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女顔の僕は異世界でがんばる  作者: ひつき
第三章 狡猾な冒険者
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新しい召喚獣

『ペンは剣より強し』


 そんな言葉がある。

 大人たちが子供にドヤ顔で教えることわざベスト十に入るだろうと、個人的には思っている。

 勉強させる口実だ。


 よく言ったものだとは思う。

 しかし、この際はっきり言おう。

 バカかと。


 僕はその言葉が嫌いだ。

 あんなちっちゃいペンでどうやって剣と戦えと? 

 あれか? 全長二メートルくらいのペンだってか? 

 それはペンじゃない、槍だ。

 卑怯である。


 いやいや、別に本当の意味を知らないわけじゃない。

 『言論の方が暴力より強い』だとか『勉強できる方が喧嘩強いよりいい』みたいな感じで使われてるってことぐらいわかる。


 けどこれ、権力が無いとなんの意味もないらしい。

 元々『俺っちのバックにはちょー偉い人いんだぜ? ここにサインするだけでお前ら全員即お縄よ!!』的な意味だったようだ。

 昔調べた。

 本当にペンの方が強いと思って喧嘩して、ボッコボコにされた後にこれを知った僕の気持ちがわかるか、瀬名川先生?(小学校のころの担任)


 要はチクリ最強ということだ。


 でも多くの人がご存じのとおり、チクリが無敵でいられるのは小学校低学年までだ。

 それ以降は、いじめがエスカレートする起爆剤にしかならない。

 加えて『ちんチクリ野郎』だとか『チクリ魔』とかいうわけのわからない称号を得ることになる。

 なんだよちんチクリって。

 僕の名前にちんだとかチクリだとかなんて入ってないぞ? 

 だからあれは僕のことじゃなかったんだ。

 僕は決して『ちんちくりんのチクリ野郎』じゃない。


 まぁとにかく、そういうわけでその言葉、改正した方がいいと思います文部科学省様。


 改正案『チクリは剣より強し。ただしガキに限る』

 

 

 さてと、本題。

 要するに僕が言いたいのは、なんだかんだ言って力こそすべてということだ。

 

 先週のリュカ姉の事件と言い、その前のいろんな事件と言い、そうだ。


 そして僕には、力が足りない。

 もっと強ければ、なんて思ったことばかりだ。こんなことじゃ、ドラゴンに対抗することはできないだろうし、戦ったとしてまた大事なものを危険にさらしてしまう。

 それになにより。

 僕が死んじゃう。  


 ということで、しばらくは冒険者ランク云々よりも、まず鍛えることにした。

 先の事件のおかげで名前は結構売れたし、これならドラゴン討伐の時置き去りにされることも無いだろう。

 

 


