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女顔の僕は異世界でがんばる  作者: ひつき
第三章 狡猾な冒険者
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狡猾な冒険者 三

 午前零時四十分。

 警備ギルドをから出た足で、冒険者ギルドを目指した。装備品の回収と、不正取引の証拠確保、加えてルーヘンが今どこにいるか、その手がかりを探すためだ。

 ピクシーによる明かりも最小限にとどめ、音を立てないよう小走りに移動している。


 ――と、


「オーワさんですね?」

「――――っっ!?」


 急に背後から声をかけられて、心臓が止まるほど驚いた。

 聞き覚えのある声に振り返ると、そこにいたのはハンナさんだった。

 なんでここにいる? というか、まったく気配を感じなかったぞ? どういうことだ?

 疑念が沸き起こる。


「どうして?」

「そろそろ脱獄されるころかなと思ってたので、待ち伏せさせてもらいました」  

「……僕を、捕らえようと?」


 無意識に王の力を発動しそうになる。両隣りでピクシーとアプサラスが犬歯を剥いた。

 ハンナさんは両手を挙げる。


「まさか、逆ですよ。

 あの時は間に合わなくて申し訳ございませんでした。こちらも衛兵たちから攻撃を受けていたので。私だけならあの程度どうということは無かったのですけど、何人か職員が人質に捕られてまして、少し手間取ってしまったんです」


 いつもと変わらない親身な口調に、少し肩の力を抜いた。どうやら味方のようだ。

 それにしても、この人何者だ? ただの受付さんだとばかり思っていたけど、話を聞く限りかなりの使い手ということになる。 

 新たな疑問を抱きつつ、とりあえず頭を下げる。


「すみません。ちょっと混乱してたので」

「いえ、無理もありません。私にとってもエーミールさんの行動は予想外でしたから。

 それより、状況は把握されてますか?」

「えぇと、僕が犯罪者で、冒険者ギルドと警備ギルド、それからこの町の権力者が買収されてるってことくらいは把握してます」

「では、警備ギルドの急所は掴んでますか?」


 どこまで見透かしているんだ?

 言っていいのか迷ったが、ハンナさんは僕の反応で大体理解したような顔をしていた。隠し事も通らないらしい。あんた僕の母さんかよ。


「不正の証拠は盗ってきました」


 何枚かの契約書を取り出すと、ハンナさんは満足そうにうなずく。


「ではこれを」


 そう言って彼女は、巾着袋から僕の装備品一式、それから契約書を取り出した。


「えっ? どうして……」 


 これは冒険者ギルドのギルド長が保有してるはず。それがここにあるということは、彼女が盗み出してきたことになる。

 そんなことをすれば、ハンナさんと言えどただでは済まないだろうに。

 そんな僕の反応に、彼女は柔らかく微笑む。


「私はすでに追放されてます。どうやら衛兵たちに危害を加えたことがよくなかったらしくて」

「っ! そんな……でもそんなことしたら、いくら低ランク冒険者たちだって黙ってないんじゃ……?」

「えぇ、今ギルドはなかなか面白いことになっちゃってますよ。私なんかのために、ありがたい話です」


 そう言うハンナさんは、悲観に暮れているというよりむしろ楽しそうだった。

 心配は杞憂らしい。


 お礼を言ってそれらを受け取り、装備品を着込んだ。状況的に、ハンナさんの前で恥ずかしいとか言ってられない。


「それで、これからどうするおつもりですか? わかっているとは思いますけれど、オーワさんの立場は、今かなり危険なものになっています」

「えぇ、わかってます。とりあえず町長のところへ行って取引の証拠か何か奪って、そこで情報収集。そのあとヨナの安全を確認したらルーヘンのところへ行くって感じですかね」


 さらっと概要だけ攫うと、ハンナさんは複雑そうな表情をした。


「簡単に言いますけど、それってほぼ無策じゃ……。まぁ、オーワさんの『ヒミツの力』ならなんとかなるのかもしれませんけど」


 ――ばれている? 

