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女顔の僕は異世界でがんばる  作者: ひつき
第四章 恨みを抱く少女
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 夜に町の外で、解呪祝いのパーティーをすることになった。


 パーティーとはいえ、ただのバーベキューだけれど、せっかくなのでマルコやカリファも呼んだ。


 ハンナさんは昼間の分の仕事を終えなければならないとのこと。

 今ギルドは先の事件やギルド長の交代など、いろいろと忙しいらしい。


 錬金術で巨大な金網を、そしてノームの力で土台を造れば、即席のバーベキューセットの出来上がりだ。

 火魔法で着火し、あとは食料をぶちまけるだけ。


 リュカ姉が肉の入った袋を持ち上げる。


「おりゃあっ! いっくぞ――!!」

「ちょっと牛乳うしちち!! それじゃせっかくのお肉が玉になっちゃうじゃない!!」


 高級な肉を割り勘で買ったのだ。

 カリファが声を上げるのも当然と言えた。


「どんどん焼け! 俺の指示に従って焼け!」

「ちょっとマルコまで……もう」


 食い物、特に肉の前では周りが見えなくなる男、もとい狼。

 飢えた獣には何を言っても無駄と、カリファはあきらめたようにため息をついて、こちらにやってきた。


 年下組の僕とワユンとヨナは丸いテーブルに座って、ワイングラスに注がれたジュースを飲んでいる。

 そこに給仕係のリタさんからルービーを受け取ったカリファが腰を下ろす。


「しっかしホント、この子は絵になるわね~」


 カリファは、ワイングラスを傾けるヨナを見てつぶやいた。

 話は二人に何度かしてあったとはいえ、なんだかんだ初対面の彼女たちだけど、軽く自己紹介しただけで普通に接することができている。


 カリファは言うまでもないけど、ヨナもコミュ力が低いわけじゃないからな。

 人当たりもいいし。


「そんなことないですよ。カリファさんも絵になってます」

「それ、あんまうれしくないわね……」


 大ジョッキ片手にルービーを煽っていたカリファは苦笑いをする。


「ふふっ、冗談ですよ」

「まったく、生意気」


 背筋をしゃんと伸ばしてジュースを飲むヨナは、どこかの貴族のご令嬢のようだ。

 前々から思っていたけど、やっぱしっかりとした教育を受けていたのだろう。


 でも今日のヨナは、いつもよりテンションが高くて、少し子供っぽい。

 いや、呪いやら病気やらがなければ、もともとこうなのかもしれないな。


 さてと。

 僕は意地悪く口角を上げて、カリファを見る。


「まぁ紅茶とかよりは、今みたいにルービーがぶ飲みしてるほうがはるかに似合ってますけどねー」

「ちょっと、どういう意味よそれ?」

「ちょ、ちょっとオーワさん」


 カリファを責められる機会もそうはないので、ここはヨナに加勢する。

 カリファのジト目に、なぜかワユンがアワアワと動揺してしまう。


 ヨナと視線を交わす。


「かっこいい女性って意味ですよね、オーワさん?」

「そうそう、カリファはかっこいいからさ」

「……なんか釈然としないわね」

「あわわ……」


 カリファのジト目はなかなか迫力があるが、ヨナといれば特に危害を加えられることもないだろう。

 ただ一人右往左往するワユンは少し気の毒だけど。


「にく~にく~ミノのにく~。ベロに肩に腹の肉~」

「おいリュカ! 焼き過ぎだ! そっちさっさとひっくり返せ!」

「うるさいなぁ~どこのお大臣様だお前は~」


 リュカとマルコが喧嘩しだすと、カリファの視線はそちらへ向かう。


 ちなみにお大臣様ってのは、たぶん日本で言う奉行のことだと思う。

 肉奉行が、こっちでは肉大臣なんだろう。

 こういうマイナーチェンジはたまにみられる。


 それにしてもわかりやすすぎるだろ、カリファ。

 僕は思わずにやけてしまう。


「なによ」

「いえ。カリファは焼きもちやきだなぁと思いまして」

「なっ」


 途端に赤面するところは、正直かわいい。

 ヨナも小さくクスリと笑う。


 ワユンは首をかしげている。

 普段は鋭いはずなのに、恋愛ごとに関してからきしなのは、経験の少なさによるものだろう。

 ヨナは頭がいいからな、経験とかはあまり関係ないのかもしれない。


 僕?

