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女顔の僕は異世界でがんばる  作者: ひつき
第四章 恨みを抱く少女
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第二話(仮)

 大気を突き破るようにワイバーンは飛んでいく。

 夕方、日が沈みきる前に、オーガの群れに襲われているテオサルを見た。


「てことは、あそこから南西……」


 見ると、広大な平原が広がっていた。探し出すのは、いくらシャドウでも難しいだろう。

 ワイバーンに乗ってやみくもに探すしかないのか?


 いや、それならむしろ、あの魔物の群れを駆除して、騎士たちに手伝ってもらうのがベストか? 

 それだけじゃない。冒険者たちは、町を守るために戦ったんだ、テオサルの警備兵や冒険者ギルドからも応援を求められる。


 近づいていく。


「――っ!?」


 瞬間、明らかにわかった。

 ――エネルギーが、貯まっていく?


 魔物の死骸が所狭しと並んでいるから、その生命エネルギーってことか?

 でも、今までは自分か周りの人が倒した分しか貯まらなかった。

 それがなんで、ここへ来て急に? 

 それにやっぱり、一体一体から得られるエネルギー効率が、段違いに上がっている。

 どうなってるんだ? 


 いや、今悩んでる暇はない。

 スキル解放。


「出でよ<シルフ><サラマンダー><ドリアード><ノーム><アプサラス>」


 一気に解放したのは、風の妖精シルフと、火の妖精サラマンダー、それから木の妖精ドリアード。

 妖精なら、魔物と間違われる心配もないだろう。


 見た目はそれぞれ、ピクシーよりややスレンダーな、薄翠髪の少女、炎を身に纏ったボーイッシュな赤毛少女、濃翠髪のおっとりとした感じの少女となっている。


 サラマンダーが少女、というのに少し違和感を持ちつつ、魔物を殲滅するよう指示を出す。


 飛んで行った妖精たちは、圧倒的な力で押していく。

 新たに召喚した妖精たちは、いずれもワイバーンに匹敵するエネルギー消費量だった。加えて、そのものがエネルギーの塊だからか、妖精の戦闘力は普通の魔物とは一線を画す傾向にある。


 風の鎌鼬は大地を割り、炎の球は一撃でクレーターをつくる。瞬間的に生える巨大な蔦は、簡単に魔物たちの動きを封じていった。


 ブラッディ・オーガでさえ、風魔法で八つ裂きにされ、火魔法で消し炭にされている。上空からの一方的な攻撃。もはやただの殺戮と化していた。


「す、すごい……」


 ワユンの呆けたような声を背に、王国騎士たちの指揮官を探す。

 魔物の方は、みんなに任せておけばいいだろう。


「――いた」


 すぐに見つかった。

 突如始まった妖精たちの大攻勢に、兵たちを退かせようと大声を上げている。

 ほとんどの兵が呆けてるのに、よくもまぁあそこまで的確に指示を出せるな。


 一気に急降下。オーガたちを蹴散らして、ワイバーンは地に降り立った。


 ワイバーンから降り、彼に向かい来るオーガの殲滅を命令して、団長らしき髭の巨漢に向かう。


「騎士団の方がたですか?」

「きっ貴様は何者だっ!?」


 うわっすげぇ迫力だよこのおっさん。一際でかいし顔とかマジ張飛。

 って、そんなこと言ってる場合じゃないな。ワイバーンに乗ってきたんだから、警戒されるのは当たり前だ。まず名乗らないと。


「僕の名前はオーワです。冒険者ギルドより、冒険者の救助を依頼されてやってきました。今ここにいる妖精たちは僕の使い魔ですのでご安心を」

「これを、君のような子供が……?」

「ほらを吹くでない!! 貴様、よもや魔人の類ではあるまいな!?」


 取り巻きが横槍を入れてきた。

 誰あんた? モブはどうでもいいから引っ込んでてくださいよ。こっちは急いでんだ。


「ブルーノ、よさんか! ……冒険者の証拠は?」

「これです」


 プレートを渡す。


「ランクC、オーワ。……ランクCだと?」

「えぇ、最近冒険者になったばかりですので。それよりも、お願いがあります。あいつら殲滅したら、生き残った冒険者の捜索を手伝ってほしいんです」


 プレートを受け取り、早々に切り出した。少し無礼かもしれないけれど、時間が無い。

 モブが再び騒ぎ出す。


「貴様!! Cランクごときでいきなり何を!!」

「まぁ待て。冒険者を探し出すのを手伝えと言ったな? すまないがそれはできない」


 モブを宥める巨漢の声は優しいが、しかし厳格な表情をしている。反論は許さないといった雰囲気だ。

 

「ならせめて、テオサルの警備隊を動員するよう、依頼してもらえないでしょうか?」

「ならん。君が知っているかどうかはわからないが、今このテオサル以南では、過去類を見ないほどの大量発生が起きているのだ。それこそ伝記にある、魔王がこの地にいた頃に匹敵するほどのな。

 テオサルが重要な都市であることは分かるだろう? 危険なこの時期、警備隊を外すわけにはいかない。私たちもここを制圧したら、次のところへ向かわなければならないのだよ」

「でも向かうがてら、少し探すくらいは……それもだめなら、この町の冒険者……」

「ええい聞き分けよ冒険者!! 貴様ごとき本来、話すことすらおこがましいのだ!! カルロス隊長のご厚意に、これ以上の無礼は許さんぞ!!」


 くそっ、いちいちなんなんだよこのモブは!

