休日の過ごし方3
公園で少しの休憩をはさだあと、私たちはお昼を食べに行くことにした。
映画が終わってからの散歩だったけど、時間はそれほど経ってはいない。でも、まあいつもより遅めの昼にはなるな。
要さんの待つ車に戻り――公園の駐車場でずっと待機してたんだろうか?――どこに行くかをこれから決めるのかと思いきや。
「夕べのうちに要に頼んでレストランの予約はしてるから大丈夫だよ」
と、優吾がさわやかに笑うので、その辺だけはしっかり押さえるのねぇ、なんてちょっと感心。
「それはありがとう。まあ、その辺のファミレスとかライトフードでもありっちゃありだけどね」
サンドイッチやハンバーガーなどはお手軽に寄れるリーマンやOLの強い味方だと思う。コーヒーショップも捨てがたいが。
そういえば、私が前に働いてた会社のそばにはコンビニがなくて、同僚や後輩と近くのお弁当屋さんや定食屋に入ることも少なくなかったなぁ。近場にはお洒落なカフェはなかったし――味のあるアンティークな喫茶店はあるんだけど――会社の食堂っていうのも毎日食べれば飽きも来る。近場にコンビニがあれば楽だったんだけど、一番近いコンビニでも会社から歩いて二十分程度かかれば行く気も失せるというものだ。休み時間はさほど長くないんだし。
「僕そういう店に行ったのって、今の会社に勤めてからだったよ」
「さすがボンボンだよ」
さすが駒百合家のお坊ちゃんだと納得させられてる。でも学生時代とかはどうだったんだろうかこいつ。クラスの子たちに誘われたりしなかったのかしらね?
「ボンボンですよ。だけどいいよねジャンクフード。初めて食べたときはちょっと感動したよ。安い値段で普通に食べれてわずらわしいマナーとかもないし。でも、油はすごいから毎日は無理だよね」
「確かに。ジャンクフードを毎日とか、私の胃がキリキリと痛む」
要さんの作る栄養バランスがしっかり考えられたご飯の美味しいこと。ジャンクフードは時々食べるからおいしいのだ。
「胸やけも酷いしね。最初、会社の人たちにかなり驚かれたなぁ」
「まあ一般的には小さいうちに家族で行くことが多い場所だからねぇ」
「僕は子供のころから外食はさほどした経験はないんだよね。ほら、薬とか盛られても怖いでしょ?」
「一般人はそういう心配をしないからっ。薬盛られる心配しないといけない生活の方が怖いっつーのっ!」
さすが古より帝に仕える名家だよまったくっ。
薬って、毒とかそういう類だろ? どこの世界にそんな心配をする一般人がいるものか。本当に住む世界が違うんだから困るわぁ、とあきれ半分で息を吐きだす私に。
「そうですね。確かに一般の方々が食べ物に異物を入れられる心配はさほど高くはないのかもしれませんが、何事においても『絶対』ということはございません。まして、現在の春乃様は優吾様の婚約者という立場でいらっしゃいますので、信頼のおける人物以外からの飲食物の提供は拒否していただければと思います」
しっかり前を見ながら安全運転中の要さんにしっかりと突っ込みをもらいつつ、車は郊外へと向かうのであった。てか、私もいつまでも一般人感覚ではだめですよ、と要さんに釘を刺されてしまった感じだな、これ。
パノラマの高いビル群を通り抜け、首都圏を郊外へと抜ければあたりの風景も一変する。
背の高いビルは姿を消し、大きな道路も道幅を狭めて住宅街が遠景に見える。車はひたすらに走り続け、山の輪郭が遠くに見え始めるころには民家の数も減っていく。かれこれ一時間半は車で移動しているように思うのだが、目的地はまだなんだろうか?
そろそろ、私のお腹も文句を言いだす頃合いだぞ?
