※尊き君へ。
※ → スプラッター表現
君の死んだ日は、なるたけ粛々と過ごそうと思っていた。けれどやっぱり我慢はできなくて、だからこの部屋は、どす黒い赤に染まっている。
「ふ、く、ふふふ……」
ザシュ、ザシュ、と、鈍く響く音。生暖かい液体が頬に飛んできて、思わず笑みを浮かべる。目の前には、一人の女。もう何もない腕と、唇から漏れでた血液。腸はその身体にしまわれているのにうんざりしたようで、切れ目からどろどろと流れ出ている。いい気味だ。
「あぁ……ごめんよ。拗ねないでくれ。これも君のためを想って……」
今日は、大切な君が死んだ日だから、何もせず、君のことだけを考えようと思っていた。
君。大切な君。誰かに追いつめられて、そして病んでいった君。君が思い悩んで首に縄を掛けるまで、僕は悩んでいたことさえ知らなかった。ぶら下がる君の姿と、足元に置かれた遺書を見て初めて知った。
警察の事情聴取で、社内いじめだかストーカー被害だか嫌がらせだか、そんなような断片的な言葉を聞いた気がする。
あぁ、君よ。君の笑顔は素敵だった。見るだけでこちらも笑顔になってしまうような、花がさくような、太陽のような笑顔だったね。
その笑顔を見れなくした奴らを、僕は絶対に許さないと、そう決めた。
恍惚とした過去の追憶から戻ってきて、ぎろりと、芋虫のように這いつくばる男と、もう原型を留めていない女を見下ろす。どうやら死んだ女の血が男にも飛んだようで、所々に血痕をつけながら、必死に藻掻いている。
「バカだなあ。外れるようなもの使うわけないのに」
ゆらりと男に寄って、ためらいなく肩に包丁を突き刺す。くぐもった声が聞こえて、耳が腐るかと思った。まったく、逃げようなんて、虫のいい話だ。
「そもそもさぁ。なんで彼女は死んだのに、お前らが殺したのに、まだお前らは生きようとするのかなぁ」
涙を浮かべ縋るような目つきをする男。その目はさっきも見た。四肢を拘束しているのだからどうやったって逃げられるわけがない。そして、僕はお前らを許さない。苦しんで苦しんで、苦しみ抜いて死ねばいい。
「そうだ……そうだよ。責任とって、死ねよ」
突き刺さった包丁を抜いて、もう一度突き刺す。今度は足だ。なるべく長く苦しむように、動脈は外す。君が遺したものだから、本当はこの包丁だって使いたくない。君のもので殺さないと意味が無いと、そう決めたのは僕だけど、思い出が穢れてしまう気がしてシャクだ。突き刺した包丁をねじり込む。
あぁ、君よ。見てるかい? ごめんね、遅くなって。君を苦しめる奴らは全部、僕が殺してやるからね。
僕らを邪魔した女と、君に纏わり付いていた男は殺したから、次は誰かな。教えてくれたら殺してあげるよ。ねぇ、君よ。
ストーカーは、そう心の中で呟いて、彼女の親友と恋人を殺した。
お題「汚れた命日」15+20m
愛とは主観的なものである。