君なりの弔いを。
今俺は、家の庭で、死体を前にして、首を捻っている。
ペットのハムスターが死んだ。そこそこに世話をしていて、中々に生きた大往生だった。俺はそれなりに悲しかったけど、まぁ、そういうものだと思った。
しかし困ったのは死体の処遇である。葬儀――それもペットの葬儀――の方法なんぞ知らないし、だからといって適当にやったらそれはそれで祟りのようなものがある気がする。ひとまず土葬か火葬かと思っているが、はたしてただ埋めたり焼いたりするだけでいいものだろうか?
うんうんと唸っていると、門の前からひょっこりと知った顔が現れた。
「……君は、なにやってるんだい? 難しい顔して唸るなんて珍しい」
隣の家の次女である。近所付き合いの盛んな俺の両親と隣の家の両親は仲がよく、こいつとは子供のころからよく遊んでいた。いわゆる幼馴染という奴である。ロングスカート姿の制服は未だに違和感を覚えるが、まあ、仕方がない。似合わないわけじゃないしな。
おっと、それはさておき。
「あぁ……いや、な。くまのすけが死んじまったから、どうやって弔ってやろうと思って」
俺は事情を説明した。朝起きたら冷たくなっていたということ、妹が泣きはらしていること、弔いの仕方に悩んでいること。
「君んちのキンクマか。そっか……死んじゃったんだ」
「ああ。まあ年だったしな。どうすりゃあ良いと思う?」
「うーん……」
事情を聞いた幼馴染は、俺と同じような顔でうなり始める。まぁ、そうなるよなぁ。素人じゃなくてプロに任せたほうがいいだろうか? ペット供養というのもあると聞く。いやしかし、それまでの死体の処遇にも困るし……
ぐるぐると頭を回転させていると、隣で唸っていた幼馴染が口を開いた。
「……やり方は、いいんじゃないかな。正しくなくても」
名案だというように薄く笑う幼馴染。と、言われても、俺はまったくピンとこない。怪訝な顔をして問い返す。
「それは一体どういうことだ?」
「つまりね、心を込めて弔ってやれば、きっと伝わるってことだよ」
「あぁ……そっか」
にっこり笑っていう幼馴染。まぁ、確かに腑に落ちた。そうだな。何も形式にこだわることは無いのかもしれない。結局のところ、『死んだ何かを慰める』、『死んだものを思う』ことが大事で、そのための儀式なのだから。
「……なら、まあ、埋めてやるか。手でも合わせて祈ってやればいいだろう」
「ん、そうだね。それでいいと思うよ。」
幼馴染と共に、庭の木の下、穴を掘って埋めてやる。古典的だが、そこに名前を書いた板を刺して、墓標としてやる。……三年と六ヶ月か。長いようで短かったな。手を合わせ、目を瞑りながら、くまのすけの冥福を祈った。
しばらくすると、目を開けた幼馴染が、声をかけてくる。
「……ねぇ。僕が死んだ時も、そうやって祈ってくれるかい?」
至極真面目な顔をしている。が、俺は知っている。大体において、そういう顔をしているこいつは、軽い冗句を口にしている。
……だが、今回の冗句はあまり気分のいいものじゃあないな。
「やめろ、縁起でもない。……行くぞ、遅刻だ」
「あれ、怒ってる? ……いや、遅刻なのは君んちの……あ、ちょっと!」
すたすたと家の門を潜り歩き出す俺。ぱたぱたとせわしなく幼馴染は俺についてくる。
本当、縁起でもない。お前の居ない日常なんて考えられるかよ。『まぁ、そういうものか』じゃ済まないぞ。
まだ文句があるようで、俺に対して言葉を浴びせかける幼馴染の頭を撫でる。顔を真っ赤にして硬直する幼馴染を横目に、俺は急ぎもせずに学校へ向かった。
まぁもしもどちらかが死んだら、俺は俺なりの、あいつはあいつなりの弔いをすれば、きっとどちらも満足なんだろう、と考えながら。
お題「素人の弔い」/15+20m
もちろん、儀礼的なものがあるに越したことはないけれど、たとえ手順も何もなくても、自分の中で区切りをつけられるのなら、それは葬儀と言えるのではないだろうか。