「山が見えるんですけど」
「もう少しだよ。自分のところで無農薬栽培している野菜を中心に地元でとれた食材を使っている店があるんだ。場所はちょっと辺鄙だけど料理はおいしいからきっと気に入るよ」
「美味しいお野菜は好きだが私の腹の虫がそろそろ抗議の雄たけびをあげそうなんですが」
「僕もお腹減った。ちょっと公園でのんびりしすぎちゃったね」
「あと十五分ほどで到着いたします」
私と優吾がお腹をさする姿に小さく苦笑い浮かべながら、要さんがそういった。
窓の外に顔を向ければすっかり景色は山沿いの田舎らしいものに変わっていて、高いマンションなどもすでに近くには見えなくなっていた。気が付けば車は緩やかな坂道を上り背の高いし針葉樹の森を横切りながら、ようやく開けた場所に出て停車する。
車から降りると私は両腕を高く上げて伸びをした。そして改めて景色に視線を移せば、田舎と都会の中間のような街並みが眼下に広がり、緩やかな坂道だった割にはずいぶん高い位置まで上ったんだなと少しだけ驚いたけど。
高い建物は一つもなく、それでも道路はしっかりアスファルトか敷き詰められていて、だけど青々と茂る稲穂が風に揺れていた。さほど遠くない場所にはハウスの屋根も見えている。きっとあの屋根が見えるあたりでは様々な野菜の栽培がされているんだろう。
空腹でさえなければ、この景色をまだ見ていたいとは思うのだが。
私は景色から視線を外して要さんや優吾の方へと体ごと向き直り、その向こうにある目的地であるはずのレストランへと視線を移した。
そこには二階建ての白い壁の建物がちんまりとたたずんでいた。
見た目は洒落たレストランというか、淡い緑色の三角屋根と汚れ一つない白い壁が、店の雰囲気を柔らかく清潔なイメージを持たせる。
外から見える一階部分の窓は木の質感を生かした茶色の丸みのある枠で、レストランの出入り口に使われているドアの木と同じものだとわかる。きれいに磨かれたガラスがしっかりはまっているドアからも、非常に明るい雰囲気が感じ取れた。
「春乃、行くよ」
そういって歩き出す優吾に続き私も歩き出せば、要さんが私や優吾よりも少し速足で私たちを通り過ぎてから店のドアの前で待機し、すっとタイミングよく店の扉を開ける。
要さんにお礼を言いつつ店に入れば、中もやはり木の質感を生かしたつくりをしていた。
高い天井に大きな梁と、梁の下にはスズランの花のような白い照明が五つ吊るされていて、温かみのあるクリーム色の壁や板張りの床と見事な調和を保っている。
室内に並んだ四人掛けのテーブルセットはチョコレート色の木材を使っていて、デザインもアンティーク調であるため程よくセピアな感じが出ていて私はわりと嫌いじゃない。
「いらっしゃい。優吾君」
店内の雰囲気を嬉々として見回していた私だったが、ふと落ち着いた優し気な女性の声を拾い振り返れば、そこには四十代前後の夫婦と思われる男女がにこやかに私たちに頭を下げていたのが見えた。
「お久しぶりです斎藤オーナー、花枝さんも」
優吾がそう挨拶を返せば、二人は姿勢を正して笑顔で答えていた。
どうやらこの店は優吾がよく来る店なのようだ。
「優吾君が家族以外の人を連れてくるなんて珍しいね」
と、オーナーらしい斎藤さんが笑顔のまま私に顔を向ける。
私はひとまずオーナーと花枝さんという人に頭を下げて見せた。まああれだ。なぜ事前情報をよこさないんだよ、という言葉は飲みこんで、私も一応は顔に笑みを浮かべて見せる。
「はい。実は彼女と婚約したんです。これから家族になる彼女のことも紹介しようと思いまして」
優吾がそう笑顔で私の背中に手を添える。
「宮島春野です。初めまして」
と、私も再度、軽く頭を下げて見せた。
「春乃、こちらはこのレストランを経営されている斎藤夫妻だよ。オーナーは父さんの後輩にあたる方なんだ」
「ああ、雅臣さんの」
これでなんかもろもろ納得できたわ。
「優吾君もついに結婚かぁ。由紀子ちゃんが寂しがるだろうなぁ」
なんて、嬉しそうににこにこするオーナーに。
「もうあなたったら。だけどおめでとう優吾君、それに春乃さん」
花枝さんが苦笑いで返して、純粋な祝辞をくれるので。
「ありがとうございます」
私もそう笑顔でお礼を口にした。
「ありがとうございます。ところで、今日は由紀子ちゃんお休みなんですか?」
「違うのよ。今は足りない食材を下まで取りに行ってくれてるの」
花枝さんの言う下ってのは、たぶんさっき外で見たハウスとかのことだろう。
で、さっきから言ってる由紀子ちゃんというのは、ここのアルバイトなのか。女の子なのは間違いないな。
「じゃあさっそく準備するから、好きな席に座って」
オーナーにそう促されるまま、優吾と私は挨拶もそこそこに窓際の席へと移動した。
それにしても、ほかのお客さんがいないけど、てか、要さんもいないし。
「要さんはまた車?」
「ん? そうじゃないかな? 基本的に要たちは僕たちが誘わない限りこういう場に同席することはまずないよ。何か用事があった?」
「いや、ないけど」
要さんはお昼食べたんだろうか?
