ともだち
今日は日曜日だ。
午前中だけダンスの練習をして、午後は要さんと美影さんがパーティーの準備があるからと練習がやすみになったので、のんびりと家で私はゲームを楽しんでいた。今日は優吾も休みだから、一緒にゲームをやっている。
スーパーな配管工とその弟を操作しつつ楽しんでいれば、急な電話が部屋中に鳴り響き、今回は優吾が電話を取りに行ってすぐ戻ってきた。
どうやら寝室の子機を持ってきたらしい。
私はこれ幸いと、冷蔵庫から飲み物を取り出しつつ、優吾にどれを飲むか一つずつペットボトルを見せると、優吾は炭酸オレンジを選んだ。
私はレモンスカッシュを選んで優吾の隣に戻って腰を下ろし、優吾が選んだジュースを手渡した。
「――聞いてるよ。うん。だから嫌だって言ってるだろう。お前が一番嫌なんだよ――うるさい種馬。どうせパーティーには来るんでしょ? じゃあその時まで顔見せなくていいから――は? ああ、え? 珍しい組み合わせだね。むしろそこにムロが居ることに驚いた」
会話の内容はさっぱりわからないが、私はただひたすらに会話が終わるのを待つしかない――が、いい加減に両手が使えなくてイラついたのか、優吾は子機のオープンボタンを押してフローリングの床に置く。
当然そのとたんに、向こうの会話もこちらに筒抜けである。優吾は気にした風でもなく、ペットボトルのフタを開けてジュースを飲んでいた。
『てかパーティーで会うって言っても、のんびりできるわけじゃねぇだろ』
電話機から聞こえたのは、テノールよりバスよりな男の声だった。
「そうだね。長ったらしい本家のあいさつでしょ、それが終わればダンスして、僕と嫁はお客様へあいさつ回り、その後は軽く食事して、婚約の祝辞をだらだらと上座で聞いてる仕事があるね」
『リアル俺の嫁キターっ! 見たいよ嫁っ! 優ちゃんの嫁はよっ!』
二人目に聞こえてきたのは、バリトンとまではいかないが、やけにいい声だったのだが、言ってることがなんかアウトだ。俺の嫁って単語は注意である。
『なんか、主役も面倒だね』
最後に聞こえてきたのはやや優吾より高めの声で、これってもしかして相手もオープンで通話してねぇか? とも思った。
「祝辞は最初の数名だけにして、あとは軽く流せばいいって言ってるのに、両親がどうしてもっていうから少し長めに時間を取ってるんだよ。今からこれで結婚式とかはどうする気なの? ってこっちが聞きたいよ」
『どうせ俺らだって軽くあいさつ程度で終わるの目に見えてんじゃん。だったら今からちょっとお邪魔させてもらってお前の嫁と親睦深めようぜって話にだな――』
最初に話をしだした男の声がそう言うや否や。
「だから、お前だけは断るって言ってるじゃん。うちの嫁と親睦深めて何しようとしてるわけ?」
『いや、何ってお前、ナニだよ』
「死ねばいいのに」
『右に同じく』
『左に同じく。てか、世良のクズっぷりは異常』
なんて話を聞いていると、だんだん理解できて来た。
多分この世良って言うやつが、前に優吾が話していたクズギャンブラーだ。ってことは、今話しているどっちかがゲーマーの人なのかな?
