ダーリンのお仕事
駒百合家が様々な事業を展開しているのは知っていたが、優吾がIT関係の仕事をしているというのは今日、はじめて知った。いや、まあなんで今さら優吾の仕事が分かったのかというと、それは今朝のことだ。
いつも通り目が覚めて、いつも通り要さんの美味しい朝食を食べた後、優吾をいつも通り見送ってから、私は久々に家でのんびりしようとゲーム機の前に座って一時間もたったころ、家の電話が静かな室内に鳴り響いた。いつもなら要さんが三回目のコールで必ず取るのだが、今日は要さんが朝食の片づけを終わらせてから本家の用事で出かけてしまっているので、仕方なく私はリビングまで戻り電話に出た。
電話の相手はこれまた珍しく優吾で。
『ごめんね。僕の部屋にA四サイズの茶封筒置いてないかな?』
そう聞かれたので、初めて優吾の部屋に入り彼のデスクに目を向けると、確かに茶封筒が置いてあった。
なので彼にそれを伝えれば。
『困ったなぁ。今日はみんなほかの用事で出てるし、僕もこれから会議で取りに行けないんだよね……』
電話の向こうで困ったような声を出していた。優吾の言うみんなとは、たぶん側近四家のみんなのことだろう。
「届けてほしいの?」
『うん。午後に使うものなんだ。頼まれてくれる?』
ほうほう。
「そうか、そうか。届けてほしいか。じゃあ、お願いします春乃様って言って」
『そういうこと言うんだ。可愛い僕のハニーは愛する僕のために書類を届けてくれるだろ? 持ってきてくれたらいっぱいご褒美あげるよ』
「お前こそ何言ってんのっ!? そこ会社でしょっ!?」
『うん。みんなにニヤニヤされてる』
「ちょっとっ! 今から届けに行く私が恥ずかしいじゃんっ!!」
『因果応報』
そこまで酷いこと言った覚えはないぞ私はっ! ちょっとしたお茶目だろうがっ!
「黙れっ! お寿司!」
『お昼に美味しい海鮮丼食べさせてあげる』
「初めからそう言えばいいものを、仕方ない届けてやるか」
『じゃあ、僕の居る部署までお願いしていい? 受付に話は通しておくから』
「本当にごめんなさい。許してください」
『あはははっ! 恥ずかしがり屋さんだねっ』
「もう本当に、お前、帰ってきたら覚えてろよっ」
『いいよ? 今夜はいっぱい楽しいことしようね』
「アホっ!!」
というわけで、私は一方的に言葉を吐いて力いっぱい受話器を電話に叩きつけて切った。
今夜はいっぱい楽しいことしようね。なんて、私と優吾の間では一緒にゲームしようとか、DVDを見ようとかそんな意味でしかないが、これ、何にも知らない他人が聞いたらいやらしいことを想像されても文句言えない言い回しじゃねぇかっ!
向こうに着いたら絶対に一番高い海鮮丼頼んでやるからなっ!! って、それがはたして優吾に打撃を与えられるのかと考えて、私は無理だろうなとぐったり両肩を落としたのだった。何この悔しさ。
ということで、私は要さんにメールを送った後、軽くシャワーを浴びて着替えすませると時間を確認してから、向こうに昼少し前につけるようにと家を出た。
優吾の務める会社は私たちが初めて出会ったところ、あのカフェオレをぶちまけたところから、歩いて十分くらいとのことにあるらしい。駅から十五分のところだ。
車で行ってもよかったのだけど運転はそれほど得意じゃないし、たまには一人で電車に揺られながらってのも悪くないと思い、私は電車に乗って目的地へ向かった。久々に乗る電車は少しだけ緊張したけど、流れる景色が日の光に照らされて、どこまでも私の視界に鮮明に映し出された。
そう言えば、こうして何もしないでゆっくりと時間を過ごすのも、こうして電車の景色をただ眺めるのも何年ぶりだろうか? 優吾と知り合う前は毎日の仕事に追われて景色に意識を向ける余裕はあまりなかったように思う。たまの息抜きに出かけることはあったけど、基本的に私の趣味がインドアなものばかりだから、どうしても引きこもりがちではあったし、今でもわりと引きこもってる気もするが。
