に要さんが戻ってくるまでうちにいた聖君に、要さんが仕方なさそうにため息を吐いていたものの、聖君の分の夕食も作ってあげたところを見るに、なんだかんだまじめで面倒見もいいからこその筆頭ではあるんだろう。

 夕飯は優吾が戻ってから四人でそろって食べることになり、いつも以上に華やかな食卓だったな。

 聖君は夕食を平らげると要さんと共にとおとなしく帰っていき、とたんに家の中は静かになって今さらながら雨がまだ降り続いていることに気づかされた。

 どうにも空のご機嫌は直ってくれそうにもないけど、今日はわりと楽しい一日だったなぁ、と、今日のことを優吾に話して聞かせた。そのころになると、そろそろ寝る準備をし始めないといけない時間だ。

 優吾は明日も仕事があるし、明日の天気もあいにくの雨らしいと天気予報は予想していたが、降水確率からしてその予想が外れる期待は持てなさそうである。

 おかげで明日も出かけられそうにはないけど、でも。

 明日はきっと今日ほど暇を持て余したりはしないだろうな。根拠はないが、何となくそう思った。



現実世界はこれから梅雨入りですね。


雨は好きですが、雨音を聞いていると眠くなります。


2017/6/18

誤字の修正をしました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