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女顔の僕は異世界でがんばる  作者: ひつき
第三章 狡猾な冒険者
40/80

牙を持つ少女 八

申し訳ございませんが、今回はちょっと短いです。


次の話と統合しようか迷いましたが、ちょっと間に合いそうになかったということと、区切りいいところだったので、結局わけることにしました。

 昔々、まだ世界が、魔王軍との戦いで荒れ果てていた頃、四人の勇者が現れました。


 不思議な力と膨大な知識、そして優しく勇敢な心を持つ彼らは、卑劣な魔人によって虐げられる人々を助けながら旅をしていました。

 

 ある日噂を聞きつけた王様は、彼らに魔王討伐を依頼しました。


 魔王とは、人々を苦しめる悪い魔人たちの親分です。

 暴力で土地を奪い、農民から農作物を取り上げ、抵抗する者は問答無用で切り捨てる。そのあまりにも非道な性格と強い闇の力に、人々はみな、ただ震えることしかできません。


 そんな相手をたった四人で討伐しろなどと、到底無謀な話ではございましたが、王にはもうそれ以外の手は残されていませんでした。

 断られれば、それもやむなし。

 王も家臣たちも、半ばあきらめていました。


 しかし、大方の予想は覆されます。

 勇敢な勇者たちは、こともあろうに、二つ返事でそれを快諾。すぐに踵を返し、魔王の住む魔大陸へと向かいました。


 バカな連中だ。魔王の強さを知らないのではないか。

 勝手なことを吹聴する愚か者もおりました。 


 しかし、そんなはずはありません。

 聡明な彼らのことです。

 魔王の強さは十二分にわかっていました。

 しかしそれでも、困窮した人々を救うべく、彼らはわが身を差し出したのでした。

 

 それから、魔王討伐の旅は一年にも及びました。

 想像を絶するような困難、そして幾つもの卑劣な罠を乗り越え魔王城へと乗り込んだ彼らは、三日三晩にも渡る壮絶な死闘の末、ついにこれを破りました。




「――――彼らは、たった四人で、億にも上る人々に平和をもたらしたのでした。めでたしめでたし」 

「ゆ、勇者ってすごいんですね」


 ヨナがワユンに読んで聞かせているのは、いわゆる昔話だ。

 僕たちはワユンに最低限文字の読み方を教えるため、毎晩交代制で本を一緒に読み、聞かせているのだが、ヨナの方が圧倒的に読み聞かせが上手だったため、ここ数日はずっと彼女が担当している。


「フィクションだよ」


 童話を真に受け、感嘆の声を漏らすワユンに突っ込みを入れると、彼女は首を傾げた。


「ふぃくしょん?」

「つくり話ってことですよ、ワユンさん。ですがオーワさん、この本に書いてあることはノンフィクション、実話ですよ」

「へー、たった四人で王国の大軍でも敵わなかった魔王を倒したんだー」

「えぇ、そうです」 


 僕の皮肉交じりの感想に少しむっとして、ヨナは胸を張って断言してきた。

 え? うそマジで? 

 たった四人で魔王を倒すとか、それなんてクエスト? まさかドラゴンじゃないですよね。


 一瞬ふざけているのかとも思ったが、ヨナの雰囲気からしてそうでもないようだ。 

 僕が信じたのを感じ取ったのか、ヨナは満足げに続ける。


「彼らはすごい力を持ってたみたいなんですよ。なんでも、誰も知らない遠いところからやってきたらしくて、武器や料理など、様々な方面で新しい知識をもたらした、本物の英雄として知られてます」


 得意げに語るヨナの言葉に、僕は衝撃を受けた。

 その話が本当なら、それは日本でよく読んだ、ありふれた創作物のあらすじに似ていたからだ。


 それ、異世界人だろ、絶対。

 僕みたいに、転生だか召喚だか知らないけれど、異世界からやってきた人が俺TUEEEしてたってことか?

