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女顔の僕は異世界でがんばる  作者: ひつき
第三章 狡猾な冒険者
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狡猾な冒険者 九

 翌午前九時頃。

 そろそろ動き過ぎで疲れてきたなぁとかなんとか思いつつ、昨晩の人たちと合流し、割り振りを行った。


 王都組、商業都市組、貿易都市組。

 それぞれ七人、六人、四人の割り振り。すごくてきとーだけど、まぁ大丈夫だろう。


 奴隷三人組はとりあえず放置。もちろん拘束したままだ。やつらには今晩、重要な任務が待っている。


 さすがにワイバーンで一斉に移動と言うわけにはいかない。王都から順々に運んでいくと、あっという間に午後五時を回ってしまった。


 そして代わりにチビとノッポを回収し、商業都市、ベーゼ伯亭の脇にやってきた。


「ルーヘンに、明日の十三時、中心街にオーワが現れると伝えてくれ」


 ルーヘンはよほど一昨日のことがショックだったのか、引き籠ってしまっている。まぁ、あれだけのことがあったんだ、気まずいのは当然だろう。

 けれどそれではダメだ。なんとしてもやつには明日の正午、町の中心街に来てもらわなければならない。


「そっそんなこと、あいつが信じるわけ……」


 チビの反論を一刀両断。


「言えば信じるさ。信じなくとも、様子だけは確認しに来るはず」 


 それに後で、念押ししとくつもりだし。

 

 ノッポがおずおずと口を開いた。


「で、ですが、俺たちなんかが会えるでしょうか……?」

「会うんだよ。まぁオーワについて情報があるとかなんとか言えば大丈夫だろ。あぁ、ちゃんと見張りはつけとくから、もし勝手なことしたら……いや、お前らを操ればいいのか」

「わっ、わかったわかったから!! 必ず成功させます!!」


 初めからそう言えよ。無駄な時間使っちゃったじゃないか。

 いそいそと正面門へ向かう二人にシャドウを張りつかせ、その間にアプサラスと合流する。


「お疲れ様、アプサラス」


 うりうり撫でる。……相変わらず無表情だなぁ。

 ピクシーとノームを召喚し、二人に今晩までの命令を下した。


『思いつく限りありったけルーヘンの悪口を城壁に書き込んできてくれ。目立てば目立つほどいいけど、くれぐれも書いてる姿は誰かに見られないように頼む』


 結構難しい指令だけど、すぐにふんふん頷き、ぴゅんっと飛び立っていった。 

 ちなみにこの落書きには、特に意味が無い。まぁ強いて言えば、評判が少し落ちるかな、くらい。ただの嫌がらせだ。

 

「アプサラスは大丈夫?」


 こちらは一日中召喚しっぱなしだったから、ちょっと不安。けれど、特に力も使っていなかったからか、疲れている様子はない。


「じゃあルーヘンの部屋に潜んで、やつが帰ってきたらこれを多めにばら撒いてくれ」


 そう言って、粉末状の睡眠薬の入った瓶を渡した。

 たぶんあいつは寝てないだろうから、簡単に眠ってくれるだろう。まぁ、あれだけの量なら普通でも寝るけど、興奮してるだろうからなぁ。



 帰ってきた二人組を拘束して抜け穴内に閉じ込め、アプサラスを待った。

 アプサラスはいつも通りほややんとしながら帰ってきたが、結果を尋ねるとサムズアップを返してくる。寝不足でテンションが高いのかな? いやそもそも妖精に寝不足とかあるんだろうか?


 礼を言って、今度は注意しつつ僕を二階へ連れて行かせる。

 真昼間だが、それゆえに警備兵の数も若干少なく、多少冷や冷やしながらも潜入成功。ぐっすりとお休みになられているお坊ちゃまに王の力をかけ、必ず明日の昼現れるよう念押しする。

