死神のいざない。
病室の窓。ひどく冷える外気。色んな物が少しずつ消えてくこの季節は、相も変わらず平等に、全てに死の足音を運んでいるみたいだ。通りすぎてゆく死神に、カーテンがふわりと揺れた。
わたしは、ニ年前からこの病室から出れなくなった。病名はなかった。原因もわからない。ただひとつだけはっきりしていることは、外から聞こえるはしゃいだ声のように、わたしは走り回れないということ。
くるりと自分のいるこの白い檻を見渡す。何もない殺風景な部屋。あるのは一つの色だけ。『特別管理病棟』なんて大層な名前が付いている建物だから、当然、ここは個室である。
もう見舞いにくる人もいなくなった。元々友達は少なかったが、ここに入ってからゼロになった。父も母も、大丈夫と励ましてくれた兄でさえ、わたしが少しずつ弱っていく姿に耐え切れなくなったらしい。
その一因にはきっと、わたしの症状が関係しているのだろう。
担当医が便宜的につけた名称は、『突発性幻痛症』。読んで字のごとく、突発的に耐え切れないほどの痛みがわたしの胸を襲う。身体も心も不都合はないのにもかかわらず、だ。
痛みは少しずつひどくなり、“このまま進めば、少しずつ心身が弱っていき、苦痛の中でショック死する”と医師が予想していた。わたしもそのとおりだと思う。現に、すでにわたしは、生きることを諦めたほうが楽なぐらいの幻痛に胸を締め付けられているのだ。きっと、次に味わう苦痛が、最後だろうと、前もこの前も思った。
あぁ、はしゃいだ声が聞こえる。白いシーツをぎゅうと握って、力が入らず手を放した。もう戻らない日々を空に見て、何を考えるわけでもなくぼんやりと眺める。
ごほ、ごほ。
……もう、白以外の色は、コレぐらいしか見れないな。
手のひらに吐いた血を眺めて、やっぱり、わたしはもう長くないのだろうな、と、自嘲気味に笑った。
お題「苦しみの身体」/15m
ただ『痛い』『苦しい』というそれだけのことで、人は死ぬんだと思う。