 ドキリとしたが、苦笑いするハンナさんからは咎めるような雰囲気は伺えない。仮に僕がほとんど無制限に人を操れることを知っているのだとすれば、もっと警戒してくるはずだろう。

 たぶん、ばれてはいない。


「まぁ、秘策はあります」

「わかりました、その言葉を信じましょう。きっと私がついて行っても邪魔になるだけでしょうし、お任せします。

 それからヨナさんとワイバーンについてですが、現在私が保護しています。ヨナさんの精神状態も問題ないので、ご安心ください」

「はい?」


 ここ一番の爆弾発言が投下された。

 保護って簡単に言うけど、ワイバーンの警戒を解くなんてこと、普通じゃまずありえない。けれどワイバーンが無事なのは事実だし、嘘を言っているふうでもない。

 ていうか、ワイバーンの存在にビビってないだけでもおかしい。


 それに、ヨナの精神状態と言った。ヨナの真の問題について、すでにこの人は看破していることになる。

 ヨナの様子を語るなら、いかにも病弱なのだ、ふつう肉体的な部分を指すだろう。


「……ハンナさんって何者ですが?」

「茶髪の悪魔ですよ?」


 はぐらかされた。まぁ、答えてもらえるとは思ってないけれど。


「それから、町長の住所はご存知ですか?」

「それくらいは、まぁ」

「ならだいじょうぶですね。一応、関係がありそうなこの町のお偉い様方の名前と住所をメモしておきましたので、役立ててください」


 そう言ってハンナさんは一枚の紙を渡してきた。


「ありがとうございます。……質問、いいですか?」

「なんでしょう?」

「なぜ、ここまでしてくれるんですか?」


 純粋に疑問だった。

 僕を手助けする理由など、この人には無いように思える。ましてや、冒険者ギルドに忍び込んで機密を盗み出したり、ワイバーンを宥めてヨナを保護するなど、命がけと言ってもいい。

 何か裏があるんじゃないか。

 どうしても疑ってしまう。

 

「私は冒険者が好きですから。それに……」


 一瞬言いよどみ、続けた。 


「オーワさんの疑いが晴れれば、私はまた晴れて受付さんをやれますからね。それに今のギルド長の方針はあまり好きじゃなかったので、この機会に引きずりおろせればいいなとも思ってますし」


 今のギルド長は、高ランクの冒険者に対して過剰なほど任務を与えている。それが気に食わないと言っているのだ。

 でも、それもあるだろうけど、この人は何か隠している。

 それが悪いことなのかどうかは定かじゃないけれど、なんとなくそう思った。

 果たして、信じていいものか。


「一度、ヨナの様子を見ておきたいんですが……」 


 この人を手放しで信用することが出来ない以上、ヨナの安全を確認することは必須だ。


「わかりました。では早朝四時に、すぐそこの道を左に折れて二つ目の角で落ち合いましょう」


 そう約束して、僕たちは別れた。



 そのあとはスムーズに事を運べた。

 

