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閑話 二 暇つぶしには

閑話 二つ目です。

時系列的にはルーヘンをボコボコにして売り払った後になります。


ボードゲームの描写は、将棋やチェスを知らない人にはやや厳しいかもしれませんが、まぁ楽しんでるなくらいに受け取ってください。


途中の描写は、もしかしたらアウトかもしれないので、突然消えたらお察しください。

 以前話した通り、この世界には娯楽が少ない。


 だが別に、皆無というわけじゃない。平民というか、普通の人たちには遊んでる余裕はないけれど、貴族だっているのだ。彼らが独自に編み出したゲームなどはある。


 貴族の中には暇人だっている。それはあの世界もこの世界も一緒というわけだ。



「アサシンゲットです!」


 ヨナのうれしそうな声が響いた。


「うぅぅ、ヨナさん容赦ないです……」 


 ワユンはうなだれている。


 今ヨナとワユンがやっているボードゲームは『キリング』。アレンに教えてもらったゲームで、商業都市に行ってきたついでに買ってきたものだ。


 冒険者側とモンスター側にわかれて戦うこのゲームは、将棋やチェスに近い。碁盤の目のような盤上の端と端に置かれた状態でスタートし、どちらかのキングがとられた時点で終了だ。


 冒険者の駒には、ウィザード、ガーディアン、アサシンがそれぞれ二つずつと、セイント(聖人)、ブレイブ(勇者)、キングが一つずつあり、モンスター側には、フェアリー、ゴーレム、サキュバスがそれぞれ二つずつと、リーパー(死神)、ドラゴン、ルシファー(魔王)が一つずつある。

 

 それぞれウィザードとフェアリー、ガーディアンとゴーレム、アサシンとサキュバス、セイントとリーパー、ブレイブとドラゴン、キングとルシファーが対応しており、それぞれの動きも全く一緒だ。

 残りはソルジャーとゴブリンが九体ずつある。


 歩兵に役駒と、ここまでは将棋やチェスとほぼ同じだが、少し違うところがある。


 まず一つ目は、ドラゴンとブレイブだ。これらは機動力自体は少ないものの『普通の駒にはとられない』という異常な力が与えられえいる。

 つまり、ただ敵陣へ突き進ませるだけで、蹂躙じゅうりんすることが出来るのだ。


 もう一つは、セイントとリーパー。これらの駒は、かなりの機動力と、ドラゴンとブレイブをとることが出来る攻撃力を持つ。

 その代り他の役駒(歩兵以外)をとることはできないという、特化仕様だ。


 また、とった駒を使うことはできない。


 つまり、このゲームは『いかにしてドラゴン、あるいはブレイブを倒すか』が、カギなのだ。


 

「ウィザードいただきです!」

「あぅえぅ……」


 ヨナ、無双状態だ。

 ルールを知ったばかりなのにこれだけの差が出るってことは、相当ヨナの頭がいいってことか? それともワユンがおバカなだけ?