「要のことは気にしないで平気だよ。それより春乃」
いや、するだろう普通。むしろお前はもう少しくらい気にしろよ。まあいいけどさ。
「なに?」
「ここってメニューがないんだけど、嫌いな食べ物ってなんにかあったっけ?」
「いや、特にないけど」
「それならよかった。本来ここって完全予約制でね。一日十組までしか受け付けてないんだけど、今日は無理を言って一枠取ってもらっちゃったから、食事のコースはオーナーに全部任せちゃったんだ。でも嫌いな食べ物がないならよかったよ」
「ああ、なるほどね。だから他のお客さんの姿もないのか」
お客さんのいない理由はなんとなくわかったけど、わがまま言ってすぐに貸し切れる状態なのがなんかすごいわ。これこそ雅臣さんの人徳というものか。
そんな感じで私は優吾と他愛ない話をちらほら続けながら待っていれば、ほどなくして食事が次々とテーブルに並べられ、私たちは食事を始めた。
並んだ料理は野菜中心でメインの豚肉のソテーにも、野菜を使ったソースなどが使われていた。どれもこれも野菜のうまみと甘みが十分に堪能できる優しい味がしていた。飛び切り豪華ってものではなかったけど、私の胃と心に染み込むあたたかさに心身ともに十分癒されましたよ、本当に。
そして最後のデザートにアップルパイのバニラアイス添えを堪能していれば。
「優吾さん!」
と、元気な女の子の声が私の後ろから聞こえてきたと思えば、私たちの座っていたテーブルに女の子が笑顔で現れた。十代後半か二十代前半くらいの細身の女の子で、背中の中ほどまで伸びた黒髪と、猫を思わせる瞳が特徴的なかわいらしい子だ。
一言で表すなら、ぶっちゃけかなりの美人さん。あと五年もすればこれに色気もプラスされて、まあ凄まじく美人さんになるだろうな。
「お帰り由紀子ちゃん」
優吾はそういうと、女の子改め由紀子ちゃんにそう言ってさわやかに笑って見せる。なるほど、この子が由紀子ちゃんか。
「はいっ! 優吾さんもいらっしゃいませ! 優吾さんが今日来るって知ってたらもっと早く帰ってきたのにっ」
「こうして話すのも久々だしね。僕も顔が見れてうれしいよ。そういえば、由紀子ちゃんは今年高校を卒業だっけ? 大学に行くの? それとも専門?」
「大学です。優吾さんがT大卒って聞いたから、私も頑張ってT大に行くつもりなんです!」
「そうなの? 頑張って」
さっくりアップルパイの程よい甘みと酸味を堪能しつつ、由紀子ちゃんと優吾の会話を黙って聞き流していれば、まあこの二人が割と仲が良いことがうかがえた。
そして、そこはかとなく由紀子ちゃんの優吾に対する好意以上の感情もちらほらとうかがえる。
「ところで、さっきオーナーから、優吾さんが結婚するって聞いたんですけど……本当ですか?」
そういうと、由紀子ちゃんはあからさまな冷たい視線を私に向けてくる。
「本当だよ。彼女が僕の婚約者の春乃さん」
「初めまして」
私は笑顔で軽く頭を下げて見せるのだが。
「ふーん――」
と、優吾に使った声色はどこに消えてしまったのか。色のない声と同様の無表情で私を一瞥すると。
「優吾さんの婚約者って、なんか、すごい普通の人ですね」
そういって、見下すような笑みを見せる。
何この子、チョー怖い。
「そう? 春乃はとてもかわいらしくて素敵な人だよ」
なんて笑顔を崩さない優吾だが。
「絶対に私の方がかわいいですもんっ」
と、由紀子ちゃんはかわいらしい声で、頬を膨らませると優吾にすねたような顔を見せる。
まあ、確かにかわいいだろうよ。きれいな子であることは私も認める。が、あざといんだよ。
西園君といい、この由紀子ちゃんといい、なんだって優吾に好意を持つ人間ってのはこう私に対してのあたりが強いんだろうか。
西園君ならまだ私も納得がいくが、この由紀子ちゃんに関してはただの八つ当たりじゃね?
