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女顔の僕は異世界でがんばる  作者: ひつき
第三章 狡猾な冒険者
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錬金術

 スキル<解放>発動。


 僕は魔法の欄に注目した。


『水魔法LV1』『風魔法LV1』『土魔法LV1』『光魔法LV1』『闇魔法LV1』……『調教術LV1』『調薬術LV1』『呪術LV1』……『錬金術LV1』『火魔法LV4』『治癒魔法LV4』


 いまや膨大にある項目のうち注目したのは『錬金術』だ。

 別にカッコよさげだから、とかいう理由じゃない。いや、ちょっとはあるけど。

 リュカ姉やエーミールさんに聞いて回ったところ、錬金術師が希少であるということが分かったのだ。


 曰く、難しいとのこと。

 曰く、役に立たないとのこと。


 しかし、そんなはずはない。

 スキルの情報によると、錬金術はどの魔法よりもエネルギー消費が大きいのだから。


 このスキル<解放>は、いろいろな要素を加味したうえで消費量を厳密に決めている。

 そこに間違いはない。

 つまり、何らかの長所があるはずなんだ。

 それを調べるべく例の事典や他の書物(エーミールさんに借りた)を調べたところ、いろいろわかった。


 まず、魔法と術――魔術は違う。

 簡単に言うと、魔法は『ありえない』ことをやってのけるもので、魔術は『原理的にはありえる』ことをやってのけるもの、って感じだ。


 正確に言うと、魔法は魔力をそのまま物質、たとえば水などに変換し、操ることになる。原子を作り出すことが出来ないなんてことは、地球上の理論だけど、当たり前だ。

 まぁ実際には、ビッグバンとかによって一度は無から生み出されてるわけだけど、こんな簡単にできるものじゃないことくらいはわかる。

 だからありえないこと。


 そして魔術。

 これは魔力によって物質を操るというものだ。

 科学に近い。

 そこにあるものを操って効果を発揮する。

 よってありうること。


 その違いは大きい。

 魔術は物質を操るのだから、イメージがより大切になる。加えて能力を最大限引き出すためには、目に見えない原子とかを操る必要がある。

 そしてこの世界では、いまだ原子だとかいう理論が確立されていない。つまり完全には使いこなせていないことになる。

 当然、効果は少ない。

 しかもそこになければ上手く発動しないということで、魔法よりも劣っているのだとみなされているらしい。

 だから魔術は遅れている。

 これはすなわち、科学の遅れにつながっている。

 と、僕は考えた。


 この世界の生活水準は、先にも言ったとおり、決して地球のそれに劣っているわけじゃない。

 地球よりもはるかに発展しているものがある。

 例えば魔石を利用した服なんかがそうだ。 


 対して、圧倒的に劣っているのが、科学だ。

 魔法があまりに便利なために、発展の際、目を向けられなかったことが大きい。


 明かりが欲しい ⇒ 光魔法がある。

 温かさが欲しい ⇒ 火魔法がある。

 涼しくしたい ⇒ 水魔法がある。

 病気を治したい ⇒ 治癒魔法がある。 

 便利な道具 ⇒ 魔法を魔石に込めればいい。


 などなど。

 それらを組み合わせれば、なるほどほとんどのことが出来てしまうのだ。

 

 便利ゆえに劣る。 

 だから小難しい、肉眼では視認することすら敵わないミクロな世界に目を向けることなどなかった。

 

 だが、僕は違う。

 地球には魔法なんていう便利なものは存在しなかった。

 今考えれば恐ろしく不便な世界だ。

 けれど、だからこそあの世界の人たちは頭を使った。


 不便だからこそ、発展があった。

 そして僕は、それなりに知識をかじってる。

 

 いじめられっこの特徴として、敵をギッタンギッタンにする妄想に浸るというものがある。

 そして実行する勇気もないのに、パソコンとかで『面白サイエンス』だとか『ちょっと危ない化学』だとか調べて爆弾とか作る妄想をするのだ。


「……うぅぁぁ……」


 あぁぁ恥ずかしぃいい!!

 ……とにかく。

 授業で習ったこと以外にも多少の知識はある。

 つまり、僕はこの世界の誰よりも魔術を上手く操れるはずだ。


「『錬金術』解放」


 解放すると、空間に魔力を流し込む感覚が湧いてきた。

 相変わらず、忘れていたのを思い出す感じで、ちょっと気持ちがいい。

 アハ体験です。


 そして同時に、何ができるのかなんとなくわかった。


 どうやら錬金術は、金属類を操る魔術のようだ。

 手を地面にかざすと、なんとなくそこにあるものが何か、知識が流れ込んできた。

 試しに一メートルくらい先に鉄でできた棘を出現させようとすると、小さな棘が地面から勢いよく飛び出した。


「……しょぼ」


 高さ約十センチ。

 うぅむ、しょぼい。これはレベルが低いからだろうか。

 それともイメージが微妙だから?