「この世良っていうのが、前に話したギャンブル好きの女好き。皐月 世良っていうんだけど、忘れていいから」
そう言うと、優吾は突然私に顔を向けてきた。
おうふ。否応なしに会話に入れられる流れですかこれは、そうですか。
『って、何っ!? そこに居んのかよっ!? てか俺の紹介酷くねぇっ!!』
皐月さんが電話口で騒いでいるが。
「十三回刺された話も聞きました」
てことで、今さら隠しても私はすでに知ってるぜと主張してみる。
『そこまで言うなよっ!!』
一応、汚点ではあると認識している模様。だかお前のクズっぷりはすでに認識した。
「それから、ムロ」
優吾がそう言うと、今度は優吾より声が高めの彼が。
『あ、うん。氷室 優那です。男です』
そう言って自己紹介してくれる。と言うか、名前。優那って、女みたいだなぁ。多分字面見ただけだったら女と思うかもしれない。
きっと本人もそれで自己紹介に男ですとか付け加えているのかな。
「このムロが、前に話したハーレムゲームが好きなやつだよ」
『そ、そう言う紹介のされかたされてたんだ、俺』
やっぱりゲーマーな友人も混ざっていたらしい。
「いや、私もゲーム好きなので、気が合いそうかなとは思いました」
いつか君とは個人的にも仲良くなりたいなぁ、という希望も込めた私の一言に。
『そうなんですか? じゃあゲームの話とかできそうですね』
氷室さんは少し明るい声で、そう答えてくれた。うん。なんか彼とはうまくやれそうな気がする。
そして。
「最後はただのアニオタ」
ただ一人、前情報のなかった最後の人を優吾は適当に紹介してくれる。
てか、適当すぎだろ、お前。
『うおいっ! アニオタ舐めんなっ! 伊集院 稀人でっす! ゲーマーならアニメも好きなはずっ! むしろ『ロボット戦隊ライダーマン』知ってますかっ!!』
「え。まあ、知ってますけど」
いきなり伊集院さんに聞かれてちょっと驚いた。ロボット戦隊ライダーマンと言えば、コアなアニメファンが多く居る戦隊もののアニメだ。
戦隊ものなので、色で言えば赤と青と黄色とピンクと黒の五人が主人公であり、その中でも私はダークロボブラックという、全身で黒をアピールしまくってるヒーローが好きだった。
ダークって言ってんのにブラックと言う名前が付き、ヒーローだっていうのに闇と言う名前が付けられた彼。で、性格はクールに見せかけた寂しがりや、おまけにツンデレ属性持ちと言うところがツボすぎた。だってかまってちゃんのツンデレって、どうしたいんだお前、という感じじゃん?
まあとにかく、ツッコミどころ満載の面白いって言えば面白い、そこそこ人気があるアニメだったという認識程度で大丈夫。
『シャー! キター! 女子友ゲットの予感っ!!』
明るい人だな伊集院さんって。
「ていうか、何そのタイトルのアニメ。え、ていうかアニメ? 特撮? 戦隊もの? 巨大ロボットもの?」
と優吾に聞かれたので。
「アニメだよ。DVDあるからあとで見る?」
『同志と呼んでいいですかーっ!!』
伊集院さんのテンションがヤバイことになっていたが、ひとまず落ち着いた辺りで会話が再開する。
「――それで、本気で来るの? ここに」
そう言って微妙に目の座った優吾が口をとがらせつつそう聞けば、向こうから皐月さんが元気よく返事をした。
『俺らガキの時から友達だよなぁ?』
「お前が人様の恋人や嫁に手を出さなくなったら友達として認めてあげるよ」
『俺ってそれ以前の存在っ!?』
まあ、優吾の反応もしかたないよなぁ。だってクズだもん。さすがに声に出しては言わないが。
「来たいなら来てもいいけどさ、嫁にお土産もってきて」
なんて、優吾はほぼ興味が失せたようにゲームのコントローラーを弄り始めた。さすがに私もそろそろゲームを再開したいんだが、もうちょっと友人に興味持ってやれよ。
「いや別に、私お土産とかいらないけど」
『じゃあケーキ買っていくよ。お嫁さんはケーキ好き?』
そう聞いてきたのは氷室さんだった。
「あ、はい。ケーキは好きですけど、でも本当にお土産とかいいですよ、お気遣いなく」
「うん。ムロがケーキ買ってきてくれるなら、他二人は別のにして」
「って、おいっ。三人でお土産一個で十分だろうがっ」
びっくりしたわっ。何を普通に一人一個計算でお土産せびってるのうちの婚約者っ。
『あー、気にしないでいいよ同志。優ちゃんって、それでデフォルトだから』
「嘘だろ……」
『いや、マジ。一人お土産一個計算なら安いほう』
そう言って電話の向こうで乾いた笑いを響かせる伊集院さんの言葉に、私は思わず優吾の顔を見じっと見てしまう。
私の視線に気が付いた優吾は、私に視線を合わせて不思議そうな顔で首をかしげて見せた。
「ん? だって当たり前でしょ? 狛百合家次期当主の妻をお披露目以前に見たいっていうなら、それ相応の『礼儀』ってものが必要じゃない?」
「狛百合の常識なんぞゴミ箱に捨ててしまえっ!」
普通ってなに? どっからどこまでが常識? 私は思わず自分の頭を両手で抱え込んでしまった。