でも本当に私の生活はがらりと変わったなぁ、と改めて思う。優吾と暮らすようになってまずお金の心配をしなくて済むようになったし、家のことは全部要さんがやってくれるからこまごました家のあれこれを心配しなくて済むようになった。そういう意味でも気持ち的に楽になったのは確かだ。おかげで心にゆとりができたのかもしれない。
それに、家で独りでいる時間が減ったのは大きいと思う。誰かがそばに居てくれる生活を送るのは、本当に久しぶりだなぁ。
もしかして、私って今、わりと幸せなのかもしれない……ふと頭にそんな言葉が思い浮かび、私の口元がほんの少しだけ緩んだのを感じた。
そんなとりとめのないことを頭の中で考えながらぼうっと外を見ていた私の耳に、目的地に着いたと電車のアナウンスが聞こえて、私は電車から降りた。
駅を出て時間を確認すればまだ十一時三十分を回ったばかりで、ゆっくり歩いても十分に余裕があるなと、私は優吾の務める会社へと歩みを進める。
この辺に来るのも本当に久しぶりだわぁ。なんて考えながらもう少しで到着するというところで、ふと、やたら女性とすれ違うことに気が付いた。昼時だということを考えても、なんか女性率高くない? と訝しむ私の耳に。
「ねぇ見た? すっごいイケメンっ!」
興奮気味の女の子の声が聞こえて、私は何となしに聞き耳を立てていた。
「見た見たっ! しかもあれ絶対ナショコーの社員でしょ?」
ナショコーって、あー。あれか。サンライトナショナルコーポレーションの略な。優吾の働いてる会社の名前だったきがしたが……あれ?
「誰か待ってるのかな? いいなぁ、私もあんな素敵な人と付き合いた~い!」
「わかる~。今度合コンに呼んでもらっちゃう?」
「いいじゃんそれっ! 私もナショコーで働いてる友達いるし、頼んでみようかなっ!」
君ら元気だね……じゃなくてっ。すれ違う女の子たちが、まあ似たり寄ったりな話をしながら私の横を通り過ぎていく。どうやら私が向かっている方向にイケメンが居るらしい……ああ、もう考えたくない。
嫌々ながらもやっとこさ目的地に到着すれば、広い敷地を囲う低い壁の外側に、様々な制服を着た何人もの女の子たちがひそひそと黄色い悲鳴を上げて、頬を赤く染めながら敷地の中を覗き見ていた。
私もこっそりと女の子たちの間からその敷地内に目を向ければ、案の定というか、想像通りというか、外の休憩所だろうか、綺麗なベンチが並ぶその場所の一つに、ゆったりと腰を下ろしてスマホをいじっている優吾の姿が見えた。休憩所らしく優吾以外の人もちらほら見えているのだが、色素が薄いだとか青いスーツが素敵だとか、足が長いとか、なんか優吾の特徴を話していることから、ここに集まっている十人以上の女の子たちは、間違いなく優吾を見ているのだとやはりうんざりしてしまう。
さすが美の女神に愛された男だよ、今日も無駄にキラキラしやがって。
こんなことなら、恥ずかしさを受け入れて奴の部署まで行った方がましだったかもしれない。とは言うものの、もう到着しちゃったし……なんかさっきから私のスマホも震えてるし……行かないわけにはいかんよなぁ。ってことで、私は観念して会社の敷地に足を踏み入れた。
このあたりでも一、二を争う巨大ビル。見た目の美しさもさることながら、この敷地の広さもさすがの大手企業といえる。それにここで働く社員たちも半分近くが外国人というだけあって、休憩所に居る顔ぶれはグローバル色が大変強い。で、さっきからスマホがうっとうしいんだけど。と、私は自分のスマホを上着のポケットから取り出して確認する。
メールが五件も入っていて、全部が優吾だった。ちなみに最初が『今どこ? 何時ぐらいに着きそう?』で、次が『外の休憩所に居るから』その次が『今、運転中? それとも電車?』で、四件目が『返事ほしーよ』だ。お前はかまってちゃんかっ。
そして最後の一件が『あ、居た』だった。それを見てスマホから顔をあげると、優吾は笑顔で私に手招きをしていた。はいはい。行きますよ。
「てか、最後のメール要る?」
座ってこちらを見上げている優吾に呆れた視線を向けながら、私は一先ず目的である茶封筒を優吾に渡した。優吾は笑顔でそれを受け取ると、立っている私の左手を握る……って、なんで?