 今僕は、町の外の街道にいる。


「出でよ<ビッグ・パンサー>」


 召喚したのは巨大な虎、サーベルパンサー。ぶっとい牙がチャームポイント。

 まじイカシてるぜ兄貴、肉食そのものの顔してます。


「今日も頼むよ」


 その背に飛び乗り一声かけると、パンサーは街道沿いを勢いよく駆け出した。

 街道のど真ん中を行かないのは、事故を防ぐためだ。

 礼儀正しい猛獣です。


 デーモン討伐で得たエネルギーは膨大だった。

 それを貯めておいてもよかったのだが、せっかくなので移動手段をと思い、選んだのがこいつだ。

 速度はダッシュ・リザードに劣るものの、それを補って余りある戦闘能力がウリ。


 まぁ強いのは当たり前か。

 なんてったって肉食。

 獲物を狩るのは専門分野である。

 視覚、嗅覚、そして見つけた獲物を逃さない瞬発力……そのすべてが弱者を狩るのに使われている。

 召喚した分のエネルギー程度容易に稼いでくれた。

 さすがは肉食獣。



 野を超えると、山が見えてくる。

 リュカ姉がスルーした山だ。

 この山の中腹あたりにある洞窟が今アツい。鉱山よりやや強い魔物が出る上、大量発生のため出入り禁止となっている。

 討伐はBランク以上の依頼となるが、とくに害があるわけでもないため放置されてきた。

 リュカ姉曰く、穴場。


 リュカ姉にはちょくちょく剣を教えてもらっている。

 彼女によると、僕には力とかはそれなりにあるのに、戦闘技術とか運動能力が低すぎるとのこと。

 当たり前だ。

 そもそも戦闘童貞を捨てたのが二月前のことなんだから。

 元々期待してないし、そっちは最低限でいいというスタンスは変えない。



 洞窟に入り、ピクシーに明かりをつけてもらう。


「……相変わらず、薄気味悪いなぁ……」


 魔物の声が奥から聞こえてくる以外はほぼ無音で、空気は湿っている。

 昔の僕だったら絶対入ろうなんて思わなかっただろう。


「パンサー、好きな様に狩って来てくれ。魔石はこの袋の中によろしく」


 袋を渡すと、パンサーは勢いよく駆け出した。


「出でよ、<アプサラス><ウィルム>」


 唱えると、前方に巨大な魔方陣が浮かび上がり、そこから巨大な、芋虫のような蛇のような化け物が姿を現した。

 ワームみたい。

 でも、ワームじゃない。

 決定的な違いは顔の部分だ。鋭い目に巨大な牙を持ったそれは、ドラゴンだと言われても頷ける。大蛇にしては体が太く、ワームにしてはカッコいい。


 ウィルムにも同様の指示を出すと、ずるずると体を引きずりつつ奥へと消えた。


 使い魔、まぁあれはむしろ召喚獣と言った方がいいか。それらを召喚する際に使うコストは、単純な強さだけではないと最近になってわかってきた。

 単純な強さなら、ウィルムやパンサーより圧倒的にゴーレムの方が上だ。

 にも関わらずウィルムの方がコストが上なのは、使い勝手のほかに、あれの特殊能力にある。

 まぁそれについてはおいおい説明するとして。


 ゴーレムは使い勝手が悪い。

 とてつもなく遅いから、狩りにはまず使えない。

 加えてあの大きさだ。

 スペースがなければ召喚することすらできない。 


 パンサーは狩り、ゴーレムは強さ、そしてウィルムは特殊能力。

 これからは役割分担なども考える必要がある。



「さてと、行くか、二人とも」


 二人に呼びかけて、僕は奥へと向かった。




 しばらく戦闘を繰り返し、疲れたので手ごろな小部屋へ入った。


 戦闘は、基本的に僕とアプサラスが遠距離から魔法を放って戦う。

 索敵役はピクシーだ。

 さすがにこのレベル相手だと、ピクシーには荷が重すぎる。


「しっかし……疲れた」


 かなり威力と精度を増した火魔法レベル三とアプサラスのコンボでも、ここの魔物は瞬殺とはいかない。

 まぁBランクがパーティーを組んでくるような場所だ。

 当然ではある。

 むしろ戦える方がおかしいのだ。文句は言うまい。


「……感謝すべきなんだろうな」


 魔法の才能に。

 どうやら僕にはそれがあるらしい。

 イメージはなかなか難しいが、それでも一度使えれば固まってくる。最初以外は、あまりハンデにはなり得ない。

 となると、あとは魔力量の問題だ。

 これに関しては、圧倒的に多い。

 あのカリファに比べてだ。

 カリファは子供のころから魔法を使っていた、言わば魔法の天才だ。

 魔力量は体力と同じで、鍛えたり魔物を倒すことで上がっていくが、昔からずっと使い続けてきたカリファよりも多いというのは、そういうことなんだろう。

 まぁ、ラッキーということで。

 うれしい限りだ。


 壁にもたれ腰を下ろし、一息ついた。 

 こういう小部屋にはたまに魔物がいるが、ゲームのようにトラップがあるなんてことは無い。

 魔石内臓型時計(お値段四千G)を確認し、いったん二匹の魔物を呼び戻すことにした。


「出でよ<シャドウ>」


 魔方陣から出てきたのは、黒い靄だ。とても生き物には見えない。

 だが、立派な生物だ。

 実体もある。触ろうと思えば普通に触れる。

 ちなみにけっこうもふもふしていて気持ちがいい。

 

「二匹を連れてきてくれ」


 指示すると、ひゅんっと、まさに風のように去りぬ。


 あれには戦闘能力が無い。

 皆無だ。

 けれど、それを補う速さと擬態能力を持っている。さらに索敵能力まであるのだ。

 

 何を感知しているのかはわからないが、半径五百メートル程度なら、間にどんな障害物があろうと標的を見つけ出す。

 まぁ、よく知ったものに限るという欠点はあるが、それでもとても有望な斥候である。


 

 のんびりお昼を食べていると、二匹が帰ってきた。

 パンサーから受け取った袋には、大量の魔石が詰まっている。

 さすがだ。

 魔石を僕の袋(六十キロまで収納可能。お値段六万八千G)に移し、お礼に肉の塊を放ると、上手に口でキャッチして、再び洞窟の奥へとのっしのっし向かった。


 そして、ウィルムだ。

 いつものように尻のあたりをこちらに向けている。

 

「……うぅ……」


 僕は顔を背けた。

 考えるな。あそこから出てくるのは魔石の結晶――宝石なんだ。

  

 そう。

 ウィルムの特殊能力とは、捕食した魔物の魔石を体内で融解し、精練し、自身の魔力や他の魔石と融合して、一つの結晶にするのだ。

 どこから出てくるかは、察しの通り。 


 カラン、という音を聞き、振り返った。

 背後には心なしかすっきりした感じの芋蛇と、一抱えほどもある漆黒の宝玉がある。


「……アプサラス、頼む」


 とりあえずアプサラスに洗えと命じると、眉一つ動かさずに水の球体でそれを包み込み、シェイクし始めた。

 さすがアプさん、仕事人やで。



 散々磨かれた宝石を受け取ると、あまりの重さに取り落としそうになった。まるで巨大なボーリングの玉だ。

 初めてこれをギルドに持って行ったときは、めちゃ驚かれてしまった。

 どうやらこうなると魔石とは見なせないらしく、ギルドで引き取ってはもらえない。


 しかし、紹介された宝石商に持っていったら、なんと一つ五万Gで売れてしまった。しかも、手に入るだけ持ってきてくれと頼みこまれ、専属契約までしてしまう始末。


 あれはもうちょっと考えとくべきだったかな。

 なんか調子に乗ってホイホイ契約しちゃったけど、きっと高く売ろうと思えばもっと違うところへ持って行けたはずだ。

 まぁでも、そんなことに時間使うよりは、魔物倒してた方が有意義ではあるか。


 餌をやると、ウィルムも再び洞窟へ向かった。


 本当ならもっと凝縮させればいいのだが、限界はある。

 限界を超えると勝手に消えてしまうため、どうしてもちょくちょくこの不快な作業をしなきゃいけないところが難点だ。

 まぁそれで金が手に入ると思えば、安いか。


 さてと、エネルギーはどれくらい貯まったかな?

 確認すると、大体目標量を超えていることが分かった。


「さて、それじゃあ始めるとするかな」


 寂しいほかに、うれしくても独り言が増えるのは、もはや不変の心理です。(誤字)

 

 前置いて、もう一つの目的を果たすことにした。





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