一種の珍獣扱いじゃねぇか、とも思う。
それから一時間後、本当に一人一個のお土産を持って優吾の友人たちが現れた。
一先ず優吾の友人三人をリビングに通して、私はお茶の準備をするために一度キッチンへと向かう。
リビングに人数分のお茶を出し、お土産にいただいたケーキ――特大チョコレートケーキがホールって――を人数分切り分けで、リビングで待つヤロー共へと運んだ。
私がやっと落ち着いて優吾の隣に腰を下ろすと、私と逆隣の優吾の横に腰を下ろしていた氷室さんが。
「そう言えば、お嫁さんの名前、まだ聞いてないよね」
と言った。
そういや言ってねぇな、とカップに口をつけていた私の代わりに優吾が口を開く。
「春乃だよ。苗字はすぐに僕と同じになるから旧姓はどうでもいいよね」
「どうでもはよくないだろ、それ」
そう言って、呆れた顔を見せる皐月さんに、私と伊集院さんも同意して頷いたが、優吾はどことなく面白くなさそうに息を吐き出して見せる。
「だって、世良に細かい情報教えるの嫌なんだもん」
「俺限定かよっ」
「それはしょうがないよな。世良ってクズいし」
しょうがないと納得しつつ、伊集院さんが自分の前にあるケーキを一口、ゆっくり味わうように食べる。
私たちの席順は中央の大きなソファーに、私、優吾、氷室さんの順番で座り、一人掛けのソファーに、伊集院さんと皐月さんが座っている。ちなみに私の居るほうに伊集院さんが居る。優吾は席順さへも皐月さんを私から遠ざけたいらしい。
だがまあ、皐月世良と言う人物は、確かに文句なくイケメンだった。
切れ長の瞳に、高い鼻、ほど良い厚みの唇。真っ直ぐな青黒い髪を後ろで一本に縛っていて、身長は要さんと同じくらいか、もしかしたら少しこっちのほうが高いかもしれない。
ほど良く体も引き締まっていて、アホほど良い生地の白いスーツがよく似合う。ホストなんて軽いノリじゃなく、マフィアっぽいマジもんの色気と貫禄は圧巻だ。
見るからに危険な香りむんむんと振りまいていて、これでは確かに、何も知らない初心なお嬢様は引っかかったら最悪だろうな、と思う。
簡単に言うと、ラテン系の血でも入ってるんですか? と問いたくなるような、とんでもなく妖艶な男である。
優吾と並ぶとまるで正反対なので、この人たちが友だちと聞かされても、どうやって知り合ったか謎なくらいの違和感を覚えるな。
これでクズって……。
「見たままの危険物が野放しな状態かぁ」
思わずそうつぶやく私に。
「まさにそれなっ」
と伊集院さんがけらけら笑う。
「春乃ちゃんもヒデェ」
そう言って、皐月さんは苦笑い気味に紅茶を飲むが、その仕草さへ色気があるのだから、私の評価も間違いではないと思うけどな。
「言っとくけど、春乃が一番年上だからね。敬ってくれる」
「それ優吾のセリフじゃないわよね」
私のセリフだよね。
「年上かぁ。やっぱり同い年とか年下よりいい?」
そう優吾へ顔を向けて聞く氷室さんに、優吾は少し考えるようなしぐさを見せる。
「どうかな、僕は年齢や性別ってあんまり気にしたことないからなぁ」
「ですよね」
そう苦笑いを見せる氷室さんに、他二人も乾いた笑いを顔に浮かべていた。
優吾の性癖というか、男女問わず好きになったら付き合うっていうスタンスは、この友人たちにも知られているところなのだろう。
そう言う意味では、この人たちと仲はいいんだろうなと思えた。
だがしみじみ思う。氷室さんにしても、伊集院さんにしてもやはりイケメンである。
氷室さんは大人しそうで、おまけに色白で小動物っぽい感じ。
目が大きくて、鼻はちょっと低めだが、少し厚みのある唇がなんとも愛らしいというか。一見高校生にも見えなくない外見は、童顔というには可愛らしすぎるというか。うーむ。
それこそ、彼がゲイです、と言われたら信じてしまいそうな見た目である。
逆に伊集院さんは電話で受けた印象どおり明るい感じで、少し釣り目で笑顔がすこぶるさわやかな好青年という印象だった。でも同じ好青年な印象を受ける優吾とも正反対だ。
例えるなら、優吾は勉強のできる知的な生徒会長タイプだろうけど、伊集院さんはバスケとかサッカーとかしてそうな好青年タイプかなと思う。
伊集院さんの見た目からはアニオタとは想像できんな。
でもアホほど顔の造りがいいのはこの場に居る男ども共通だな。みんなタイプが違うから、誰が一番とかないけど。
「年上ってのはベッドの上で一緒に楽しんでくれるお姉さまってことだろ。で? もう春乃ちゃんとは楽しんでるわけ、お前」
そうニヤリとやらしい笑みを見せる皐月さんに、私は思わずカップを投げつけたくなったが、何とか踏みとどまる。
偉いぞ私、なんて内心で自分を褒める私だが、そんな私のイラツキよりも。
「なんで嫁との営みをお前に報告しなきゃいけないの? やってようといまいと、お前には絶対に教えない」
そう言ってブリザートを振りまく優吾の凍れる笑みが皐月さんを襲う。てか優吾怖ぇよ!