 経験はなくとも、片思い&ふられる&人間観察、のなせる業ですよ。

 なんなら告白してもいないのにふられるとかいうレアな体験だってしてるし。

 さらには告る気のない相手にすら……まぁいいや。


「べ、別に気にやきもちなんてしてないわよ! 私はあんたたちガキとは違って、オ・ト・ナ・の女、なんだから」

「はいはい、そうですね」

「ちょっと――」

「おいっ!! それはまだ早いっ!!」

「わわっ」


 カリファが声を上げるが、それはマルコの怒声にかき消された。

 どうやらリュカ姉が別の肉たちを投下しようとしていたらしく、その手をマルコが抑えている。


 当然、カリファの視線はそちらへ流れていた。

 

「ぷっ」「くすっ」


 僕とヨナが同時に噴き出す。


「――っ! ……はぁ」


 赤くなったカリファはため息をついて、僕とヨナを交互に見やった。


「あんたたち、ホントよく似てるわ。よく見れば見た目も何となく似てないこともないし。実は兄弟とかじゃないの?」

「いや、それはないですよ」


 だって僕はこの世界の人間じゃないし。


「それに、そんな似てないでしょう?」

 

 ヨナは赤目で銀髪だし、何よりコミュ障じゃない。

 それに僕はこんなに美形じゃない。


 似てるとか、そんなのヨナに失礼だろ。


「似てるだなんて、オーワさんに失礼ですよ」

「いやヨナ、それは僕のセリフ」

「やっぱ似てる。あんたもそう思うでしょ?」


 カリファがワユンにふると、ジュースを飲みながらワユンはこくこくと頷く。


「それみなさい。なにより生意気なとこがクリソツよ。一度調べてみた方がいんじゃない?」

「はいはい」


 適当に返事をしつつちらと金網のほうを見やる。

 そろそろ腹も限界に近いのだ。


 リュカ姉はしきりに金網の上の肉をペラペラとめくっていた。


「そろそろかなぁ~」

「まだだ! 勝手にひっくり返すんじゃない!」

「えいやっ」

「おいっ! ……ったく」


 適当なリュカ姉と、やたら肉に厳しいマルコだ。


「そろそろベキャツ切っとくか。おいリュカ、ここは俺が見とくから切ってこい」

「うぇー、めんどいー。私が見てるからマルコが切ってよー」

「てめぇになんか任せられるか」

「えー? 肉なんて誰が焼いたって同じじゃーん?」

「だからダメなんだお前は! いいか、一番詳しい奴が焼けば一番旨くなんだよ! 適当に焼くとか肉への冒涜だ!」


 さすが狼。

 もはやこだわり通り越して卑しさすら感じる。


 見かねたリタさんが、あらかじめ用意していたらしいベキャツを運んでいく。

 さすがに元貴族の奴隷だけあって、優秀だ。


「どうぞ」

「おぉ、気が利くじゃねぇか。どっかの脳筋とは違っていい嫁さんになるぜ?」

「ありがとうございます」


 マルコのナンパを右から左へ流すリタさん、マジクール系。

 てか、あんな風に流されてもショック受けないとか、打たれ強すぎるだろマルコ。

 僕なら余裕で一週間引きこもれる。


 聞き耳を立てていたらしいカリファが大きくため息をついた。

 マルコがこちらへ声をかけてくる。


「おい野郎ども!」

「しゅ・く・じょ(淑女)!!」


 珍しくマルコにカリファが噛みつく。


「あぁ、淑女だ? まぁいい、肉が焼けたぞ! 座ってないでさっさと取り来い!」


 号令と同時に立ち上がる僕とワユン。

 対してゆったりとした動きのカリファとヨナを見て、ワユンはちょっと顔を赤くした。 




 肉は高級なだけあって、しっかり脂がのっていて旨い。

 ちなみに、この世界にも家畜というものは存在する。

 そして、たぶん日本ほどじゃないにしろ、おいしくなる育て方を経験的に知っているようだ。


 リスのように頬張るワユンの皿に、リュカ姉が肉を投下していく。


「おいひぃです~」

「ははっ、たくさんあるからどんどん食べなー」

「いいか、その皿の肉は全部食っていい。肉肉野菜、肉肉野菜の順で食え! おいコラお前、肉を食え肉!」