「まあ君くらいの年の子はみんなかわいいよね」
由紀子ちゃんの態度にちょっともんもんとしている私を置いて、二人の会話はまだまだ進んでいる。
別にいいけどさぁ。私がすねたって由紀子ちゃんのようなかわいさは皆無だろうしさぁ。てかすねてないし。余計なことを考えてないで私はアップルパイを心行くまで堪能しよう。そうしよう。
アップルパイといえば、この添えられているバニラアイスも手作りなんだろうか? ミルクが濃厚でわりと好みだわ。
「私、ずっと優吾さんのこと好きだったんですよ!」
「わお。それを今のこの瞬間に言うかね、君」
さすがに突っ込まずにはいられなくて、つい口を開いてしまう私だが、それを無視してさらに優吾が由紀子ちゃんに向かって口を開いた。
「ありがとう。僕にとっても君は姪っ子のようでかわいいと思うよ。でも、恋愛対象として僕を見るのはやめてくれるかな? 前にも言ったと思うけど、僕は見た目の綺麗な人には興味ないんだ。春乃くらいがちょうどいい」
「その断り方もどうなのっ!? てかお前、私は見た目が美人じゃないから婚約しました的なノリか? ぶっ飛ばすぞマジでっ!」
婚約者のくせになに人のことティスってんだよっ!
「私の方が若いし、スタイルだっていいですよ! 口も悪くないです!」
「春乃は確かに口が悪いけど、それも彼女らしくて僕は気に入ってるよ」
「私の方が優吾さんのこと知ってます! だって知り合ったのは私の方が早いですもん!」
「時々しか会わない君と、毎日一緒に暮らしている婚約者を比べるのはどうだろう?」
「性格悪そうですっ」
「悪くはないよキツイだけで」
「女子力低そうですもん!」
「カッコいい女性なんだよ」
「男っぽいってことじゃないですか!」
「否定はしないけど、女々しくないだけだと思うけどね」
人の話を聞けよお前らっ。
何なの? ただご飯食べに来ただけなのに、なんで私の目の前でわけのわからないことやってんのこいつら。しかも人のこと無視だしっ。本当になんだこれ。
結局私がいくら二人を止めようと、突っ込みを口にしても、二人の言い合いというか、私のディスり合いは止まることもなく、だんだん面倒くさくなってきた私はアップルパイを完食すると。
「うるっせぇっ!! 加減にしろっ!!」
私はそう叫んでテーブルを両腕で思い切り叩いた。
さすがに私の行動と大声に驚いたようで、優吾と由紀子ちゃんが丸い目でこちらに顔を向ける。
「お前ら面倒くせぇんだよっ! 口喧嘩でも痴話喧嘩でもやりたきゃ勝手にお前らだけでやってろっ! 人を巻き込むんじゃねぇっ!!」
そう怒鳴ると私はさっさと席を立ち、私の大声に驚いてレジカウンターまで出てきていたオーナー夫妻に笑顔で『ごちそうさまでした』と一言添えると外に出る。そして外で待っていたらしい要さんが私の登場と同時に軽く頭を下げて、私が車に近づくとさっと無駄のない動きで車の後部座席を開け、私が乗り込むと静かに車のドアを閉じ、自分も運転席へと乗り込んだ。
「出かけようって言ったのも、この店で食事しようって言ったのも優吾のくせに……」
腹立つことこの上ない。こんなことなら家でおとなしくゲームでもしてた方がよっぽど心が潤うってもんだ。
「由紀子さんは、優吾様と初めてお会いになってから今まで、ずっと優吾様にアプローチし続けていらっしゃるようですので」
