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女顔の僕は異世界でがんばる  作者: ひつき
第四章 恨みを抱く少女
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第四話(仮)

 二日かけて、僕たちは周辺の似たような村をあらかた助けた。

 これはテオサルの警備ギルドのギルド長に、村人を救出したことと今後について話し合った時に頼まれた依頼で、他に生き延びた冒険者がいないかどうか探すついでに行っている。


 村はどこも似たような状況で、たまに魔物に襲われているところもあった。数人を残して壊滅していたなんてところもある。

 うぬぼれでも何でもなく、僕らがいなければ全滅していただろう。


 王国騎士団は、いったい何をしてるんだ? そりゃあ、民を守るために戦いに行くというのが間違ってるとは言わない。むしろ英雄的行動だろう。


 でも、その前にやることがあるんじゃないのか?

 人的被害を考えたら、都市を防御しつつ村々の人を避難させて、それから攻勢に出るってのがベストなはずだ。

 まずは守りからって孔明さんも言ってたし。ちなみに小生は関羽が大好きでござるっ!!



 住む家が無いそうなので、テオサル内部に入り口を持つ地下シェルター的な物をノームに造らせて、ようやく一息ついた僕たちは酒場にいる。 


 円卓を囲んだ僕たちは、冷やっこいルービー(正式名称。ビールもどき)とレグープ酒(葡萄もどきの酒)を煽り、ピグミートパイ(豚型魔物、ピグを使用)やサラダを食い散らかしていた。

 ちなみに僕はレオンジジュース。いや、ルービーとかあんな苦いもの飲むやつの気が知れない。未成年の飲酒はいけません、絶対。


「ぷはーーっ! いいことした後の酒はサイコーだねぇ!」


 十九歳のリュカ姉が、中年オヤジよろしく豪快にルービーを飲み干した。


「リュカ姉はいつでもサイコーって言ってないか?」


 落ち込んだ時は~、めでたい時は~。

 レグープ酒を真剣に見つめるワユンをちらと見て、リュカ姉が意地悪そうにニヤリとする。


「そんなことよりオーワ。ワユンちゃんとはいつ知り合ったのさ? ヨナちゃんがいながら別の子、それもこんなかわいい子にまで手を出すとは、君はなかなかのたらしだねぇ~」

「ちっ、違っ」


 僕がリュカ姉に絡まれている対面では、カリファがワユンに酒を薦めていた。

 カリファは見かけによらず世話焼きなのだ。


「んくっんくっ……はーー。これおいしいです」

「そお? よかった。店員さーん、レグープ追加ー」


 僕の対面でワユンの世話を焼いていたカリファが、酒を頼んでこちらに顔を向ける。


「んで、なになにおチビ、ガールフレンド二人もいるっての? 生意気~」

「だから違うって……」


 突如、肩に手を回された。あぁ、このごつごつした感じは……。


「おい糞ガキ、ガキにしちゃやるじゃねえか。飲めコラ」

「僕は未成年です。というか酒臭い!」

「んくんく……ふはぁー。ぽかぽかしておいしいです」


 デカマルコさんウザ絡みモード。いつの間にそんなに飲んだんだよあんた。

 ワユンの『おいしいです連呼』が遠くに聞こえる。

 リュカ姉がずいと近づいてきた。


「で、どこまでいったんだい?」

「それは男同士でする話だよリュカ姉!」

「俺の酒が飲めねえってのか!」

「うぷっ!? がぼっがはっ!!」


 リュカ姉に突っ込みを入れた瞬間、マルコにジョッキを突っ込まれた。いや、苦っ? まずっ? つーか苦しいっ!!


「マルコストップ」

「あんだとリュ……炎剣?」

「ごぼぼ……」


 リュカ姉がそのジョッキを離そうと掴むと、負けじとマルコが力を入れる。

 リュカ姉、助けてくれるのはいいけど、抜き差しされると服がべちゃべちゃになって余計に辛いんですけど。

 

牛乳うしちち! あんたマルコとなにイチャイチャやってんのよ!」


 叫びながら、カリファがこっちに来た。


「いや、どう考えても違くない?」

「いいからその手を離しなさい~っ!」

「んごほっ!?」


 やめて!! 僕の(ジョッキの)ために争わないで!! 