 ついでに金目のものをさらい、慎重に部屋を後にした。  



 プネウマに到着した後、昨日ノームに造らせた穴倉で仮眠をとった。


 午後二十二時。

 いよいよ奴隷三人組の出番だ。

 穴倉のロビーに集めた三人の中から、とりあえず一番ムカつくブービー君(カースト最下位だった青年)を指さす。


「よし、じゃあ一号」

「誰が一号だ!!」

「敬語」

「あぁ!? うっぐぅううすみませんすみません!!」


 便利だなぁ奴隷印。どうせだったらチビとノッポにもつければよかった。

 なんてことを思いながら、ブービー君の枷を外し、代わりに僕とお揃いの外套を着せて町長宅に向かう。


「いいか? やるべきことは単純だ。この短剣もって侵入して、殺さない程度に町長を襲え。そこに僕が割って入るから、あとは適当に戦ってボコされて倒れてろ」

「……ちっ、わかりましたよっ」


 舌打ちする青年の考えは見え透いていた。

 いやいや、口元隠せてないよ? 『事故』を起こす気満々だね。


 普通奴隷は、主人を害することが出来ない。

 けれどこの場合、命令の中に『戦って』とあるから、その指示に従って僕と戦うことが出来る。逆手にとって、僕を殺す気だろう。

 でもさ、スキル無しで僕に勝てるわけないじゃん。せっかくだから放置していじめてやろう。


 まずは下処理だ。

 奴隷一号を待機させ、外套とシャドウを纏って侵入し、手早く警備兵を叩きのめして睡眠薬を飲ませる。そして再び外へ出て、青年に町長の部屋へ突入させた。


 庭へと回った僕は、町長の悲鳴を聞いて少しして、窓から勢いよく飛び込んだ。


「たっ助けてくれぇええっ!!」

「町長!! 動かないでください!!」


 我ながらなんと白々しいセリフだろう。

 殺すなと命令してあるから、奴隷一号の攻撃はかろうじて町長から外れている。その妻は、あまりの光景に声も出ないようだった。


 すぐに町長の前へ飛び出し、短剣を抜き放つ。

 扉の方から、甲高い悲鳴が聞こえた。


 あっ、かわいい女の子。


 金髪の娘は、元から大きな目をさらに真ん丸に見開いていた。 

 やっぱこういうの、やる気でるよね。自演だけど。


 奴隷一号は目を血走らせて、それはそれは殺気のこもった一撃を振り下ろした。

 でもさ、遅すぎる。

 ワユンとかと戦ってたからか、見てから回避余裕です。


「くぅっ!」


 それでも接戦を演じなきゃ疑われるだろうし。

 なんとか受け止めたふりをして、一号と切り結んでいく。


 しばらくすると一号は、手を抜かれていることに気付いたのか、悔しそうに顔を歪めてめちゃくちゃに短剣を振り回し始めた。

 そろそろいいかな。

 スキル<怪力>発動。


 一号の手から短剣を叩き落とし、柄の宝玉で腹を突く。


「おぐっ!!」


 そしてくの字に曲がったところで後頭部にもう一撃お見舞いし、さらに床に伏した頭へダメ押しの一撃を叩きこんで意識を奪った。

 うわ、血が出とる……気絶させるのって大変なんだなぁ。


 どさっと何かが落ちる音がした。


「お父さん!!」 


 女の子が駆け寄った先では、町長がこちらを見て腰を抜かしていた。


「き、君は……」

「えぇ、オーワです。お怪我はありませんか?」


 なるべく無表情を装って尋ねると、町長は怯えたように震えた。


「なっ、なんで助けてくれたんだね……? 私は、私たちは君を……」

「知ってます。正直、恨んでますよ、今でも。あなたたちのせいで、今じゃ僕は犯罪者ですから……でも、いくら恨んでようと、目の前で殺されそうになってる人を見殺しにするなんてこと、僕にはできませんから」


 そう言って笑うと、町長はその以外にきれいな目にみるみる涙を溢れさせ、勢いよく土下座した。


「すまないっ!! 本当に悪かったと思ってるんだよ!! ただ、どうしてもベーゼ伯家に逆らうことが出来なかったんだ!! 家族を守るためには、仕方なく……」


 娘の方は事情がよくわかっていないようで、困惑している。

 苦々しい顔を演じる僕、まじピエロ。さすがにちょっと思うところもあるけど、まぁこんなことしなきゃならないのもこいつらのせいだしな。

 町長の肩に手を置いた。


「え……?」

「町長さん、わかってますよ。やむを得ない事情があったってことくらい。ですがそのために、僕は処刑されたくない。それも、わかってくれますよね?」


 顔を上げた町長は、僕の涙(演技)を見て、俯いた。


「あ、あぁ……そうだね、君の言うとおりだ。それでなんとかなるとは思えないが、私は素直に、自首するとしよう……」


 絞り出した声には、苦渋が滲んでいた。

 さて、頃合いだ。


「いえ、その必要はありませんよ?」

「え?」

「僕は明日、ルーヘンに直談判しに行こうと思っているんです。僕の日ごろの行いからか、結構あれが濡れ衣だったんじゃないかと言う噂も立っていますし、警備ギルドや冒険者ギルドのギルド長にも話はつけてありますから、たぶん、撤回できるでしょう。あとは、あなたが明日、『この契約はルーヘンに強制されたんだ』と証言してくだされば、それで万事解決です」

「でっ、でも相手はあのベーゼ伯……」


 一瞬目に喜びの色が現れたが、再び揺れる。

 どんだけ怖いんですか。どうやら脅されてって話も、あながちウソじゃないらしい。


「大丈夫ですよ。一昨日なんて、商人たちにルーヘンは負けたみたいですし」 

「はい?」


 信じられないという声。

 さも意外そうに僕は続ける。


「聞いてないんですか? なんでも、町娘を強姦しようとしたルーヘンに怒った商人たちが、ベーゼ伯に直談判したらしいですよ? そしたらあっさり、ベーゼ伯はルーヘンの過ちを認めたそうです」

「ベーゼ伯が、ご子息の過ちを……?」

「そうです。ルーヘンはもはや、ベーゼ伯に見限られてるのかもしれませんね。まぁいずれにせよ、これはチャンスです。ベーゼ伯の威光を使って好き勝手やってるルーヘンに、社会の厳しさを教えてやりましょう」


 そう言って力強く町長の手を握ると、彼はみるみる内に活気づいた。


「そ、それなら!! ぜひ協力させてもらおうじゃないか!! いや、私としても君のように将来有望な冒険者を失うのは痛かったんだよ。いやぁその年で、君は本当にできた男だねぇ。<ミスナー>を救った時といい、まったく、感激した!! この件が終わった後も、ぜひ諸々手を貸そうじゃないか!! 君はこの町の英雄だ!!」


 あぁぁ、ホントに調子のいいやつ。悪いと思ってるんだよね? 

 なんかむかついたけど、ここで機嫌を損ねるのもよくない。

 僕は全神経を費やした愛想笑いでもって、その熱意にこたえた。



 その他二件もほぼ同様にこなし、全員を懐柔させた僕はハンナさんの隠れ家に帰ってきていた。

 現在午前四時。

 翌朝の集合は、午前八時。

 ……二時間くらいなら、仮眠とれるかなぁ。


 ピクシーにアラームをお願いし、僕は死んだようにベッドへ崩れ落ちた。





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