「え、えっと……」


 荒ぶる肉大臣に、さすがに少し物怖じするヨナ。


「マルコ、ヨナを怖がらせないでください」

「そーだぞマルコ! 女の敵ー」


 リュカ姉が即座に追撃を加える。


「これは親切だ。というかお前らはもっと野菜を食え!」


 言い争っていると、カリファが加わってきた。


「この肉油っぽすぎるのよ。もっとさっぱりしたのじゃないとキツイわ、ねぇヨナ」  

「そうですね、さすがに肉肉野菜、はちょっと」

「軟弱者どもが。あれを見習え」


 指さす方には、無心に肉肉野菜の順で口に放り込んでいくワユンの姿。

 なおこちらには気づかない。

 

「おう、わんころ。いい食いっぷりじゃねえか」

「(はぐはぐはぐ……)……っ!!」


 リスのようにほおばったまま、こちらを向いて真っ赤になった。


「のどに詰まらせないようにね。まだたくさんあるし、ゆっくり食べな」


 言いながらワユンのほうへ移動し、僕も肉を口へ運んでいく。


「次はもっとさっぱりしたの焼かない?」

「これとかどうでしょうか?」


 カリファとヨナは一緒になって次の肉を投下し始めた。


「おい、一旦金網をだな……」

「あーはいはい大丈夫だから、マルコも食べたら?」 

「てめっ……まぁいい」


 カリファはあしらい方を心得ているな。

 


 

 食べながら一通り焼き終え、皿に移してテーブルを囲んだ。

 肉を食らうペースもゆっくりになり、飲み物を飲みながら会話も弾む。


 リュカ姉がジョッキをダンッと勢いよくテーブルにたたきつけ、口を開く。


「次のギルド長誰になるかなぁ~」

「リュカ姉、叩きつける意味あった?」

「オーワ、指摘しても無駄。

 そうね、まぁあのデブに比べたら、誰だってマシじゃない?」


 リュカ姉とカリファのだらだらしたやり取りに、ワユンが不思議そうに口を開く。


「ギルド長が変わると何か起きるのですか?」

「そうだなぁ~。ワユンちゃんたちは特に何もないかもしれないけど、リュカ姉たちは、特別任務とか少しは減るのかな~」

「あと、たまにある任務失敗に対するお小言が少なくなるわね」


 カリファが嫌なものを思い出すように言うと、ワユンは首を傾げた。


「おこごと? 失敗すると怒られちゃうんですか?」

「主に女の冒険者がね。あいつ、絶対無理難題吹っかけて、私たちと二人きりになろうって腹積もりだったのよ。ハンナがいなかったら、体とか要求してきそうじゃない?」

「いや~、さすがにそれはないんじゃね?」

「いーや、あるわ! だってあいつ、いっつも私の足とかあんたの乳とか凝視してるもの」

「うへぇ」


 カリファの言葉に、さすがのリュカ姉も気味が悪いとばかりに舌を出す。


 あのギルド長、そんなことまでしてたのか。

 そりゃ評判悪いわけだ。

 けど、『見られたくないならそんな服着るなよ。 バカなのか?』なんて反論は、できないよなぁ。

 女っておかしな生き物だ。


「見られたくねえなら、んな服着てんじゃねえよ。まぁあのデブはいつか殺してやるがな」


 さらりとぶっこみやがったよ。

 さすがマルコ、怖いもの知らずだな。


 カリファが分かりやすく呆れたような表情になる。


「ホントわかってないわね、マルコは」

「あん? どういうことだよ」

「なんでもないわ。

 そういえばオーワ、あんたどっちのカレシなの?」

「ぶふっ!!」


 急激な話題転換に、ワユンがジュースを噴出した。

 僕は固まり、ヨナは特に衝撃を受けた様子もなく平然とジュースを傾ける。

 

「ま、まだ付き合ってないですよ!」

「はぁ? こんな美少女二人も侍らせておいて、あんたおかしいんじゃないの? それとも、二人とも手込めにでもする気?」

「ちょっ!! なんてことを……」

「手込め?」


 ワユンはまたも首をかしげる。

 いつかその細い首が折れちゃうんじゃないか、なんてアホな心配が浮かんだ。


 というかワユン、あんな環境にいてそんな言葉も知らないのか?