 女性の言ってみたい言葉ランキング上位に食い込むであろうセリフが思わず浮かんだけど、何これ全然うれしくない。むしろ死ぬほどキツイ。


「「あっ!」」

「ごっ?」


 突如、ジョッキが僕の顔面に突っ込んだ。チン(顎)ではなく前歯にクリーンヒット。きっとリュカ姉の手が、ジョッキからすっぽ抜けちゃったんだろう。

 歯、痛い――あぁ、天井が――。


 僕は凄まじい音を立てて、後頭部を床に強打した。



 気を取り直して。 


「わ、私のせいじゃないわよ?」

「あっはっは、すげー転んだね!」

「軟弱な奴め」

「マルコ、あんた絶対殺しますから」

 

 しどろもどろになりながらも強気なカリファと、愉快そうに笑うリュカ姉、そして毒を吐くマルコ。誰か一人くらい心配しろや。そして謝れ。

 ん? そういえばワユンは?


「んくんくんく……」


 視線の先では、親の仇とでも言わんばかりにレグープ酒と格闘するワユンがいた。その周りに散乱するは無数の空ジョッキ。ワユン無双だ。


「おおっ! 飲めるじゃねえかメスガキ!」

「マルコ、殺しますよマジで?」


 メスガキ? ワユンに対してなんてこと言うんだこいつ。


「あっはっは! ワユンちゃんは酒豪だねぇっ!」

「ね、ねぇ、大丈夫なのあれ……?」


 リュカ姉が笑い、カリファが心配する。

 ワユンのほっぺ、まっかっかで色っぽい――じゃない!


「わ、ワユン、その辺でやめといたほうが……」

「ぷへらぁーーーーっ!」


 静止虚しく、ワユンは気持ちよさそうに飲み干した。

   

「ひくっく……」

「わ、ワユン……?」

「くっく……おーわ、しゃん……?」


 ぼーっと虚空を見つめていたワユンの目に、突如光が宿る。そしてよたよたと、机を迂回して傍に来た。


「オーワしゃん!!」

「え? あ、はい?」


 え、何この剣幕?


「皆しゃんとばかり楽しくやってれ私は放置れすか!? 私はお邪魔虫れすかぁっ!?」

「え? いや、そんなことは……」


 ヤバい、焦点合ってない。そして近い、怖い。


「そりゃ~久しぶりの再会れすよ、浮かれるのもいいれすよ? でも私も入れてくらさいよ!」

「ご、ごめん、寂しかったよね?」

「寂しくなんてないれすよ! 私ずっと一人れしたからー? 慣れれますからー?」

「わ、ワユン?」


 急にトーンが下がってきた。まぶたが降りてきている。


「だから邪魔なときは言ってくらさいよ? そしらら絶対不快にはさせませんから……邪魔しませんから……らから……」

「ワユン?」


 どさりともたれかかってきて、すぐにすぅすぅと寝息を立て始めた。 


「おーい……寝ちゃった」

「その子、事情があるみたいね?」


 カリファが少し眉を寄せて、心配そうに言ってくる。


「えぇ、まぁ……実際的な部分はほぼ解決したんですけどね、やっぱ心の方は……」


 不快にさせませんから、邪魔しませんから、か。


 お酒に酔うと、心のタガが少し緩くなるって聞くけど、それが本当だとしたら、今の言葉はワユンの心の声ということになる。

 ちょっとまずいのかもしれない。でも普段隠してるってことは、克服しようとはしてるみたいだし、大丈夫なのか?

 

 リュカ姉が、髪をガシガシ掻き毟る。


「まったく君は、そういう子ばっか捕まえるよね」

「べ、別に捕まえるとか……」

「ま、冗談抜きで、私たちがいなかった間のこと教えてよ」


 そういえば、リュカ姉たちのことは大体聞いたけど、こっちのことは言ってなかったな。


 僕は息を吸って気持ちを切り替え、ワユンとの出会いから説明を始めた。

 



「――――というわけです」


 説明が終わると、周りの喧騒から切り離されたように、静寂が訪れた。

 そしてマルコはジョッキを一気に飲み干して、ズダァンッと、机に叩きつけた。 


「くそがっ!! あの野郎また――」

「落ち着きな!!」


 マルコの怒声とリュカ姉の鋭い声がぶつかる。

 マルコが目をひん剥いて立ち上がった。


「てめえリュカ!! この期に及んでまだあいつの肩を持つって言うのか!? あぁ!?」


 対するリュカ姉は、座ったまま顔色一つ変えずにマルコを睨んでいる。


「肩を持つとかじゃない。けど、あいつの気持ちも――」

「二度目だぞ!!」

「何度でもだよ。大切だから」


 睨みあう二人の間には、火花が散っているようだった。

 いったい何が起きてるんだ? そりゃ、エーミールとマルコが知り合いっぽかったのはわかるけど、なぜここまで怒るんだ?