私の独り言を拾ったからなのか、それとも毎回のことだからなのか、要さんはそういうと体を少しこちらに向けて私に視線を向けてきた。
「あっそうですか。もう帰っちゃダメですかね」
すでにこれ以上優吾と居る気も失せた。
「優吾様を置いてですか?」
と要さんに首を傾げられたので、私は肩をすぼめ見せた。
「要さんが優吾を回収して先に帰ってくれてもいいですよ。私はこのまま歩いて近場の駅まで行くので」
「それは、了承いたしかねます」
そういえば、一人で電車に乗るなって言われてたか。いや、きちんと覚えてるんで、射殺しそうな目で私を見ないでください要さん。
「駅前にカフェとかくらいはあると思うので、美影さんか聖君にでもお迎えに来てもらいますよ」
「春乃様、差し出がましいことを申し上げますが、優吾様に弁解の機会を与えてはいただけませんでしょうか」
「は?」
要さんは何を言ってるんだろうか。
弁解も何も、別に私と優吾は喧嘩したわけじゃない。
「優吾様は春乃様を侮辱したかったわけではなく――」
と、要さんが優吾のために弁解を始めようとしているので、私は慌てて要さんを止める。きっとさっきの私たちの話が要さんにも聞こえていたのかもしれない。少なくとも私の怒鳴り声は絶対に聞こえていたはずだ。
「違いますよっ。別に私は優吾と喧嘩したんじゃありませんからっ。ただ私が機嫌を悪くしただけですから、弁解も何もないですよ」
特別美人じゃないことも、私が男勝りで口が悪いことも、それは紛れもない事実で嘘ではないから私は怒ったりしない。そうじゃなくて、あの由紀子ちゃんという子の態度がまず気に入らない。初対面の人に向かってあれはないだろうと思うのだ。
せめて初めましてあいさつに答えるくらいは常識的にしてほしいし、そういうことを無視しておいて、人のことをとやかく言うのはやめてほしいし、腹も当然立つもので、そこ持ってきて仲が良いらしい優吾はいつものノリなのかもしれないが、私を無視して通常運行。私を微妙にディスりながらおまけに彼女の無礼を咎めもしない。
これで機嫌が悪くならないほうがどうかしてる。
「別に過保護に守れとは言いませんけど、自分が『そのように装え』と言いながら、蔑ろしてるのはどっちだといいたいだけです」
まあこっちもいい年した大人なんで、機嫌の悪さも次の日になればスッキリ忘れるくらいには寛大である。
だから機嫌が直るまで放っておいてほしいだけだ。
「ではせめて、駅までは私がお送りいたしますので、少々お待ちください」
要さんはそういうと、いったん車から降りて店の中へと入っていく。
私はそれを見送って窓の外をへと顔を向けた。来た時同様きれいな景色が広がっている。
気分が良ければもっと違う気持ちでこの景色を眺められたかもしれないが、不機嫌いっぱいの私には、今景色の美しさなどどうでもいいのだ。
しばらく要さんが戻るのをぼうっと待っていた私だったが、青空を気持ちよく飛んでいる二羽の小鳥にちょっとだけ気持ちが和む。
「あれ、雲雀かな?」
雀とはちょっと違うように見える。
なんてちょっと和んでいた私だったが、突然、後部座席のドアが開き、にゅっと腕が伸びてきたかと思うと私の手首をがっしり掴み、強く引っ張られて私は外へと引きずり出された。