 にしても魔力消費量は結構なものだ。火魔法よりはるかに燃費が悪い。

 発展しないのもうなずける。


 まぁとにかく、実験あるのみだ。

 レベルを上げるのは使えるとわかってからでも遅くはないだろう。



  

 実験は、結局数時間にもわたった。 

 けれどそのおかげで、かなりの収穫があった。


 まず、この世界に存在する金属の種類。

 幸運なことに、これはほとんど地球と同じだった。

 ちょくちょくよくわからないものもあったが、そもそも僕自身、すべての金属を把握しているわけじゃない。

 主要なものさえ一致していればいいのだ。


 次に操れる金属の種類。

 どうやらすべての金属が操れるわけではなく、金や銀は操れない。また、操る金属の種類によっても必要な魔力が違い、硬いものほど操りにくいようだ。

 うぅん? 金は柔らかいはずなんだけどな。

 そこはよくわからなかった。


 次に操るレベルだが、これは恐ろしくミクロなレベルで可能だった。

 難しいことを言うと金属原子の結合に関与する自由電子の話になるが、要は『温めてないのに金属を薄く延ばしたり自由自在に操ることが出来る』ということ。

 魔力によって自由電子に運動エネルギーを与えているのだが、なにぶん恐ろしく小さいものだから、これにはほとんど魔力を消費しない。

 

 一番重要なのは『自由電子が動き回る=熱を発生させる』ということだ。

 簡単に言うと、魔力を込めるほど金属が熱を持つ。

 しかも消費量はほとんどなく、加えて僕の魔力量は多い。


 つまり、規模を大きくすれば敵の足元に高熱を孕んだ金属の沼を発生させたり、メチャ熱い金属をぶっかけたりできるのだ。

 金属の融点は物によるが、たしか鉄なら千くらいはあったはず。


 もはや形ある炎だ。


 これは確実に、僕だけの武器になる。

 

 最後に規模。

 これは込める魔力量によってある程度調節が効いたが、実用的なレベルには至らなかった。

 しかしレベルを二に上げたとたん、一気に増大した。やはりレベルを上げることで成長するらしい。


「よしっ」


 整理を終えると、達成感が湧いてきた。

 ようやく、使い魔たちに頼らなくても戦える目処が立ったんだ。

 うれしいに決まってる。


 レベルを三に上げるとさすがにエネルギー残高が心もとなくなったが気にならない。

 早く試したくて仕方がなかった。

 意気揚々と部屋を後にした。



 早速発見したのは、六体の巨大なラットだ。

 動きが速く、牙による攻撃力も高い。何より集団で行動するめちゃ厄介な魔物。かわいい見た目はトラップである。


 ちなみになんどかこいつらから僕を庇って、アプサラスが犠牲になっている。

 この野郎。なんどもアプさんに食らいつきやがって。

 死刑確定だ。


 げっ歯類の分際で、やつらの反応は速かった。

 僕を確認するなり小動物特有のちょこまかした動きで迫ってくる。

 速い。

 普通のネズミの動きをそのままに巨大化しているのだ。

 そんなことは当たり前だった。

 ――でも。


「そんなのカンケーねぇっ!!」


 勢いよく地面に手を突き、魔力を流し込む。

 同時に、ネズミたちの真下から僕の目の前にかけて出現したのは、金属でできた沼だ。

 床一面――横幅は五メートルほどで、縦は十メートルにも及ぶ。

 でかい。

 できた瞬間自分でも驚いた。


 ネズミどもはなすすべなく足を高熱の金属に絡め取られ、鼓膜をつんざくような高音の悲鳴とともに沈み始めた。


「うるさい」


 ので、その上から液状のアツアツスチールをぶっかけてやると、悲鳴とともにネズミの姿は消えた。


「ふははは!! 思い知ったかこのげっ歯類風情が!!」


 あれだけ苦労したやつらを、こんなにたやすく倒せるなんて……笑いが止まらないぜ、まったく。

 圧倒的に優位に立つと態度が以下略。


 何よりいいのは、この沼、敵の強さに寄らないのだ。

 どんなに硬かろうと、沼に落ちてしまえば生き埋めにできる。

 まぁ空飛んだり金属を吹き飛ばしたりされたらどうしようもないけど、たいていの魔物はこれでいけるはず。


 深さはまだそれほど深くできないし、地形上の制約もあるけれど、深さはレベルを上げることで、制限は普段から金属類を大量に持ち歩くことで、それぞれ克服できる。


 それに沼なら、硬度を考えなくていい。

 つまり、そこにある金属ならほとんど使えるということだ。

 まぁうっかり沼の中に沸点の低い金属を混ぜちゃって、それが気化して僕が吸い込んでしまうなんてことがあれば一大事だけど、沸点が低くないとわかってるものを使えば問題ない。

 というかほとんどが沸点高いし。


 結論。

 この沼、使える。


「名付けてヒート・マーシュだ」


 意味は熱い沼。まんまである。

 恥ずかしくて身悶えたのは言うまでもない。名前付けんのやめよう。

 

 

 何度か魔物を倒して、天敵に遭遇した。


 でっかい蝙蝠だ。鋭い牙がマジ凶暴。

 これも厄介な魔物で、素早いのはもちろんのこと、上空から攻撃してくるから攻撃を受け止めづらい。

 何よりムカつくのは、その攻撃方法だ。

 血を吸ってくるのだが、あれは恐ろしく気持ちが悪い。


 だから死刑決定だ。


 向かってくる蝙蝠を睨みつけ、地面に手を添える。

 沼の弱点がまさにこれ。

 飛んでるやつには効果が無い。


 ならば使うのはこれだ。

 魔力を込めた瞬間、壁と天井、そして地面から無数の棘が伸びた。

 あれだけ多くの棘が八方から迫れば、いかに素早かろうと避けることはできない。

 蝙蝠は無残にも貫かれ、悲鳴もなく絶命した。


「……うん、これはいい」


 洞窟内でしか使えないが、なかなかの威力だ。

 なにより、敵が飛んでいようと地面を這っていようと効果があるというのが大きい。

 惜しむらくは敵が硬いと効果が無いということ。純鉄は硬いけど、この世界の魔物にはそれ以上の硬度を持つものだっている。

 たとえばスカル・デーモンだ。

 それでも、戦いには十分使える。


 何度か戦いを繰り返してみたが、先の二つは安定して使えることが分かった。

 まだ複雑な操作とかには時間がかかるが、この調子ならいくらもしないうちに自由自在に操れるようになるだろう。

 いい感じだ。





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