 結局自陣をほとんど丸裸にされ、ワユンはヨナに惨敗した。


「勝っちゃいました」

「あぅぅ……冒険者のはずなのに……」


 冒険者ワユン、魔物ヨナに狩られる。


「じゃあ次は僕とヨナかな」 

「負けませんよ?」


 対峙する。

 今度はヨナが冒険者側だ。僕は魔物側。召喚士として負けられないな。


 僕もこのゲームを実際にやるのは初めてだが、将棋やチェスといったボード―ゲームはPC相手に結構やった。

 駒をとっていくほど相手の美少女の服が脱げていく『脱衣将棋』だ。脱衣麻雀より簡単に脱がせられるから結構お気に入り。


 だから完全な素人よりは戦える、はず。


 先行はヨナ。

 まずはブレイブの前にあるソルジャーを前進させる。


 強力な駒を動かすために道を開けるのは基本だけど、初めてでそれに気づくなんて、やっぱ頭いいな。 


 感心しながら、僕も同様にゴブリンを動かす。


 ヨナ、ブレイブを前進。

 対する僕は、ルシファーを斜め前へ。

 守りを固めてから攻めるという魂胆だ。とりあえずブレイブの居る方からは離れないといけない。



 戦いは、熾烈を極めた。


 僕は序盤、初心者が引っ掛かりがちな疑似餌ぎじえを撒いた。

 疑似餌というのは、簡単に取れそうなところに遭えて駒を置き相手を釣って、逆に駒得を狙ったり、状況を良くすることである。

 このゲームの駒は将棋以上に特徴のある駒が揃っているために決まりやすいが、それでもヨナは一度引っかかったきり、それ以降はぴくりともつられない。


「……やるな、ヨナ」

「お褒めに預かり光栄です」 

「ふぇぇぇ……」


 火花を散らす僕とヨナ。それを見て情けない声を上げるワユン。  

 ヨナはブレイブを僕の陣へと進めた。

 対する僕は、ゴーレムを前衛に、フェアリーを敵陣へと近づける。


 このゲームはドラゴンやリーパーが目立つが、他の駒もかなりユニークだ。


 たとえばゴーレム(ガーディアン)。これらはソルジャーにはとられない上、後退もできるため機動力もそれほど低くは無い。優秀な壁である。


 そしてフェアリー(ウィザード)。これらは二マス飛ばして攻撃できるという特徴を持つ。間に自分の駒があっても先の駒へ攻撃できるので、比較的安全に敵陣へ切り込めるのだ。


 最後にサキュパス(アサシン)。これはチェスで言うナイトと同じ動きが出来る。抜群の機動力だ。

 

 ヨナはブレイブを横に動かし、さらにゴブリンを狩っていく。

 けれどその表情は険しい。


 あらかじめリーパーを牽制役に配置しておいたから、それ以上僕の陣へ進めないのだ。進めるためには、他の駒を持ってきてブレイブを補助しなければならない。


 僕は進めたゴーレムとフェアリーを使ってセイントを追い詰めにかかる。その後ろに控えるのはドラゴンだ。

 まだ時間はかかるが、確実にドラゴンを暴れさせることが出来る布陣を整えた形。初心者だろうと手加減はしまいぞ!



 さらに盤面が進む。

 僕のドラゴンはついに敵地への侵略を果たしたが、多少の無茶が祟り、ゴーレムを犠牲にしてしまった。丸裸のフェアリーは防御に劣るため、ドラゴンの補助に向かない。


 対するヨナは、こちらがリーパーを寄せたために、いったん退き、後続としてアサシンを前進させていた。


 ワユンは盤面を眺めつつ、うつらうつら舟をこいでいる。


 盤面に目を戻す。


 アサシンの機動力は高い。

 だが前方への攻撃手段を持たないのが弱点だ。

 とりあえずはソルジャーを使えば足を止めることは容易い。逆にそれは、ブレイブの動きを抑制してしまうことにもなる。


 慌てず騒がず、ソルジャーを前進。


 そしてついに、来るべき時が来た。

 焦りからか、経験の薄さからか。

 ヨナは一手、違えた。

 リーパーの射程圏内に、ブレイブの片足が侵入する。


「――っ!!」


 僕は電光石火、片手を伸ばした。

 ヨナが気付き、ブレイブの駒を戻そうとする。

 

『待った』である。

 ルール違反だ。


 ――ワユンの巨乳が、盤面に落ちた。

 

 立ち上がりかけて、手を滑らせたのだ。

 盤上に形成された、ある種美しさを持った配置が、一瞬にして破壊された。

 

「いたたたたたっ!!」


 一瞬、ほんのわずか、ヨナの口元がニヤリと歪む。

 僕の喉を、唸り声ともつかない掠れた音が通っていく。  


「あぁっ!! すみませんすみません!! いたたたっ!! 申し訳ございません!!」


 慌てて起き上がり謝ってくるワユンは痛みからか申し訳なさからか目に涙を貯めていて、僕は何とか怒りを抑えた。


「い、いいって、いいって。それより、だいじょうぶ?」


 頬が引き攣っているのを感じる。

 全然ダメだった。


「うぅぅ……いろいろ、突き刺さりました……」


 駒の形は立体。貴族のボードゲームなのだ、チェスなどのように、駒にも形がある。

 これは確かに、痛そうだ。

 ワユンは胸をさすりながら、中を確認している。


 服の上から見たところ、本当に突き刺さった物はなさそうだ。

 痣くらいにはなっているかもしれないけど。


「だ、大丈夫ですか……?」


 ヨナが本当に心配そうに、ワユンの胸へ手をやり、さすり始める。

 