「丁度メール画面を開いてたし、春乃も見てたからついでにね。電車で来たの?」
優吾に握られた手をさりげなく剥がそうとするが、がっちり握られて離れないので仕方なくあきらめると、一先ず会話を続けることにした。あーまわりの視線が痛いなぁ。
「たまにはね。いつも車だし」
運転してるのは大体が要さんか運転手さんだがな。
「そっか。でも一人で電車に乗ったって知ったら、要が怒るだろうなぁ」
「嘘だろっ。聖君たちと遊びに行ったときは怒られなかったのにっ」
なんで電車に乗っただけで怒られるのよっ?
「聖たちが一緒だからでしょ? 今日は一人なんだから、もし痴漢に会ったりしたらどうするの? ってことだね」
「あーー。そういう感じ。じゃあ、今日は車で行ったことにしといてよ」
痴漢なら自分で撃退できますけどね。さすがに要さんに怒られるのは嫌だ。明らかに怖いのわかり切ってるじゃん。
「んー、僕と口裏合わせただけじゃねぇ。無理だと思うなぁ」
「なんでっ!?」
「あのね。一人って言っても、完全に一人にするはずないでしょ? 春乃や僕が気付かないところで最低三人以上は護衛で張り付いてるからね?」
「マジでぇ。え? でもそれなら、結局は一人じゃないんだし怒られないんじゃ……」
「要には電車で行くって伝えた?」
「言ってません」
優吾の忘れ物を届けに行ってきます。くらいしかメールに書いてない。
「うん。それじゃあ怒られちゃうね」
「うぅ……」
なぜだ……。
しょぼんと落ち込んでしまう私に、優吾はおかしそうにくすくすと笑うと、その場に立ち上がって私の頭を撫でた。
「僕も先に注意してなかったのが悪かったよ。一緒に怒られてあげるから元気だして、ね? 約束通りおいしい海鮮丼食べさせてあげるから」
「うん……優吾さん大好き」
「はいはい。ちょっとこの書類を受付に預けてくるから待ってて」
「うん」
優吾がビルの方に歩いていく後姿を見送りながら私は休憩所の椅子に腰を下ろした。
一先ず海鮮丼のことは置いといて、私は苦し紛れに要さんにメールをしてみた。内容は『電車で優吾の会社に行きました。優吾と合流して今からお昼を食べに行ってきます』という感じで。
そして要さんからの返事は早かった。
『公共機関の移動方法を取る際は、先にご連絡くいただけますようお願い申し上げます。』
絵文字だとか顔文字だとかを使わない要さんのいつものメールのはずなんだが、なんだか今日はちょっと怖かった。お、怒ってないよね?
優吾の勤める会社から十分ほど歩いた場所に私たちの目的地があった。
ちょっとお高めの料亭っぽい店で、中に入れば出迎えてくれたのは着物姿の年配の女性で、私たちに軽く頭を下げると、さっそく店の奥へと案内してくれた。
それほど長くない廊下を通り、通されたお座敷に入れば室内もまあ綺麗な和室で、窓から小さな庭が見て取れる。庭には椿が植えられているようだったが、季節的には残念ながらまだ花は咲いていなかった。たぶん、季節をきちんと合わせれば、この和室から綺麗な椿の花も見えるんだろうな。
「春乃が来る前にちゃんと予約は入れてあるからすぐ来るよ」
優吾が座布団に腰を下ろしながらそう言うと同時に、和装の女性がお茶を持って室内に現れると。
「失礼いたします。お料理の方もすぐにお持ちいたしますので少々お待ちください」
そう言って軽く会釈して見せると、静かに室内から出て行った。
ほどなくして料理が運ばれてくると、私はその豪華さに思わず拝みたくなる衝動にかられた。さすがに本気で拝みはしないが。
海老やホタテを筆頭に、マグロやハマチ、いくらにウニと、とにかく下のご飯が見えなくなるほどの豪華さで、私は口の端が持ち上がるのを耐えられそうになかった。おまけにお味噌汁はカニが入ってるし。
「いただきまーす!」
私はお箸を取り、さっそくご飯を食べ始める。新鮮な魚介のうまいことといったらっ。なんて、にこにこと箸を進める私に。
「ふふっ。春乃って、本当に魚が好きだよね」
優吾はそう言って楽しそうに笑った。
そりょそうでしょうよ。自分の好きなものを食べてる時が一番の幸せに決まってるじゃないか。
「美味しいじゃん魚」
「美味しいけどね。そう言えば、聖や美影と出かけた時もウナギを食べたって?」
「ウナギのタレってどうしてあんなにご飯と相性がいいのか」
「ああ、それわかる。甘辛いタレが後を引くよねぇ」
そうだろう? と私は優吾に笑って見せる。一瞬、この間のお出かけの話を優吾に振られてドキリとしたが、そう言えば優吾は、西園君のことを美影さんや聖君から聞いているんだろうか?
