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女顔の僕は異世界でがんばる  作者: ひつき
第三章 狡猾な冒険者
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お空怖い

 人は地に足つけて生きるべきだと思う。というか、地に足つけてないと生きられないのだ。

 浮足立つやつは、なんか落ち着かないからモテない。つまり子孫を残せないから絶滅しちゃう。 

 浮いてるものは滅ぶ。

 これは史実だ。

 ソースは空飛ぶ幻の島。

 ほら、某空ガールも言ってたじゃないか。


『土に根をおろし、風とともに生きよう』


 土がなければ生きられないのである。


 まぁ要するに。

 お空飛ぶのマジ恐怖。 


「はぁっ……はぁっ……」


 僕は今、目的の美しい湖畔に向かって盛大に胃の内容物を散布していた。栄養たっぷりだから、水中にすむ生物の発育に良い。

 何のためらいもなくその湖の水をがぶ飲みするワイバーンにとりあえずお礼を言い、使い魔ーズを呼び出し、早速魔物の駆除を開始した。


 プネウマから距離のあるこの湖に来たのは、ここら一帯で魔物が大量発生しているという話を、今朝ハンナさんから聞いたからだ。

 

 大量発生自体は、最近に限って、珍しいことじゃない。  

 だからここより好条件なところはいくらでもあったけど、できれば人が少ない場所を選びたかった。

 

 大量発生の駆除依頼は、出来高制だ。何匹倒せたかによって報酬が変わる。

 だから、一人であまりにも多くの魔物を倒してしまえば、他の冒険者の顰蹙ひんしゅくを買うことになってしまう。

 イザコザはホント勘弁です。

 異世界に来てまでお砂糖たっぷり砂糖水の如く、どろどろな人間関係は嫌だ。特に僕みたいな微生物的人間には、生きにくいことこの上ない。

 濃度六十五パーセントを越えたら死んじゃうんだぞ。ちゃんと配慮してほしい。


 とにかく、なるべく人気のない大量発生を斡旋してもらっている。

 人気のある、というのはつまり報酬の高い依頼であり、必然それは緊急性の高いもの――たとえば村や町の近くでの駆除が中心になる。

 だから僕は人里離れたところで、報酬の少ない厄介な魔物を相手にすることになった。


 それでもあるだけマシだ。

 不謹慎な話だけど、大量発生が大量に発生してくれているおかげで、懐もエネルギーも潤っている。

 他の冒険者たちが忙しい分だけ僕が得するとかマジ飯ウマ。



 冗談はともかく、大量発生はこの数週間で急激に増加していて、被害も尋常じゃなくなってきているらしい。


 とくに辺境の村などでは半壊滅状態に陥っているところもあり、盗賊や奴隷の増加と言った深刻な社会問題を引き起こしている。 

 盗賊は言わずもがな、奴隷の増加は国家的には税金収入の減少に、人的には値崩れによる奴隷の地位低下、つまり使い倒しの促進につながっているという。

 いくら人権がないとはいえ、さすがに問題視する声も上がってきているとのことだ。


 僕も人助けに参加した方がいいんだろうか。


 いやいや、自分と身内の問題すら解決できてないくせに、何を思い上がったこと考えてるんだ。

 正義気取れるのは圧倒的に強いやつだけ。

 そんなこと、小学校高学年の段階で思い知らされるだろうが。


 スクールカースト最高位にのみ主人公的セリフは許される。

 もし最底辺が『いじめはやめろ!!』などと言ってみろ。笑われていじめの標的にされ、挙句庇ったやつにまでいじめられること請け合いだ。

 ソースは略。

 宗太君、君のことは忘れない……いつかきっと倍返しだ!