「あっつっ……」

「あっ、すみませんっ、痛いですか?」

「いえ……大丈夫ですっんっ……」


 優しくさすられて、なぜかワユンが声を上げる。

 徐々にヨナの指が動き出す。 


「あのっ、ヨナ、さん……?」

「お、大きい……やわらかい……」


 自分の胸とそれを交互に見て、つぶやいた。

 興味津々と言った様子だ。同年代の同性の体を知らなかったからかもしれない。


「あっ、んっ」

「す、すごい……」


 ヨナはもはや、虜となっていた。

 何これエロい。というか、あの、どうすればいいの僕?


「んっ……っ……ヨナ、さんっ……」

「あれ? ここ、固くなって……?」


 一点をつまむ。 

 ワユンが首を反らした。


「ちょっ! んぅっ……っっ」

「また固く……?」


 ヤバいムリ耐えられない。

 盤面に目を移し、駒を並べる作業に移った。

 けれど二人の声は聞こえてくる。


「あっ……それっ、っ……ヨナ、さんっ……だめっ」

「えっだめ?」

「んぁっ! ―――――――っ!!」

「へっ!?」


 ヨナのびっくりしたような声で、僕はたまらず顔を上げた。


 ワユンは顔を真っ赤にして、くったりとしていた。


「なっ!?」

「えっ? ワユンさん? ちょっと……えっ!?」


 ヨナはおろおろうろたえていた。

 何が起きたのかわかっていない様子。いや、僕もわからないけども!



 くったりしてしまったワユンをヨナの隣に寝かせ、先のゲームの続きをしている。


「ワユンさん、大丈夫でしょうか……私、つい夢中になってしまって……」

「あ、あぁ、たぶん、大丈夫だと思うよ。たぶん」


 僕もヨナも、先に比べて精彩を欠いていた。

 あっさりとゴーレムをとられ、あっさりとアサシンをとる。


 それでもだんだんと落ち着いてきた。

 用意した紅茶をたまに飲みつつ、ぽつぽつ話をしながら、駒を進めていく。

 ワユンの寝息は規則正しく、それが余計に穏やかな気持ちにさせてくれた。


 静かな時間だった。

 そういえば、ヨナとこうして二人きりになるのは、ずいぶん久しぶりの気がする。


 相変わらず顔を隠したままのヨナを見て、急に心が痛んだ。


「ごめん、ヨナ」

「へ?」


 ヨナが驚いたように顔を上げた。


「ドラゴンの肝さ」

「あぁ……」


 あれからいろいろあったけど、いまだに僕は、ドラゴンの手がかりすら掴めていなかった。

 絶対に呪いを解いてやろうと誓ったのに、この体たらく。

 まったく、情けないことだ。


 けれどヨナは、微笑んでくれる。

 

「私なら大丈夫ですよ。ドラゴンなんて、簡単に見つけられるものじゃないでしょう? ましてやその肝なんて、数か月やそこらで手に入りませんよ」


 予想はしていた。ヨナならこう言ってくれると。


 僕はそれでいて、弱音を吐いたんだろうか。

 だとしたら、なんて小さいんだ。


 ドラゴンを、セイントの射程圏内へあえて進ませた。

 ヨナはその自殺行為に、一瞬硬直する。


「約束するよ。必ず近いうち、ドラゴンを倒すって」

「……はい」


 そう言うと、ヨナは笑って、僕のドラゴンを狩った。





ボードゲームは即興でルール等作ったので、突っ込みは多々あるかもしれませんが、ご了承ください。

あと、ワユンは五感が鋭いので、感じやすいです、すごく。


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