 いや、あんな環境だから、言葉を知らないのか?

 貴族がそんな言葉使うとは思えないものな。


 ……ルーヘンなら使っててもおかしくないけど。


 ヨナのほうは知っているらしく、どうしようか戸惑っているようだ。

 カリファもしまったといった表情をしている。


 純真な目で、ワユンがカリファを見上げる。


「手込めってなんですか?」

「えーと……」


 こっち見んな、カリファ。

 ワユンも、その視線につられるようにこっちを見てくる。


「え、えぇと……」

「えぇ、ちょっとオーワ!」


 視線でリュカ姉にパスする。

 従順なもので、ワユンの視線もつられてリュカ姉のほうへ。


「うーんと、ワユンちゃんにはちょっと早いかなぁ~、ねぇマルコ?」


 バカリュカ姉! そっちは地雷だ。


「あん? 教えてやりゃあいいじゃねえか。なぁオーワ?」


 意地悪く笑いながらこっちにふりやがった。

 おのれマルコ。


「オーワさん……」


 私一人知らないのは寂しいです、とでも言いたげな目だ。


「ワユン様。オーワ様がお困りのようなので、ここはわたくしが」

「リタさん!」


 傍観を決め込んでいたはずのリタさんが、いつの間にかそばに来ていた。

 まさかの救世主の登場に、僕は思わず感嘆の声を上げてしまう。


「手込めというのはですね」


 きっとオブラートに包んでごまかしてくれる、はず。


「無理やり力で相手を抑え込んで、欲求を満たすという行為を差します。今の場合、オーワ様が、ワユン様、ヨナ様お二人を無理やり犯すという意味で用いられ――」

「うわぁあああっ!!」


 一切のごまかし無く、ドストレートに言い放った。

 慌てて大声を上げるも、後の祭りだ。


「犯、す……って……う……」


 ワユンは口をパクパクさせている。

 犯すの意味くらいは分かるらしい。


「あぁぁ……」

「あちゃー」


 カリファは頭を抱え、リュカ姉は苦笑いしていた。 


「あら」


 ヨナは困ったような声で呟く。


「リ、リタさん、あんた……」 

「何か問題でも? 私はご主人様ワユンが教えろと命じられたので、言いつけ通りにしただけですが?」


 絶対わざとだこいつ。口角が少し緩んでやがる。

 仕返しだってか?

 ワユンへ? それとも僕へ?


「あっはっはっは!!」


 マルコはなぜかご機嫌だ。

 ワユンは目に涙を浮かべ、真っ赤になってこちらを見ている。


「オーワさん……その、お、犯すんですか……?」

「犯さない!! カリファが勝手に言ってるだけだ!!」

「隠しても無駄だぜオーワ! おいチビ、男ってのはみんな、頭ん中交尾のことでいっぱいなんだぜ? 特にあいつくらいの年の男はな」

「ふぇええっ!!!?」


 ワユンは無意識だろうが、体を掻き抱いて後ずさった。


「マルコォオオっ!!」

「くはははっ!!」 


 僕が叫ぶと、マルコは高らかに笑い声をあげた。

 とりあえず、絶対あとで、マルコは殺す。




 片づけを済ませ解散した後、僕はヨナの部屋に呼ばれた。

 改めてお礼を言いたいとのことだったけど、これはもともと僕から提示した約束でもあったし、必要ないと返した。


 けれども一通りお礼を言われて戸惑っていると、ヨナは一瞬、思いつめた表情を浮かべた。


「どうしたの?」

「いえ、その……オーワさん、一つお願いをしてもいいでしょうか?」


 ヨナからのお願いは珍しい。

 僕に迷惑をかけることを極端に嫌っていたんだ。

 些細なことを除けば、これが初めてではないだろうか。


「もちろんいいよ。何?」

「私を、オーワさんが今まで行った場所に連れて行ってください。オーワさんが今まで目にしたものの一端でいいので、私も見たいんです」


 それは予想外の頼み事で、僕は少し返答に戸惑ってしまった。 




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