実のところ、私からは西園君と話したことを優吾に伝えていない。彼に口止めされたわけじゃないけど、西園君の話を優吾に伝えるのは何か違う気がしたのだ。
西園君の悩みは優吾に関することや自分のことなんだろうけど、でもそれは彼自身が考えなくてはいけないことで、私に話したのだって、きっと彼に思うところがあったからだと思うし、私と話したいだけなら電話という手段もあった。まあ、たまたま見かけてつい声をかけてしまったということもあり得るかもしれないけど。
とにかく、西園君のことは、彼本人が優吾に伝えるまで、私の口からは言わない方がいいと判断した。
ただ、美影さんたちに口止めはしてないから、もしかすればそっち経由で優吾が知ってる可能性もある。けど、まあ優吾が私に何も聞いてこないのだから、私から言うつもりはないサラサラない。
「それね。甘辛いってところがミソだよねっ。あーたまには焼き鳥でも食べながら一杯ひっかけに行くかなぁ」
タレという単語でふと焼き鳥を思い出してしまった。普段はあまり飲まないのだが、焼き鳥をつまみにお酒を飲むのは嫌いじゃないのだ。
「発想が年配のサラリーマンみたいだよ。塩を舐めつつ日本酒とか言い出さないでよ?」
「なに言ってるの。日本人なら黙って焼酎だろっ。お湯割り最強だろっ。真冬の熱燗も捨てがたいがっ」
「いやいや、だからなんで好みがちょっとおっさん臭いのっ!?」
「農協割りって言わないだけマシじゃないか」
「なにそれ?」
「マジ? ローカルネタじゃあるまいな? 焼酎と牛乳のことだよ」
「うわっ。なんか、僕はダメかもしれない」
「なんでよ? カルーアミルクとかどうすんの?」
「あ、そう言えば牛乳で割るね。でもあれは甘いから飲めるところもない?」
「それはあると思う。実際、私も焼酎の牛乳割りは飲めない」
前の会社の上司が好きで飲んでいらしたのだよ。私も正直あれはちょっと無理だ。トマトならまだいけなくはなさそうなんだけど、牛乳はなぁ。
カクテル系なら牛乳もトマトも割と普通にいけるんだけど、なんで焼酎になると途端にダメになるんだか、やっぱり味か?
「何だ春乃も嫌いなんじゃないか。でも、春乃ってお酒好きだったっけ?」
「嫌いじゃないけど好んで飲むことは少ないよ」
「うちにも料理酒以外置いてないもんね」
「優吾だって飲んで帰ってきたことまだないじゃん?」
家でも飲まないみたいだし。
「僕も父さんほどお酒は好きじゃないんだよね。必要な行事で以外はあまり口にしないかなぁ」
「雅臣さんってお酒好きなんだ」
「グラス一杯のウイスキーを飲むのが習慣になってるよ」
「雅臣さん、カッコいい……」
「なんで? どの辺がツボだった?」
見た目からして全部だよ。イケメンのハリウッドスターがグラス片手にウイスキーとか飲んじゃってる感じでしょ? カッコいいじゃんかっ!