 町長宅に侵入し、毒薬調合レベル二にて作った粉末状の睡眠薬を散布することで家の住人に服毒させる。

 続いて、妻の隣で寝ていた町長に王の力を発動し、自室に移動させて不正の情報とルーヘンの居場所を聞きだした。


 サクサクと契約書を提出させ、ついでに何かやましいことないか吐かせて、警備ギルドと冒険者ギルドへの裏金的なものの証拠を入手する。


 困ったのはルーヘンの居場所だ。どうやらやつは、本当に冒険者として再起するつもりがないらしく、実家に引き上げてしまったらしい。


 ベーゼ伯家はここから東へ二日ほど馬車に揺られたところ、ちょうど王都へ行く通過点にある通称商業都市<ハンデル>にある。

 行ったことはないが、ここよりもさらに大きな都市らしい。

 しかも、やつらのホームだ。

 当然、僕は極悪非道の犯罪者として手厚くもてなされることだろう。


 僕は偏見で、どうしてもベーゼ伯もクズだと思っている。

 いや、性格は最低だと思う。父親の悪いところは、子にも引き継がれる。それは身に染みて、よくわかっていた。

 けれど性格はどうであれ、ベーゼ伯による領地経営は、悪く無いらしい。

 そりゃあ、貧困にあえぐ農村もあるだろうが、これだけ広い領土だ、それくらいはしょうがないと言える。ここよりひどい領地など、いくらでもあるそうだ。

 特に商業、冒険者業については、権利を保障して、ある程度の自由を与えているとかなんとかで、経済面では王国内でもトップクラスの領地となっている。

 伊達に大きな領土を任されてはいない。


 いずれにせよ、父がどうであれ、ルーヘンには痛い目を見てもらわなければならない。

 しかしそうなると、ベーゼ伯の威光が邪魔だ。三男とはいえ、相当な権力と人を動かすことが出来るはず。

 これは、覚悟しないとな。


 さて、あとはこいつをどう処理するかだ。

 金銭を奪ってもいい。けど、こいつの娘さんかわいかったんだよな。生活に困らせるほどにはしたくないし。

 とりあえずポケットマネーは全額提供させる。


「(あとはやっぱ、検体かな)」


 最近行った<解放>と言えば、<毒薬調合>レベル二と、スカルナイトクラスの比較的弱い召喚獣数体くらいだ。

 正直、かなりのエネルギーを余らせている。


 せっかくなので、そろそろ<錬薬術>のレベル二、余裕があれば<毒薬調合>のレベル三を解放して、どんなことが出来るか試してみたい。

 上手くすれば、記憶を失わせる毒薬とか作れるかもしれない。そうなれば、今後さらに動きやすくなるはずだ。


 とはいえあまり時間はかけられない。この町にはあと二人、不正取引をしているやつがいる。 

 早速解放し、毒薬創りに取り掛かった。 


 

 三十分ほどして、今ある素材をフルに使っていくつかの毒を作り出した。

 錬薬術レベル二の効果は、作った薬の主要な作用を増強させるというもので、例えば一時間ほど対象を麻痺させる薬なんかは、持続時間が二時間になるといった具合だ。

 たぶんレベルが上がればもう少しいろいろできるんだろう。


 さすがに記憶喪失させる薬なんて便利なものは得られなかったけれど、代わりになりそうなものはできた。

 飲んだ相手をべろんべろんに酔わせてしまう薬。

 酔わせるとは、酒を飲んでふらふらするアレだ。

 よくアルコールを飲み過ぎた人がその前後の記憶を失うなんて聞くけれど、それを疑似的に生み出せるのではないか、と思う。

 見た目は小ぶりな飴玉程度の、紫色した丸薬。とりあえず<酔い薬>と名付けた。


 これらは、作った時点でなんとなく浮かんできた知識だが、普通一粒で効果があるらしい。

 とはいえ念には念を入れて、二粒飲ませることにした。アルコールってめちゃ危険らしいけど、大丈夫だよね? こいつにだって罰を与えないと。

  

 結果はなかなかのものだった。

 飲んだ瞬間、顔が赤くなると思いきや真っ青になり、一気に脱力してその場に崩れ落ちたのだ。そして口から勢いよく胃液をぶちまける。

 かろうじて生きてはいるようだが、完全に泥酔してしまっている。こうなってしまっては、王の力で命令しても、動くことはできないらしい。

 よかった、こいつの部屋で。

 こんな酒臭いおっさん運んでいくとか絶対嫌だったし。 


 まぁでも、これなら忘れてくれるだろう。

 ついでに保管してあった酒をいくつか拝借して、何本か開けておいた。

 これで工作はばっちり。酒飲んで酔っ払ったとしか思えない。


 さて、残りの家も襲撃するか。あ、あと操ってた看守にもこの薬飲ませないと。





アルコールは危険です。下手をすれば死にますので、絶対に真似しないようお願いします。

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