「いや、うん。別に細かく説明してほしいわけじゃないから、落ち着け優吾」
「想像されることさえ不快だからお前は春乃を視界に入れるな鬱陶しい」
優吾の笑みがだんだん消えてきたと思えば、最終的には両目を見開いて、無表情の優吾が皐月さんをガン見していた。声のトーンまで氷点下にいっきに落ちたように冷たい。
優吾がこんな表情や声を出すことにも驚くが。
「ハイすみませんっ。もう余計なことは言いませんっ」
そう言って少し青い顔で謝る皐月さんに、私はちょっと苦笑いだ。あんたはあんたでどんだけ優吾に弱いんだよ。
「優ちゃんって、怒らせると怖いからなぁ」
そう言って、私の隣でお茶をすする伊集院さんが困ったように笑う。
「そうなんですか」
「うん、めっちゃ怖い」
「へぇ。私は怒られたことないから知らなかったです」
でも、普段優しい人が怒ると怖いってのはセオリーかもしれない、なんてお茶をすする私に、伊集院さんが続けて口を開く。
「まぁ普段は滅多なことじゃ怒らないよ。そう言う意味では一番優しいのが優ちゃんで間違いないだろうけど、世良の場合はちょっとやらかしてるから」
「何やらかしたんですか?」
「いやね。実は世良のクズっぷりは優ちゃんとか俺らに変な女がくっつくのが嫌ってところか始まってるみたいなんだけど、そのせいで高校時代に優ちゃんの彼女が世良に寝とられたことがあって、それ以来こういう感じ」
「あー、なんかそれは」
「自業自得っしょ? 俺らもさ、実家がそれなりに名前を知られてて、おまけに金もあるじゃん。だから、女慣れしてない俺らを心配してるってのはわかるんだけどさぁ」
伊集院さんがそう言って苦笑いを見せる。
確かに伊集院さんが言うように、皐月さんってきっと友達思いなんだろうが、その方向性が屈折しまくってるのが問題としか言えない。やってることが無茶苦茶だ。
おまけに、それが今でも趣味として残っているなんて尚たちが悪い。
「優ちゃんも世良のそう言うところ分かってるから、今でも友人って言ってくれるんだと思うけどさ」
「そりゃそうでしょうね」
私が最初に前情報をもらった時だって、優吾は『友人』と言っていたし。
「まあ、こんな癖の強い俺らだけど、優ちゃん共々仲良くしてやってよ」
そう言って笑う伊集院さんに。
「こちらこそよろしく。まあ、私はわりとボッチだから友達とか紹介できないけどね」
私はそう言って笑い返した。
「えっ! 春ちゃんボッチなのっ!? 優那と一緒じゃんっ!」
そう言って大きな声を上げる伊集院さんに、一番反応したのは呼ばれた氷室さんで。
「ちょ、俺にだって友達いるしっ! 優吾も稀人も世良も俺の友達だよねっ!?」
そう慌てて伊集院さんへと身を乗り出すように聞き返す氷室さんを、三人は同じように、同じ方向へ顔をそらして。
「多分なっ! 俺たち友だちだよ……多分」
「大丈夫だよムロ。僕は君を見捨てたりしないから」
「俺もお前のこと好きだぜ」
なんて、伊集院さん、優吾、皐月さんが口々に言う。
「ちょっと! なんで顔逸らすのっ!! 酷いよっ!!」
氷室さんが若干半泣きで訴える。
そんな彼に、三人は小さく忍び笑いを繰り返し、冗談だと楽しそうに顔を上げて笑った。
そんな彼らを横目に、私もケーキへとフォークを伸ばす。
なんだかんだ言って、お前ら仲いいな。なんて、私はこっそり笑った。
ちなみに、皐月さんと伊集院さんからも勿論お土産をもらった。
皐月さんからは焼き菓子の詰め合わせと、伊集院さんから羊羹や最中など和菓子の詰め合わせだ。
閑話的な。