私のカッコいい発言に、優吾は微妙な顔で「そうかなぁ?」と首をかしげているが、そりゃアンタ、自分の父親だからそう思わないだけだって。
「てか、雅臣さんカッコいいじゃん。奏さんは綺麗だし」
「そう? まあ、同年代の人と比べれば二人ともちょっと若くは見えるかもしれないけど、普通のおじさんとおばさんだよ?」
「息子からすればその感覚だろうけどさ」
お前の両親、かなりの美男美女夫婦だぞ?
「いや、ほら前に世良に会ったでしょ? あいつの親父さんなんて本当にカッコいい人だよ。貫禄がカンストして振り切ってる感じで、ゴッドファーザーとか呼びたくなる」
「むしろヤバくないですかねそれ?」
「本職は違うから。建築関係のお仕事してる人だから」
「息子もマフィアっぽい雰囲気だったけど、遺伝て怖いな」
「世良の場合ジゴロでしょ。実際、金は持ってるくせに女の家によく転がり込んでるし」
「相変わらず皐月さんには厳しいなとは思ったけど、安定のクズっぷりだね」
「僕は改善要求をしてるんだけどね。アイツにハマる女の子たちの気持ちは一生僕には理解できないだろうなぁ」
「しなくていいんじゃないかな」
私だって理解できん。
「ああ、そう言えば話は変わるけど、さっき要からメールが来てたんだけど」
「ん?」
「春乃が帰るときにメールか電話が欲しいって」
「なんで?」
「迎えに来るって」
「なんでっ!?」
「まさか、帰りも一人で電車に乗るつもり?」
そのつもりだったけど、優吾の言い方でそれがまずい選択であることだけは理解した。
いや、帰るまでが遠足だろう? いいじゃないか、電車で帰るくらい。
「ダメですかね?」
「ダメでしょうね」
やっぱり駄目だったかぁ。
「僕と一緒に帰るなら要にそう連絡するけど?」
「それこそ私はどこで待ってろと言うんだよっ。暇すぎて溶けるわっ!」
「使ってない部屋でゲームしてればいいんじゃない? 必要ならゲーム機買ってきてもいいんだし」
「どういう金の使い方だそれっ。びっくりだよっ!」
家に帰ればゲーム機ありますからっ。ゲームやるなら帰ってからやるわよっ。
「そもそも、会社に部外者の私が居るのはおかしいからねっ?」
「大丈夫だよ。僕の実家が親会社なんだから、小さなわがままくらい通るよ。むしろ通すよ」
「やめろばかっ! 職権乱用もいいところだよっ!!」
そんな我がままに付き合わされたら私が恥ずかしすぎて軽く死ねるわボケっ!!
「てか、駒百合っていくつ事業展開してんのさ」
「え? 全部は把握してないなぁ。管理のほとんどが錦玄武家に任せきりだし、詳しい話なら父さんか蛟に……そう言えば、蛟にももう会ったんだよね?」
把握しきれない量ってどんだけ? うん、突っ込まないぞ私は。
「会ったよ。これで側近四家の当主には全員会ったことになるよね」
要さんと美影さんに聖君と蛟さんだ。これで全部だよな? 要さんも昔から駒百合に仕えるのは四家って言ってたはずだし。でも、四神の名前がそろって一つだけ思うところがある……。
「まあ、黄龍家を除いて全部には会ったことになるね」
「くっそうやっぱり居やがったか黄龍っ!」
だと思ったんだよっ! ゲームでも度々四神プラス黄龍っていうボス戦があったりなかったりするんだもんっ。もしかすればって思ってたさっ!
「さすがゲーマーはその辺に強いね。まあちなみに、春乃は黄龍家の人たちにもう会ってるよ」
「え? いつ、どこで?」
「本家でね。本家に勤めるお手伝いさんとか居るでしょ? あの人たち全部が黄龍家の人たちだよ」
「外から雇ってるんじゃないのっ?」
今の今までそういう業者的な場所から派遣してもらってると思ってたっ。
「うちでは外から業者を雇う案件はわりと少ないよ?」
なんて、優吾はおかしそうに笑っていた。本当、駒百合の常識なんて私にわかるわけないわぁ。