 などとだらだら考えつつ、片手間に駆除していく。 

 この湖畔は林の中にあり、水中の魔物と林の魔物、二種類に対応する必要がある。

 けれど魔物自体は強くない。というか雑魚。

 ハンナさんにこっぴどく叱られたから、とりあえず今日くらいはDランク相応の依頼を受けることにしたけど、やっぱ退屈だ。

 ワイバーン兄貴の加入でさらに殲滅速度上がってるし、僕が動かなくても全滅させられるだろう。

 今日は一日、訓練に充てようか。


 ピクシーを脇にはべらせ、袋からくず鉄塊を取り出した。


 くず鉄はリュカ姉に紹介してもらった鍛冶屋のおじさんからちょくちょくもらっているもので、日々その体積を増やしている。

 今や総重量五十キロにも及び、巾着袋の容量的に限界が近いから、そろそろ新しい袋買うべきだろう。

 目標は一トンくらい? あればあるほどいいから、今後も育てていこうと思う。


 ピクシーは警戒兼モチベーション対策の役を担っている。

 訓練はひたすらに鉄塊をぐにぐにといじくってるだけだから、どうしても単調になりがちだ。

 するとどうなるか。

 採掘の時の二の舞……訓練⇒悪夢⇒悶絶⇒訓練のヘビーローテーションが発生してしまう。

 そのローテーションは重すぎる。ヘビロテが許されるのはかわいい女子だけ。かわいいは正義。


 そこでピクシーだ。

 ピクシーには時折モデルの役をやってもらう。ピクシーにかわいいポーズをとってもらい、その像をつくるのだ。

 目の保養にもなって、訓練にもなる。上手くできればピクシーが喜んでくれるからやる気も上がる。まさに一石三鳥。

 我ながら素晴らしいアイデアだ。ただ一点問題があるとすれば、失敗した時のピクシーの残念な顔。あれは精神ダメージが大きすぎる。




「じゃ、じゃあピクシー、次は後ろ向いてお尻突き出して……」


 ピクシーにちょっとエッチなポーズをとらせ、黙々と像を作り続ける。

 すでにできた像の数は十を超えていた。

 ピクシーにどんなポーズをとらせても、文句を言ってくるやつはいない。

 だから少々過激にもなる。

 それでも一線を越えない僕、ホント紳士。言い換えると草食系。いかにも健康そうな、健全男子である。


 使い魔たちは、従順すぎるほどに、僕を無条件で慕ってくれている。

 それはとてもうれしいことなんだけど、同時に怖くもあった。


 与えられるばかりで何も返せないというのは、見限られることへの恐怖をもたらすんだ。今ならヨナの気持がわかる気がした。

 片依存の果てを恐れて、僕は彼女らが従属する理由を時折考える。


 なぜ、君たちよりはるかに弱い僕なんかを慕ってくれるんだ?


 その答えは僕が考えたところで、きっと推測の域を超えないだろうけど、でも思ったことがある。

 恩返しも何もできない僕が唯一できるのは、僕自身が仕えるに値する強さと器を得ることだけだ。


「……完成っと。どうだピクシー?」


 パンツの皺一本一本まできっちりと再現し終えてピクシーに尋ねると、うれしそうな顔して宙返りし、人形の隣で同じポーズとったりして喜んでくれる。

 飽きもせず、よく付き合えるよなこんなこと。

 健気な妖精の頭をうりうりと撫で、昼休憩をとることにした。



 いつものサンドイッチを食べながら、ウィルムとシャドー、それから三日前新しく召喚した緑色のゲル状モンスター<アシッド・スライム>を呼び戻した。

 ウィルムはいいとして、シャドーとスライム。

 この二匹には薬草の類を採集してもらっている。

 

 シャドーにはよくある薬草の一つ<ナヤギ>を採取してきてもらっている。

 これはわかりやすい上にどこにでも生えていて、しかも鎮痛作用のある薬の原料として重宝する、とても優秀な雑草だ。調薬レベルが低くても加工できるため、練習材料にもってこい。

 いわゆる<薬草>とはこれを指している。


「シャドー、よくやった。午後も頼むな」


 大量の雑草を抱えた靄を褒め、草を回収して、スライムの方を見る。

 そのぶよぶよの体の中に、色とりどりの花や草、根っこが収納されているのが見てとれた。


「……いろいろ集めてきたなぁお前」


 アシッドスライムには、毒草を採取してもらっている。

 こいつらは戦闘能力こそ皆無だが、様々な毒を取り込んで成長するという特殊能力があり、治療にも使われる珍しい魔物だ。

 毒草にしろ薬草にしろ、トーシロの僕が採取するのは難しすぎる。この世界には写真が無いため、スケッチされた絵を見て判断するしかないから余計にそうだ。

 誰かに教えを乞うてもいいけど、それなら金を稼いで買う方がいい。僕は別に薬剤師を目指してるわけじゃないし。


 そこでこいつの出番だ。

 能力を生かして毒草をかぎ分け、片端から集めてきてもらう。それと図鑑を照らし合わせたり調薬術で成分を調べたりして、使えそうなものを選定するのだ。

 

 毒草を集める理由の一つは、『毒薬変じて薬にもなる』から。

 わざわざ苦労していろんな薬草ばかり集めるよりは、スライムで簡単に集められる毒草の中から有用なのを見つけて薬を作った方が、<調薬術>の訓練になると思ったのだ。

 それに、万が一毒を盛られたときに対処できるよう、知識と薬のストックは多いほうがいい。

 まぁ薬草から作られるありがちな薬は買えばいいし。


 そして二つ目。というかこっちが本命だったりする。

 僕はいずれ<毒薬調合術>のスキルも手に入れようと思っている。錬薬術とのコンボ、つまり対処不能な毒薬は武器になるからだ。

 これは<錬薬術>が使い物になるレベルになるまでおあづけだが、それまでにできる限り毒草はストックしておくべきだろう。


 アシッドスライムの体内からデロっと大量の草花が吐き出された。

 汚物処理係アプさん出動。

 ……収納のこと、真剣に考えなくちゃな。





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