 しかし隊長の顔を見て、悟った。

 こいつは、正論振りかざして、決して曲げないタイプだ。自分の正義を疑わず、正論を吐いて正当化する。言ってることは正しいのだから、こちらからは何も言えなくなってしまう。

 

 余計な時間を食ってしまった。

 これ以上押し問答するくらいなら、無謀でも何でも、自力で探したほうがいい。


「わかりました。御無理を言ってしまい申し訳ございません。だいぶ魔物の戦力も削れたと思うので、僕はこれで失礼します」

「待ちたまえ」


 踵を返そうとして、引き留められた。

 騎士たちが集まってくる。


「なんでしょう?」

「『力のあるものは、その力に責任を持たなくてはならない』。わかるかね?」


 以前、エーミールが言っていた言葉だ。でも、なんでそれをこの人が?


「知らないようだね。これは四人の勇者の一人、ケントの言葉だ。彼は冒険者の頃この言葉をよく用い、そして言葉通り、多くの民のため戦い抜いたと伝えられている。今では冒険者にとって、あるべき英雄の姿、根本的な理念の一つなのだ。

 さて君は、力を持つ君は、その責任を果たすべきだとは思わんかね? その力を使って、民のために戦うべきだとは思わんかね?」

「……具体的に、何をさせようと?」


 騎士たちは、すでに僕を取り囲んでいた。

 召喚士には近接戦闘の心得が無いと踏んでいるのか、モブが勝ち誇った顔で口を開く。


「我々とともに大量発生の駆除に向かうのだ。そんなこともわからんのか? これだから野蛮な冒険者は……」

「申し訳ございませんが、僕には冒険者の救助という任務がございますので、その申し出にお応えすることはできません」


 モブは一瞬ぽかんとして、すぐに赤くなる。


「貴様!! 自分の身分、立場がわかっておるのか!? 拒否権など無い、これは王国からの命令だ!!」

「落ち着くのだブルーノ。君、それは冒険者としての理念からも逸れ、正義にも背くことになると思うが、それでも断るのかね?

 仲間である彼らを救いたいという気持ちはわかるが、その救えるかもわからぬ数人のために、君は多くの人々を危険に晒そうというのか?」

「……冒険者として云々より、人として任された仕事はやり遂げるべきでしょう」


 というか僕にとっては、リュカ姉たち助ける方が、都市一つが危険にさらされるかもしれないことよりよっぽど大事だ。

 カルロス隊長の目が、残念そうに閉じられる。


「残念だ。このように利己的な者が、力を持ってしまうとは……英雄の再来を、ひそかに期待した儂が愚かだった……」

「すみません。それでは、僕はこれで」


 一礼し下がろうとして、槍を突き付けられる。


 ――敵意。


 隣でワユンが、きゅっと僕の袖をつかんだ。


『来てくれ、ドリアード』

 

 命令とほぼ同時に、団長が口を開く。


「力のある危険人物を、そのまま放置するわけにもいくまい? 君の身柄は私たちが預からせてもらう。なに、安心するがいい、君に正義とは何かしっかり教育した後、王国騎士団の一員として迎えようじゃないか。君ほどの力なら、即、士官も十分に考えられよう」


 ったく、どっちが利己的なんだよ! 

 世間的に見れば、そりゃあんたらが正しいのかもしれないけどな、僕からすれば正しくないんだよそれは。


 バカみたいに自分が正しいと思ってるやつは、これだから嫌いだ。

 あいつら『いじめられる原因は君にもあるんだ』とか暴論吐いていじめ見過ごしたり、『がんばらないやつが悪い』とか意味不明なこと言ってやがる。

 いじめられる原因ってなんだよ! 具体例を列挙して、それを直す方法まで教えろよ! みんながんばれたら、落ちこぼれなんて存在しないんだよ! 


 ――と、いかん。つい焦りと理不尽に腹が立って、我を忘れるところだった。

 落ち着け、落ち着け。


「従えません。僕にはやるべきことがあるので」


 きっぱり言い切ると、モブがここぞとばかりに食いついてくる。


「拒否権など無い!! 痛い目見たくなかったら……」


『ドリアード、頼む』


 瞬間、騎士たちの体が植物の蔦によって拘束された。


「なんだこれは!?」

「魔物か!?」

「いや違う!! 貴様!! 何のつもりだ!!」


 突如沸き起こる騒ぎの中、モブだけが気付いていた。

 僕とワユンは、太い蔦によって上空へ逃れる。


「申し訳ございません!! どうやら使い魔が、あなた方を敵と勘違いしてしまったようで……すぐに解除いたしますのでご安心を!!」

「貴様!! こんなことをしてただで済むと思っておるのか!?」

「事故ですって!! いくらなんでも、ちょっと調子に乗って使い魔を召喚しすぎました!! いやぁ、反省しないとです!」


 言いつつワイバーンの背に乗り、おさらば。

 

「いいか小僧!! 儂はあきらめんぞ!! 絶対に逃がさんからな!!」


 一人蔦から抜け出し騒ぐ隊長の声をバックに、僕はドリアードに蔦の解除を命令した。





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