 僕のため? ってわけじゃなさそうだし。


 混乱する僕をよそに、二人の口論は続いていく。


「大切だからなんだっつうんだ!? 仲間を裏切ってもいいって言うのか!? 俺たちだって一度壊滅しかけたんだぞ!? 今回に至っては、オーワが死にかけてんだ!!」

「でも生きてる、でしょう?」

「そういう問題じゃねえだろうが!!」

「そういう問題だよ。あいつが不意を突いたんだ。殺し損ねるわけがない。あいつのとりうる最大限の譲歩だったってこと」


 マルコはリュカ姉に掴みかからん勢いだ。

 周りもそろそろ、このテーブルに注目し始めている。


「ふ、二人とも、とりあえず……」

「譲歩だぁ!? バカ言ってんじゃねえよ!! ダチに槍ぶっ刺してその女を拉致らちることのどこが譲歩だ!! イカれてんじゃねえか!?」

「イカれてんだよ。私もエーミールも。でもあいつはまだ、戻れる可能性がある」

「開き直ってんじゃねえ!! 戻れるっつうなら、俺がもう一度ぶん殴って――」

「そんなんじゃ戻れないよ。それで戻れるくらいなら、あの時すでに戻ってたはずだろう?」

「あれじゃ足りなかったって言ってんだ!! 一回死なすくらいのつもりでやりゃあ今度こそ――」

「ダメだね。戻るにはエミーリアを助け出すしかない」


 激高するマルコと、静かに反論を繰り返すリュカ姉は、もはや周りの声を受け付けていないらしい。

 酔ってるっていうのもあるだろう。

 リュカ姉はあれで周りが見える方なのに、今は全然だ。


 一人じゃ止められない。

 助けを求めてカリファの方を向くと、彼女も複雑そうな顔をしていた。

 マルコはさらに身を乗り出す。


「てめぇ……悟ったみたいなこと言いやがって……気に食わねえんだよ!!」

「別に悟ってるわけじゃない。でもあんたよりは、あいつの気持ちがわかるって言ってんだ」

「あんだと!? 何様だてめぇ!!」

「唯一の肉親を守れなかった思いは、あんたにはわからない」


 カリファとマルコが、同時に息を呑んだ。

 一瞬、静寂が降りる。


 直後、弾かれたようにマルコがリュカ姉に殴りかかった。

 その拳を、リュカ姉は掴み取る。


「マルコッ!!」


 カリファの懇願するような声が飛んだ。


「……てめぇらだけが辛かったんじゃねえ」

「知ってるよ。でも違う」

「てめぇらとは家族同然だった。リュナンもエミーリアも、俺やカリファにとって弟妹だったんだ」

「でも本当じゃない。一緒に過ごした年数も、血も、違う」


 至近距離で睨みあう二人の声はずっと抑えられたものになっていたが、先よりも刃を思わせて、鋭い。 


「……気にいらねえんだよ、その不幸面が」

「なら見なければいいじゃん。私は別に、気にいられなくたって構わないからさ」


 マルコの手が緩んだ。殺気が薄れ、その顔で何かが揺れた。


「……いつから、そうなっちまったんだ。もう、戻れないのかよ」

「あんたらがそれを望んでる風だったから、普段はあの頃みたいにふるまってるじゃん。それじゃダメなの? むしろ態度とか違うのあんたらだろう?」

「……違うんだよ」


 マルコの落胆は、表情にこそかすかにしか出ていないが、なぜか強く伝わってきた。


 ――とその時、酒場の入り口の方で怒鳴り声がした。


「見つけたぞ小僧!!」


 金ぴか装備を身に纏った張飛もどきとその取り巻きたちのご登場である。 

 騎士サマ……なんて間の悪い連中なんだ……。





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