 きっとチーレム満喫してたに違いない。

 チーレム勇者⇒ハイスペック⇒リア充。

 あぁなんだ、僕の敵か。 


「じゃあワユンさん、漢字にはルビを振っておきましたので、今度は私に読み聞かせてください」

「はい」


 邪魔してはいけないと気を遣ってくれたのか、それとも僕の並々ならぬ敵意を感じ取ったのか。考え込む僕をスルーして、ヨナはワユンに絵本を渡す。

 こうやって交互に読むことが、一番手っ取り早いらしい。ワユンがつっかえたところに逐一突っ込んでいくヨナからは、少し熱が感じられる。

 誰かの役に立てることがうれしいんだろう。


 いまや教育ママさんと化しているヨナと、その子供のように従順に言うことを聞くワユン。その光景は平和そのものだった。

 勇者たちがいたから、この光景があるのかもしれない。

 そんなことを思うと、たとえ彼らがリア充だったとしても、感謝してもいいような気になった。




「なぁ、ワユン」


 いつも通り二時間ほど適当にだべりながら勉強につきあった後、ワユンを呼び止めた。


「明日は……」

「はい。わかってます。いよいよ、なんですね……」


 そう。

 明日はいよいよ、解呪装置がギルドに届く日なのだ。

 感慨深げにつぶやき、目を閉じるワユンが何を思っているのか。それは僕にはわからない。


 やがてうつむいたまま薄く目を開き、ワユンは滔々(とうとう)と語りだす。


「こんな日が来るなんて、思ってもいませんでした。生まれた時から、私はただ戦い、尽くすだけのものだったから。世界は真っ暗で、怖いものだと思い込んでました。

 でも」


 顔を上げたワユンの目は潤んでいて、でもそれは出会ったばかりの頃とは違う色をしていたから、僕は思った。


「でも、オーワさんとヨナさんのおかげで、私、思えたんです。世界はこんなにも明るくて、優しいんだって。毎日楽しくて、うきうきして。私は生きてるんだって、感じたんです。

 だから、ありがとうございました!」


 深々と頭を下げ、上がってきた顔には満面の笑みがあった。


 お礼を言われるようなことなどしてはいない。

 だから心苦しいとは思う。 


 でも、そんなのは一瞬でかき消された。

 この子の笑顔を見て、心に温かいものがあふれた。

 僕みたいなやつでも、人の幸せを見て、こんな気持ちになれるのだ。

 これは福音だと思った。

 僕もきっと、いい方向に進んでいるんだ。だから素直に、噛みしめよう。


「よかったな、ワユン」

「よかったですね、ワユンさん」


 涙を拭うヨナと僕の声が重なって、ワユンは再び笑った。




 翌朝。天候は晴れ。

 ワユンの新しい一歩を祝福するかのようにキラキラした朝日を受け、僕とワユンはゆっくりと街道を歩く。


 ギルドへは寄り道してから行くことにしていた。

 朝一番は非常に混雑する。解呪には多少時間がかかるため、ハンナさんから少し時間をずらすようお願いされていたからだ。

 だから、いまや完全にワユンの胃袋を捕まえてしまった例のマフィンを買うべくパン屋に寄って、ついでに今晩開くささやかなパーティーのため、ケーキも取り置いてもらった。


 パーティーとは言え、ワユンには申し訳ないが、ただおいしいもの食べるだけだ。

 リュカ姉たちがいれば、きっともっと派手で楽しいパーティーが開けるだろうに。

 そう思うと、少し残念に思う。

 

 リュカ姉たちは、まだ遠征から帰ってきていない。

 すでに当初の予定の三倍近い日数が経っているにもかかわらずだ。最近はワユンのことで頭がいっぱいだったからあまり気にしていられなかったけど、さすがに心配になってくる。

 マルコやエーミールさんも一緒だから、平気だとは思うけど。


 なんかリュカ姉は抜けてると言うか、心配なんだよなぁ。女の子だからか?

 いや、それだけじゃないか。なんかBランクのカリファは大丈夫な気がするけど、Aランクのリュカ姉は心配って、変な感じだ。


 その点、マルコやエーミールさんは安心できるよな。特にエーミールさんが事故とか考えられない。


 まだ彼らのことはよく理解していないけれど、特にエーミールさんは謎だ。寡黙で、ちょっと近寄りがたい雰囲気があるから、あまり会話していないということもある。

 なんか、マルコとは違う迫力があるというか、怖いんだよな。まぁ命の恩人だし、悪い人じゃないってのはわかるんだけどさ。


 リュカ姉たち、今頃どうしてるかな。事件とかに巻き込まれてなければいいけど。


「オーワさん? どうかされましたか?」

「あぁ、ごめんごめん。ちょっとぼけっとしてただけだから大丈夫。それよりも、あそこのベンチでマフィン食べようか」


 悩んでも事態は変わらない。

 それに今日はめでたい日だ。水を差しちゃだめだ。


 ゆっくりとマフィンを食べてから向かえば、ちょうどいいだろう。

 僕たちは並んでベンチに腰かけた。





次回から話が進みます。


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